第12話 反省会
エマとベッドで横に並んび、極東ミネネでエゴサーチをしていると部屋の扉が開かれた。
人様の家へ上がり込むのにノックもしないとは、とんだ不逞だ。
いや、人様の家の一室を占拠してる私が不逞なのか?
「オウ、家主が来たぞ! テメェら好調か?」
ヤクザの爺があらわれた!
楽しそうにコチラを見ているぞ!
声を掛ける
▶無視する
「エマ、この企画どうだった? 結構自信あったんだけど」
私は矢崎を無視してエマに話しかける。
もちろん、エマから返事は無いが小首を傾げているから評価はイマイチといったところだろうか。
ちなみに全く自信のなかったヤケクソ歌配信を見ているときのエマは、若干楽しそうな雰囲気を出していた。
歌で勝負できるとは思わないけれど、たまにやる分にはウケが良いのかもしれない。今後の選択肢として一考の余地ありだ。問題は私の羞恥心が刺激されることだろうか。
「オイ、無視するなハズレ。流石に怒るぜ?」
「うるせぇなぁ。こっちは疲れてんだよ」
「お前、随分と態度がデカくなったな……。ちと馴染み過ぎじゃねぇか…………?」
矢崎は私の態度に随分と呆れている。
だが、関係ないね!
私は矢崎から最初に言い渡されていたチャンネル登録者 1万人という目標値を自らレイズし、その上で達成してみせたのだ。
もう奴は私を簡単に切り捨てることはできない。今後は対等の立場として、私も相応の態度を示させていただく。
「いつまでもエマの携帯を使わせるんじゃ悪いと思って、ハズレ専用の端末も用意しようかと検討してたんだが…………。必要なさそうだな」
「どなたかと思えば矢崎様ではございませんか! いやぁ、失礼いたしましたっ! ついさっき起きたところでして、私、寝ぼけていたみたいです!」
「「…………」」
矢崎のみならずエマからも蔑むような視線を向けられる。
しかし、その程度で私のメンタルは崩れない。
強者に胡麻を擦ることに関しては一家言あるんだ。
私を舐めるんじゃんねぇ!
「ハァ……。もういい、ちょいと移動するぞ」
てっきり、私は配信室に移動するものと思っていたのだが、辿り着いたのはいつか訪れた事務所の一室。
私は高そうなソファーに腰掛けていた。
「いやぁ、初めてここに連行されたときが懐かしいっすわ」
「まだ二週間とそこらしか経ってねぇけどな。ふんぞり返りやがって、偉くなったもんだ」
「私、天才ですから」
「皮肉が効かねぇ奴だ……」
さて、冗談はこのぐらいにしないと手痛い仕置きがありそうだ。
私は姿勢を正して意識を切り替える。
「まあ、そうありたいって話ですがね。それで矢崎さん、本日はどういったご用件ですか?」
態々こんな部屋に連れてくるんだ。長話になるんだろう。
「へっ、良い気位だ……。今日は、初配信の反省会をして貰おうと思ってな。葛西と田村も来る。少し待て」
なにやら引っかかるニヤケ面で矢崎はそう語った。
どうにも嫌な予感がする。
◆
私が事務所に通されてから暫くすると矢崎の言葉通り葛西と田村がやってくる。
「「お疲れ様です!」」
「オウ、座れ」
「どうもー」
いかめしく二人に座るよう指示を出す矢崎に続いて、私は緩く挨拶を送る。
「テメェは、もう少し緊張感を持てねぇのか?」
葛西は私に抗議するが、今更そんなことを言われても困る。
人間は適応能力に長けているのだ。二週間も居れば慣れる。
なにより実家での生活を思えばここは快適過ぎた。
「無駄に緊張しても疲れるだけじゃないすか。真面目な話をする心の準備はできてるつもりっすよ」
「ハッ、心の準備ができてんなら早速話を始めるぜ」
矢崎も早々に話を進めたいらしい。話の分かる爺で助かる。
矢崎は田村の方を向いて顎先で指示を出す。
それを合図に田村から滔々と初配信についての報告が始まった。
「まず初配信の結果ですが、全員承知している通りノルマは達成できてます。配信を終えて丸一日。今のチャンネル登録者は14万人まで伸びてます。ネットニュースになったことと、切り抜き動画の企画でまだ伸び代がありそうです。SNSを見ても評判は上々、 100時間配信なんてぶっ飛んだ企画をやりぬいたことが評価されてる」
「もっと褒めてくれてもいいですよん」
私は調子に乗って野次を飛ばすがツッコミがない。
いつもなら葛西あたりから苦言があるはずなんだが……。妙に場がしらけている。
不穏な空気を感じていると、矢崎からおかしな指摘をされた。
「確かに数字上のノルマは達成した。よくやったなハズレェ。――だがオメェ、約束を 1つ反故にしやがったな?」
…………?
