情報屋 3
新宿テロ事件から一週間後、オレは遅めの昼食をとりに、いつもの定食屋に入った。いつもの定食を頼んでスマホに目を落とす。
「相席いいかい?」
オレが顔を上げると、そこには風魔小太郎がいた。
「ちょうどよかった。食べ終わったら、どこかで相談に乗って?」
オレがそう言うと風魔小太郎は黙って頷いた。
食事が終わりオレは風魔小太郎を伴って新宿署に戻ってきた。
「すまん。白石警部は中央の会合に出てて不在なんだよ」
「むしろ好都合だよ」
風魔小太郎の含み笑いにオレは苦笑いをする。
「なるほどそういうことか⋯⋯。その線だけは考えたくなかったんだけどね」
「まずは某の報告から。そちらの相談はその後で」
風魔小太郎に言われオレは静かに頷く。
「例のアイドル誘拐事件だけどね。この誘拐事件には当の某プロダクションの社長自身が関与している。実は立花ミホと佐伯刑事の熱愛をフリーライターにすっぱ抜かれたのであるが、その揉み消しに誘拐事件をでっち上げて身代金をフリーライターに渡す。そこまでの計画は社長の橘が立てたようだ。それを実際にやってみたんだがね。これが最後の詰め、そう身代金の受渡しの部分が難しかったらしい。それでね、橘社長はある人物に相談を持ちかけたんだよ。誰だかわかるか?」
オレは首を横に振る。橘社長というのは橘美穂の父親のことだ。
「聞いて驚くなよ。徳川家康だ!」
風魔小太郎の言葉にオレは言葉を失う。
「白石警部が絡むのはこっからだ。実は白石警部は新宿署に来る前は麻布署にいたらしいんだが、そこで徳川家康と面識があって今回の茶番を引き受けたらしい。まさが自分の部下が殺害されるなんて思ってもみなかったとは思うがね」
だとしたら⋯⋯。
拳銃に佐伯刑事の指紋しか残っていなかったという調書も納得いく。もみ消していたのか。
「どうする?」
オレが黙り込んでいるのをみかねて風魔小太郎はそう言った。
「利用価値はあるよね。白石警部も徳川家康も⋯⋯」
オレは絞り出すように言った。
「そう言うと思ったよ。やっぱり貴殿も忍びだな。それで相談って何?」
「多分、今の話と関係あるかもしれないけど。石田三成が次に狙うのはどこかなってことなんだけど、まさか江戸城ってことはないよね」
オレの問いに風魔小太郎はしばし考え込む。
「最終的には江戸城というのは十分考えられるが、まだいくつかステップを踏むような気がする。少し調べてみる。時間をくれ」
「頼みます。ひょっとして白石警部や立花ミホも関係あるのかな⋯⋯」
オレの言葉に風魔小太郎は訝しげにオレの顔を覗き込む。
「猿飛佐助殿は二人とは関係ないはずでは? 情を入れるな。いざという時に選択を間違える。忍びの鉄則だろう」
風魔小太郎は苦笑いをして新宿署を出ていった。




