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さる❖とび  作者: 杉山薫
第1部 激突 関ヶ原
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首刈り事件 1

 1週間ほど入院して、オレは職場復帰した。白石という上司は警視庁新宿署刑事課警部であり、かなり腕がいいらしい。


「サスケ、今日からよろしくな。一応、みんなの手前、佐伯と呼ぶが悪く思わんでくれ」


白石警部の言葉にオレは軽く礼をする。


「警部殿、お気づかい痛み入る。拙者も⋯⋯」


「拙者ではなく、そうだな。佐伯は僕と言っていたよ」


白石警部はオレの言葉を遮ってきた。


なるほど。

仕方あるまい。


「僕も頑張りますので、よろしくお願いします」


これでいいんだろうか。


「とりあえず1週間はこれを目に通しておいてほしい。それから警察手帳。拳銃はしばらく俺が預かっておく」


白石警部はオレの目の前に警察手帳と2冊の事件ファイルを置いた。どうやらこれから1週間のオレの仕事はこの2冊の事件ファイルの熟読らしい。


アイドル誘拐事件、連続放火事件の事件ファイル。これを、いやこれで1週間、どうやって⋯⋯。


とりあえずこの2件の概要はこうだ。


アイドル誘拐事件の被害者は某アイドルグループのリーダー立花ミホ、犯人からの要求は身代金10億円。身代金を持参した佐伯隆刑事が射殺。奇跡的に生存した模様。


ああ、この事件で佐伯刑事は亡くなったのね⋯⋯。


連続放火事件は毎月のように歌舞伎町で行われている放火事件。あの街のことだ。毎月恒例のイベントにでもなっているのだろう。ここ5ヶ月連続で放火が起きている。日付や場所に法則性はなさそうだ。ボヤ騒ぎから雑居ビル半焼まで被害もさまざま⋯⋯。


ひょっとして、一連の放火の他に別の放火が混じっているのかも?


はあ、なんでこの2件の事件なんだと事件ファイルの表を見る。


なるほど、佐伯刑事の担当だから頭に入れとけってことか。



 オレが昼休み、『国語辞典』の読書に勤しんでいると、白石警部がオレを呼ぶ。


「都庁で変死体が発見された。佐伯、お前も来い」


変死体発見って、普通早朝じゃねえか。真っ昼間って大胆だな。


オレは白石警部と一緒に東京都庁へと向かった。東京都庁に到着すると白石警部は顔をしかめた。


「首刈り⋯⋯」


オレがそう呟くと白石警部はオレを一瞥して言った。


「あまり不謹慎なことは言わんでくれ」



あれは確か⋯⋯。

大坂冬の陣、真田丸が完成間近という日の朝。


「サスケ、どう思う?」


「どう思うって、『首刈り伊蔵』の仕業でしょうね。でも、こんなとこに飾ったって、どうやって鑑賞するんでしょうね。ハハハ」


真田幸村の問いにオレは苦笑いで答えた。


完成間近の真田丸の壁面に飾り物のように磔される首なし死体。鎧の色から真田幸村隊であることは間違いない。間違いないのだが、首から上がないため誰だかわからない上に、磔されている場所がオレの背の5倍くらいの場所であるため鎧の特徴もよくわからない。わかるのは、これが『首刈り伊蔵』の仕業ということぐらい。ただ、解せないこともある。『首刈り伊蔵』は磔される死体を必ず真正面から鑑賞する異常な性癖を持っている。ここから真正面って、どこだよ。そう思って、オレは背後を観察する。これって見えるのか?見えるとしたら執念としか言いようがない。


「幸村さま、馬をお借りします」


「ああ、何かわかったのか?」


真田幸村の言葉にオレは頷き、真田幸村の乗ってきた馬に騎乗した。


あそこから真正面って、どんだけ遠いんだ⋯⋯。


オレは馬を全力で駆って目的地を目指す。


いた!

磔死体に夢中でオレには気づいていない。


オレは馬から下馬して、そいつの背後に忍び寄る。そいつの足元には真っ赤な兜をかぶった生首。残念ながらオレはこの生首の顔に見覚えがない。


「おい、伊蔵。ここからで見えるのか?」


オレが背後からそう言うと伊蔵はビクッとしてこちらを振り返る。


「なんだ。真田のところの佐助か。驚かすな」


「なんだじゃない。あれはなんだ?」


伊蔵の言葉にオレは真田丸の方向を指差す。


「なああに、徳川の間者が真田のとこにいたので、ああして懲らしめてやったんだよ」


「あれだと、こちらの戦意が下がるということくらいわからねえのかい。それにお主、今回徳川方で動いているって聞いているぞ!」


オレの言葉に伊蔵は鎖鎌をかまえる。


「芸術をわからぬ愚か者の戯言に付き合う気はねえ。お主もオラの芸術作品にしてくれるわ!」



天地光闇風雷火水土⋯⋯。

雷!


「雷神さまのお通りだ!」


オレがそう叫ぶとオレの右の拳にまばゆい閃光が纏っていく。


雷光鞭!


オレの右手のまばゆい閃光は鞭のようにしなり、こちらに向かって襲ってくる伊蔵の身体を鞭打っていく。打たれた伊蔵の身体にはまるで雷に打たれたように焼かれていく。


「ぐああああああ!」


伊蔵は絶叫を残して絶命した。




「白石警部、後ろを振り返らないで聞いてください」


オレがそう言うと白石警部は静かに頷く。


「この殺り口には見覚えがあります。僕が知っているのと同じだとすると真後ろの公園から鑑賞しているはずです」


「鑑賞? マジか。わかった。何人かを送っておく」


「それで、佐伯。なんで知っているんだ?」


白石警部の言葉にオレは笑って答える。


「『首刈り伊蔵』と同じ殺り口なんですよ。同じ殺り口だとすると同じ考えでこの殺しをやっている。芸術とか言って真正面から優雅に鑑賞しているんじゃないんですか。『首刈り伊蔵』は江戸時代始めの忍者ですので本人とは考えにくいですが⋯⋯」


オレが白石警部と話していると白石警部のスマホが鳴る。


「なんだと! 逃げられた。な、な、生首だと!」


何ビックリしてんだ。

首なし死体なんだから、生首くらいあるだろ。



 後日、遺体の身元が発覚した。埼玉県在住の建設会社社長、成田健一、31歳。東京とは何の縁もゆかりも無い人物。


どうして、この人物が東京都庁で磔されたのかわからない。


迷宮入りの予感しかしねえ。

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