情報屋 2
首刈りの被害者を入院させるために、ボクたちはパトカーで警察病院に乗りつけた。
「それでどういう状況だったんだ?」
真夜中の警察病院の待合室で、白石警部の問いにボクは静かに答える。
「例の連続放火事件の犯人見つけるため歌舞伎町をパトロールしていたんですが⋯⋯。ゴジラのビル付近は初めてきたので、ゴジラを見上げたんですよ。⋯⋯。ゴジラの口の辺りが動いたので凝視したら人影が見えたので⋯⋯、忍術を使ってゴジラのところまで行ったら伊蔵がゴジラの口のところで女の人を磔にしている最中でした。伊蔵は何か夢中になると周りが見えなくなるんですけど⋯⋯、一言二言やりとりしたら自分で命綱を切って地上に転落したんですよ。僕は女の人を助けるのが精一杯だったんで⋯⋯」
オレは白石警部に誤解されないように言葉を選びながら事の顛末を報告した。
「おおむねわかった。後は別チームに任せよう」
「それから白石警部。昨日の昼なのですが転生者を名乗る男から接触を受けました」
「転生者? 何かの事件か?」
「いえ、僕を探していたらしいのですが、見つけたので挨拶しに来たと言っていました」
そこまで言って、僕は唇だけを動かす。
『風魔小太郎』
「それで何者だったんだ?」
「今、唇だけ動かして言ったんですけど⋯⋯。普通こんなのわからないですよね。相手は風魔小太郎。僕と唇だけで会話が成立する忍者です」
「風魔小太郎? 北条家の忍者だよな。そいつも⋯⋯」
「そうです。はじめまして、風魔小太郎です」
白石警部の言葉を遮って風魔小太郎が白石警部に挨拶をする。
言葉を発するまで気付かなかった⋯⋯。
「白石警部、彼が先ほど話した風魔小太郎です」
オレは白衣姿の風魔小太郎を指差す。
「そうか。警視庁新宿署で警部をしている白石だ。単刀直入に訊こう。我らに接触した目的はなんだ?」
「ああ、某は情報屋を生業としているので、同じ忍びである猿飛佐助殿と接触しただけです。猿飛佐助殿の利にはなると確信しています」
風魔小太郎の言葉にオレが反応するのを制して白石警部が口を開く。
「それは我ら新宿署の利ととってもいいのか?」
白石警部の言葉に風魔小太郎は静かに頷く。
「そういえば転生者の顔の件ですが、やはり猿飛佐助殿だけのようです。別人に転生したのは⋯⋯」
風魔小太郎の言葉を遮って、白石警部のスマホが鳴る。白石警部は通話を終え、オレに向き合った。
「伊蔵の死体が消えたそうだ」
驚くオレに風魔小太郎が口を挟む。
「首刈り伊蔵がどうかしましたか。死体ということは伊蔵が死んだということ? であれば、何も不思議はないですよ。転生者は何もないところから現れていますので死ねば消え去るだけですよ」
「僕も?」
「おそらく猿飛佐助殿は違うのでしょう。佐伯という刑事に転生しているのですから佐伯として死ぬんだと思います。初めてのケースなのであくまでも推測の域をでないのですが⋯⋯」
「何もないところってことは君たちは戸籍はないってことか?」
風魔小太郎の言葉に白石警部は訊く。
「そうですね。何もないところから現れて何もなくなるということですから、そんなものは必要ないですよね。失礼!」
風魔小太郎はそう言って消え去った。
その数秒後、廊下の向こうから白衣の医師が歩いてきた。
「警部殿、先ほどの女性は睡眠薬を飲まされただけのようです。朝起きてからの事情聴取でお願いします」
医師の言葉に白石警部は頷いた。
朝、女は目覚めた。二十一歳女性。歌舞伎町のガールズバー店員で昨日帰宅するために道を歩いていたところまでしか覚えていないらしい。単なる被害者ということで家にかえした。首刈り事件の件は白石警部預かりとなった。これ以上何も進展しないので迷宮入りと白石警部は苦笑いをしていた。