この爺は遂に脳みそが縮んじまったのか?
ノルマを達成したのにこんな事を言われる云われはない。
こういうのは素直に聞くに限る。
「わかりませんねぇ。何の話です?」
「ハズレよぉ、自分の啖呵を覚えてるか?」
はて、なんだったか……。
あの時は無理やりテンションをぶち上げて勢いで喋っていたから記憶が曖昧だ。
『最低 100時間だ……私が単独で初配信を100時間以上ぶっ通しでやり続ける。もちろん不眠。終わりは私が気絶するまで。100時間経つ前に私が寝たらあらゆる手を使って叩き起こせ。必ずやり遂げてやる……』
どこからかボイスレコードが再生される。
「態々そんなもん録ってたのかよ……」
「言っとくが、今も録ってるぞ」
葛西がポケットからレコーダーを取り出す。
どこまで本気なんだこのアホ共は。
「で、結局何が言いたいんで?」
矢崎は私の言葉にニヤリと笑みを作り一言。
「ハズレ、オメェ気絶する前に配信切っちまったろ」
と、とんでもねぇ難癖をつけやがった。
だが確かに、私は『気絶するまで』と言っている。
クソみたいな録音のおかげで自分が言ったこともしっかり思い出した。
とはいえ――――。
「ノルマは達成した。登録者14万人だぞ? そ、それでも、私を断罪しようってのか?」
こんな下らないことで……?
しかし、問うておいてなんだが、答えを聞くまでもねぇ。コイツらはそのためにこんな時間を設けやがったんだ。
ふざけやがって! 何が反省会だ!
「勘違いしてやいねぇかハズレ? これは断罪じゃあない! ケジメだ!」
なーにがケジメだ馬鹿が。
表現の違いでしかない……。だが、どうする?
私は不意の窮地に立たされて頭が回らない。
何か、打開する方法――――。
いや、そんなもんない。
私の両脇には葛西と田村がいる。逃げ道もない。
どん詰まりだ。
「何しようってんだ……? こっちだって只で死ぬ気はねぇぞクソ爺ィ!」
女の、それもガキの私の力なんて高が知れてる。殴ったんじゃダメージにならない。
飛びついて首を嚙み切ってやるか?
「オウオウ、すげー目付きしてやがるなハズレ。そりゃオメェ、殺しの面だぜ?」
私は根っから善人じゃない。正真正銘の屑とはいえ、肉親を見捨てるような人間。
自分が理不尽で殺されるくらいなら、私は相手を先にぶっ殺してやる。
何が悪い?
死ねよクソ爺。
「ハッハッハ! 全く良い面構えだ! だが、待て。何にもオメェを殺そうって話をするつもりじゃない」
こっちはいつでも戦争をおっぱじめる準備が整っているというのに、矢崎は痛快そうに笑う。
「いやいや、まさかそんなおっかねぇ顔されるとは思わなかったぜ。見ろ、田村なんかブルッちまってるじゃねぇか! ダッハッハ!」
言われて田村の方を見れば、奴は額に脂汗を垂れ流している。
私と目が合うと勢いよく顔を逸らされてしまった。
なんだコイツ? 人の顔を見て失礼な反応をしやがって、私は美少女だぞ!
しかし、そんな田村を見て私の怒気は抜けていた。
「ハァ……。んで、結局どういう話なんだ……ですか?」
私は口調を落ち着けて、再度話し合いの卓に着く。
予想外の展開に気が動転していた。
どうも私の内臓に世界旅行をさせる話が始まるわけじゃないらしい。
「実際のところ、オメェが気絶するまで粘ってれば期待値はもっと高かった。あれだけ大口叩いたお前がデカい魚を逃しやがったんで、一応反省してもらおうと思ってな」
言わんとすることは分かる。私がマジでぶっ倒れるまで、あと10時間も追加で粘っていれば、もう少しチャンネルの知名度は伸びていたはずだ。
矢崎の言い分は理解した。納得はしたくないが……。
それでも、反論は難しい。
たしかに、私から『気絶するまで』なんて言い出しのたのだから。
なるほど、確かにこれは断罪ではなく、ケジメだ。
「手短に、何をさせる気か教えてください……」
私が覚悟を決めてそう言うと、矢崎は神妙な顔で沙汰を下す。
「オウ。……ハズレ、百合営業しろ」
信じられるか? コイツ、ヤクザなんだぜ?




