第14話 メスガキの波動を感じろ!
やはり私は天才だと思うんだ。
エマが声を出さないなら、メッセージを打たせればいいじゃない!
つい最近、矢崎が私に買い与えてくれた新しい携帯。
こいつを使えば私とエマの端末でメッセージをやり取りできる。
「ほーらエマちゃん、メッセージアプリですよぉ! これでハズレお姉ちゃんと声無しでも会話できまちゅよー!」
新たな可能性に胸を膨らませ、テンションが多少バグっている私はエマに怠絡みしていた。
だって、エマとの会話が楽しみすぎる。
「…………」
エマからは何も言わないけれど、大層機嫌の悪そうな顔をしていらっしゃる。
いや、殆ど表情筋が死んでるエマの本心なんてわからないけど。
しかし、最近は何となく変化の少ない顔からでも、エマの感情の起伏が分かるような分からないような……。
なんにしても、これで妹分とようやっと会話ができる。
丸投げされたエマVTuber化計画の足掛かりが遂に……!
しかし、文字で会話するならメッセージアプリなんぞ使わなくても、今までも紙とペンで交流できたのでは?
そんな疑問も浮かんで来たが、過ぎ去った日々の可能性は握りつぶす。
今はこれから先の事を考えようじゃないか。
まずは私からメッセージを送る。
『エマ、なんか言ってみて』
果たしてどんなメッセージが返ってくるだろうかと思って、胸を躍らせる私。
しかし、私の期待を他所にエマは余りにも通常運転だった。
『ん』
画面上には無情にも一文字だけが映し出される。
『エマちゃん?』
『ん』
『エマ……?』
『ん』
……………………。
「舐めてんのかテメェエエエ!」
「………………ん」
コイツ、マジでなんなの⁉
リアルで喋れなくてもネット弁慶くらいにはなれるだろうと思ったら、リアルより酷い!
顔が見えない分で、メッセージだと更に個性が薄くなってるわ!
「そんなに私と話したくないか⁈」
「んっ」
「即答するなぁああああ! 普通に悲しくなるだろうがっ!」
どうにもなんねぇよこれ! だってすっげー面倒臭そうな顔してるもん!
エマ本人に現状を改善しようという意思が全くねぇよ!
「なぁ、エマさんよぉ! 何でも言う事聞いてやるから、 1回くらい何か言ってくれよ!」
「…………」
――ピロンッ!
真顔のエマから新しいメッセージが届いている。
どうにも返答が早かった。
「どーせまたお得意の『ん』だろぉが!」
そんことを言って携帯画面を見ると、そこには衝撃の文字列が――。
『ざっこ〜♡』
――――。
――――――――。
――――――――――――は?
届いたメッセージを脳が処理するのに数十秒掛かる。
お前の最初のセリフ、本当にそれでいいのかよ……。
エマは、ネット弁慶ならぬネットメスガキだったらしい。
『あ~あ、何でもするとか言っちゃって……♡』
『必死に年下の女の子にお願いして、恥ずかしくないのぉ♡』
『だっさ~♡』
どうしよう、エマのメスガキ化が止まらない。
「おい、無駄に解像度の高いメスガキを披露するな。もう黙っていいぞ」
『え~、どうしようかなぁ♡』
「とりあえずハートマーク付けるの止めようか。なんかムカムカするわ……」
『ん♡』
遂にいつもの『ん』にまでメスガキが侵食してやがる!
ハートマークを付けるだけでちょっとエッチになるのなんなんだろうね……。
「にしても、どこでメスガキ構文なんて覚えやがった」
エマがそういう類のコンテンツに興味があるとは思えない。
もしや、矢崎か葛西が仕込んだのか? 最低な野郎どもだ!
私の妹分をこんなにしやがって! 絶対に許せねぇ!
『前にハズレお姉ちゃんが私の携帯で見てたエッチな漫画の広告でやってた♡』
犯人は私だったらしい。大変申し訳ございませんでした。
ちょっとサイト巡りをしていたらエッチな広告が目に入っちゃったんだもん……。
心の中のオジサンがむっくりと顔を上げてしまったんだ……不可抗力だよ。
『矢崎と葛西も呆れてた♡』
そういえば、私たちの携帯ってアイツらに監視されてたわ。
あーあ、終わりだ。
絶対に14歳のマセガキがエロ本読んで興奮してたと思われた。
その通りだけど。
「もしかして、矢崎が私の携帯を急いで用意してくれたのって……」
そういえば、端末を用意するのは時間が掛かると言っていた割に私の携帯はすぐに届いた。
エマの携帯でエロ本を読ませないためだったんじゃ……。
ダメだ、もう考えるのは止めよう。誰も幸せにならないよ。
今はそれよりも――――。
「にしても急に饒舌になったな、エマ。そんなに私に叶えて欲しいお願いがあったのか?」
『ん♡』
私にお願いしたいことってなんだろうか。
軽はずみに何でも言う事を聞くとか言ってしまった。
つい最近、自分で吐いた言葉の重みを理解させられたばかりだというのに……。
矢崎の野郎、何が百合営業だ。
これから私はこのメスガキとコンビを結成して人前でイチャつくのか?
先が思いやられるぞ。
「はぁ……。で、何をして欲しいんだ?」
『歌って♡』
歌か。どうにもエマは私の歌が好きらしい。
私の初配信でもエマはヤケクソ歌企画を熱心に見ていた。
「そんなにいいもんじゃないけど?」
『ハズレお姉ちゃんは良い声してる♡』
私には全く分からないけれど、エマには何か感じるものがあるのだろうか。
なんにしても、褒められて悪い気はしない。
「そっか……。じゃあ、良いけど」
『やった~♡』
うんうん。喜んでくれて何よりだ。
それはさておき。
「で、そろそろホントにハートマーク付けるのやめような」
今度はメッセージではなく目の前のエマから直接応答があった。
「……ん」
いつも通りの一音の返事とつまらなそうな無表情。
やっぱりエマはこのくらい不愛想なくらいが丁度いい。




