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さる❖とび  作者: 杉山薫
第1部 激突 関ヶ原
17/20

ファーストコンタクト

 オレは風魔小太郎と六本木のとあるクラブのVIPルームのふかふかなソファーに座っている。ただ、座っているだけだ。茶も出ねえし、もう小一時間ほど待たされている。この部屋に入ってから風魔小太郎は無言のまま、唇すら動かさない。ひょっとしたら服部半蔵級の忍びが転移しているのかもしれないと思い、オレも無言を貫く。しばらくすると無造作に部屋のドアが開く。


「すまんのお。風魔殿」


見覚えのある顔。

真田信之様の舅、本多忠勝だ。


「で、其奴がサスケでいいんだな」


本多忠勝がオレを指差す。


「警視庁新宿署の佐伯です」


オレはそう言って警察手帳を本多忠勝に見せる。


「あいもかわらず頭が硬いのお。中身は猿飛佐助かと訊いているんだ。違うのか?」


本多忠勝は苛立ちを隠さない。


「さあ?」


オレは不敵な笑みで本多忠勝を挑発する。


「まあいい。その態度、猿飛佐助で間違いない。大坂で真田幸村隊を率いたという」


本多忠勝の言葉にオレは即座に噛み付く。


「本多様は大坂の時は亡くなわれていましたよね」


「こっちに来てから聞いたんじゃ。真田幸村隊の突撃のことをな」


「徳川様から?」


オレの言葉に本多忠勝は首を横に振る。


「伊達政宗殿だ」


「伊達様もこちらに来ているのですか?」


オレの言葉に本多忠勝は頷く。


「そうだ。それに殿は大坂には行っていない」


ん?

殿って、徳川家康だよな。

徳川家康が大坂の陣に行っていないって、どうゆうことだ?


「風魔小太郎殿、確か徳川様にお会いできるのでしたよね」


オレの言葉に風魔小太郎は頷く。


「本人に聞くのが一番だろ」


本多忠勝はオレと風魔小太郎を部屋の外に誘う。VIPルームを出ると突き当たりの壁を本多忠勝がトントンと2度叩くと壁がクルリと回る。カラクリ扉だ。突き当たりの壁の周り自体が暗いためこんな仕掛けに気づくものはいないだろう。まずは本多忠勝がカラクリ扉の中に入っていく。続いて風魔小太郎、オレと続いていく。カラクリ扉の向こうは何故か純和風の部屋だった。全面畳張りで向こうには中庭があり枯山水のようになっている。枯山水自体、オレは詳しくないのだが、そんな感じなのだ。その前で茶を飲む老人。徳川家康、間違いない。間違いないのだが、大坂の陣の時よりも少しだけ若いような気がする。もっともこんな至近距離で見たわけではないのでオレの気のせいなのかもしれない。


「何をしておる。二人とも早く来い」


本多忠勝がオレと風魔小太郎を奥へと誘う。オレは靴を脱ぎ、風魔小太郎に続いて徳川家康の前に座った。


「この者が例の忍びか?」


徳川家康の問いに風魔小太郎は頷く。


「サスケ、殿に挨拶くらいしろ!」


本多忠勝の言葉に促されてオレは口を開いた。


「警視庁新宿署の佐伯です。はじめまして」


オレはそう言って警察手帳を徳川家康に見せる。さすが天下人の眼光だ。直視できない。


「ああ、白石の部下だろう。それは知っている。それで中身は誰だと訊いている」


「中身? さあ?」


徳川家康の言葉にオレはしらを切る。


「まあよい。知りたいのは三成の次の狙いだろ?」


「白石警部とお知り合いならば警部にお知らせいただければ⋯⋯」


「それができればワシも苦労はしない。白石君は普通の人間だ。教えたところでどうにもできんだろ」


そりゃ、そうだ!


「しかし、僕も普通の人間のつもりですよ」


徳川家康の鋭い眼光がオレを射抜き、すぐに言葉をつなぐ。


「さっきの中身の話ですが、僕は猿飛佐助のつもりなんですがどうも皆さんとは違う形で現代に来ているようで、猿飛佐助の記憶を刷り込まれているだけなのかと疑っているところなんですよ」


「半蔵からの報告によると忍術自体は猿飛佐助のもので間違いないそうだが⋯⋯」


オレの言葉に本多忠勝が口を挟んできた。


やっぱり、服部半蔵もこちらに来ているのか!


「徳川様としては石田三成とどのように決着をつけるおつもりですか?」


「向こうで決着つけられなかったこともある。こちらでその機会があれば必ずヤツの首を取るつもりだ!」


ん?


徳川家康の言葉にオレは首を傾げる。


「決着をつけられなかった?」


「そうだ。ワシは関ヶ原に到着する前に殺されたからな⋯⋯」


「関ヶ原に到着する前って?」


オレの言葉に本多忠勝が噛み付く。


「小山だ。西軍に寝返った武将の忍びに小山で暗殺されたんだよ!」


「小山で西軍に寝返ったって、真田ですか? そんな話、初耳ですよ。一体、誰に暗殺されたんですか?」


オレの言葉に徳川家康、本多忠勝、風魔小太郎の三人の視線がオレに向く。


「ちょっと待て! オレが真田家に士官したのは紀州九度山に蟄居された後ですよ。関ヶ原の時にオレが真田家にいるわけがないだろ!」


オレは興奮気味に立ち上がって叫ぶ。


「では、紀州九度山に来るまでの記憶は?」


本多忠勝は射抜くような眼光でオレを睨みつける。


「真田信之様の屋敷で静養していました。それは小松殿もご存じのはずですよ」


小松殿とは本多忠勝の娘であり、真田信之の妻である。


「では、その前は?」


その前?

その前⋯⋯。

その前ってなんだ?


本多忠勝の言葉に詰まっているオレを見て徳川家康が助け舟を出す。


「それはもういいとあれほど言ったろう、平八郎。それから本題だが三成の狙いはやはり江戸城らしい。では、どうやって⋯⋯。荒川を決壊するという情報が入ってきた」


「荒川って、あんなもん決壊させて皇居を水没させようとしたら東京23区が水没しますよ!」


「そのことよ、サスケ。阻止してはくれんか?」


徳川家康の言葉にオレは答えを渋る。


「荒川ということになると新宿署の管轄外に⋯⋯」


「そこは白石殿に頼んでおく」


そうしてオレは風魔小太郎とも別れて新宿へと帰っていった。




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