3話
オレは馬を全力で駆って目的地を目指す。
いた!
磔死体に夢中でオレには気づいていない。
オレは馬から下馬して、そいつの背後に忍び寄る。そいつの足元には真っ赤な兜をかぶった生首。残念ながらオレはこの生首の顔に見覚えがない。
「おい、伊蔵。ここからで見えるのか?」
オレが背後からそう言うと伊蔵はビクッとしてこちらを振り返る。
「なんだ。真田のところの佐助か。驚かすな」
「なんだじゃない。あれはなんだ?」
伊蔵の言葉にオレは真田丸の方向を指差す。
「なああに、徳川の間者が真田のとこにいたので、ああして懲らしめてやったんだよ」
「あれだと、こちらの戦意が下がるということくらいわからねえのかい。それにお主、今回徳川方で動いているって聞いているぞ!」
オレの言葉に伊蔵は鎖鎌をかまえる。
「芸術をわからぬ愚か者の戯言に付き合う気はねえ。お主もオラの芸術作品にしてくれるわ!」
天地光闇風雷火水土⋯⋯。
雷!
「雷神さまのお通りだ!」
オレがそう叫ぶとオレの右の拳にまばゆい閃光が纏っていく。
雷光鞭!
オレの右手のまばゆい閃光は鞭のようにしなり、こちらに向かって襲ってくる伊蔵の身体を鞭打っていく。打たれた伊蔵の身体にはまるで雷に打たれたように焼かれていく。
「ぐああああああ!」
伊蔵は絶叫を残して絶命した。
「白石警部、後ろを振り返らないで聞いてください」
オレがそう言うと白石警部は静かに頷く。
「この殺り口には見覚えがあります。僕が知っているのと同じだとすると真後ろの公園から鑑賞しているはずです」
「鑑賞? マジか。わかった。何人かを送っておく」
「それで、佐伯。なんで知っているんだ?」
白石警部の言葉にオレは笑って答える。
「『首刈り伊蔵』と同じ殺り口なんですよ。同じ殺り口だとすると同じ考えでこの殺しをやっている。芸術とか言って真正面から優雅に鑑賞しているんじゃないんですか。『首刈り伊蔵』は江戸時代始めの忍者ですので本人とは考えにくいですが⋯⋯」
オレが白石警部と話していると白石警部のスマホが鳴る。
「なんだと! 逃げられた。な、な、生首だと!」
何ビックリしてんだ。
首なし死体なんだから、生首くらいあるだろ。
後日、遺体の身元が発覚した。埼玉県在住の建設会社社長、成田健一、31歳。東京とは何の縁もゆかりも無い人物。
どうして、この人物が東京都庁で磔されたのかわからない。
迷宮入りの予感しかしねえ。