不思議な光の導き
──数日後
「でさー、この前の魔物って、どうなったか知ってる?」
「え? 知らない。何か知ってるの?」
「王国軍がばらばらにして、何か薬の材料にするとかいって持ち帰ったらしいよ」
「へー、そうなんだ。珍しい草だったのかな?」
女子の会話にしては、割と物騒な内容だった。
心地よい昼下がり。
ルチアとエルサはランチをしながら他愛のない(?)お喋りをしていた。
2人はサンドイッチをはむはむとほうばっている。
そこに男子が近づいてきた。
「アリウス、ちょうどよかった。この前の魔物のこと話してたんだ」
「ああ、あれはそういう話みたいだ。親父から聞いた」
彼はそう言って、教室の椅子に座って腕を組んだ。
アリウスの父は王国軍の騎士で、それなりに偉い立場らしい。
だから軍の情報には詳しいのだ。
「しかし神聖な湖の区域に魔物なんて、そう簡単に入れるものではないんだ。まったく…おかしな話だ」
「そうなんだ。どこかから紛れ込んだりもしないのかな?」
ルチアは素朴な疑問を問いかけた。
「厳重な結界に穴は無いはずだ、考えにくい……
何者かが意図的に放したのかもしれない」
アリウスは釈然としない表情だった。
「それって結構重大なことだよね〜。
世界樹が枯れたら私ら魔法だって使えなくなるよ」
「ああ。この前のは、とにかく運が悪かったってことだ」
「しかしルチア、あれだけの魔法を放てるなんて成長してるな」
「うーん、よくわからないんだけど、幻獣石が強かったってことじゃないかな。でももう使えないよ」
そう言って腕輪を差し出した。
石にはヒビが入っており、もう効果は期待できないようだ。
「商人さんは2回魔法を打てるって言っていたのに。不良品だったのかな?」
「詐欺じゃん。その商人を見つけてクレームいれよ!」
「クレームは置いといてだな、そんな強力なものだとしたら、もう一度会って聞いてみるべきじゃないか?」
そして3人は、放課後に商人をさがしに出かけたのだった。
「だいたいさ、魔法使えなくなったらアタシら就職できないじゃん? どう責任とってくれるのって話!」
とエルサ。 ほうきに跨りながら、勢いよくまくしたてている。
「たしかに、けっこう迷惑な話だよね」
元気よくお喋りするエルサをなだめるルチアだった。
「そうなったらウチら何の仕事についたらいいわけ?
もうさ、だれか嫁にもらってほしいわ〜」
「うーん、そうだよねえ」
これは玉の輿かなあ、
ルチアは、ふと横の男子に目をやりながら苦笑いしていた。
あーでもないこうでもないと、女子二人はよく話するもんだな、
アリウスは心のなかでそんなことを思いつつ飛んでいた。
初夏に差し掛かり日差しが少し眩しいと思った。
3人はほうきにまたがり、市場にむかった。
○
「──まあ、水はちゃんと浄化されてるみたいだな」
3人は世界樹の庭園に来ていた。
市場をくまなく探してみたものの、結局商人は見当たらなかった。
町民に聞いてみても、普段そんな者は見かけた事がないとのことだ。
商人の捜索は諦めて「せっかく3人できたのだし、庭園の様子も見に行こう!」となったのだった。
「今日はお客さん、全然いないね」
先日まで水が汚れていたせいで、市民も観光客も全然いなかった。
『恋人の聖地 幸運を呼ぶ世界樹の展望台』
そう書かれた展望台から、庭園を見渡す3人。
水が汚れていたせいで、庭園の湖の水は少なくしてあった。
半分ほど湖底の地形が露わになっていて、なんとも見すぼらしい。
こんな時に恋人ときても、がっかりするだけだろう。
おまけに参拝路には立ち入り禁止の看板が立てらており、世界樹の側へは近寄れないようになっていた。
ぶらぶらと散策していると、まさかのカップルが──。
いかにもワイルドな男と派手な女がいちゃいちゃしている。
ワイルドな男からは、なにやら不穏な話が聞こえてきた。
「知ってるかあ?この辺りで、幽霊が出たって話だぜ〜」
「なんでも、夜に怪しく光るものが飛び回っていたらしいんだぜ〜。きっと幽霊に違いないだろぉ?」
「やだあん。ニナたん、怖ぁい」
「大丈夫、スグちゃんがまもってあげるんだぜぇ」
「いやあん、スグちゃんワイルドだわぁ〜。好きい」
「??? なんなんあれ」
エルサは毛虫でもみるような表情でいった。
「名前もなんかいやっ」とも。
「……ワイルドぉ」
なぜかボソっと言葉を発してしまった2人であった。
「ごほん、ともかく、ちょっと聞いて回るか。この前の事件との関係も気になるところだ」
その後色々と聞いて歩いた結果、街の人からはこんな話が。
「幽霊? そういえば噂に聞いたことがあるね。やだねえ、きっと女神様の祟りだよ」
王都の中心に力強くそびえたっている雄大な世界樹。
それは神聖な樹として信仰の対象ともなっていた。
悪いことばかりが起こっては、祟りや悪い兆しと受け取る人も少なくないだろう。
「うーむ、この件も気になる話だな。不穏な話が続いてるのが引っかかる」
「誰かが悪さしてるとかは、ないよね? あの男も絶対怪しいし。大体なにがワイルドなんだか、まったくも〜」
「あのお兄さんのこと? まあ……何と言うか悪い事できなそうだよ?」
ルチアの説明には妙な説得力があった。
「えー、まあ言われてみれば。でもあの名前はイヤっ」
なぜか納得してしまったのだった。
アリウスはクスッと笑ってしまった。
「それにしても、早く元の綺麗な景色に戻ってほしいね」
すっきりしない事ばかりで、ルチアはまた悶々としていた。
街の人からはそれ以上具体的な話は聞き出せ無かった。その日は各々の帰路についた。
○
ルチアは家に着いてから、いつもどおり過ごした。
疲れていたのですぐに眠くなってしまった。
──その夜。
「……きて……」
「お…て……。…て」
「ううっ眩しい。もう朝かな?」
目を開けると、カーテンの隙間から眩しい光が飛び込んできた。
やわらかな陽の光とは明らかに違う。
時計を見てもまだ夜中の2時だ。
「え、何? なんの光??」
ルチアがカーテンを開けると……
白く輝く光が目の前を飛んでいた。
その光は何度か中を舞うと、そのまま上空へ浮上していった。
「え、あれって? ……追いかけて……きて?? 誰か喋った?」
周囲を見渡しても人影は見当たらない。
どこかから声が聞こえたような気がしたのだが。
よくわからない状況に、寝ぼけているのかと思い頬をつねる。
「痛っ!」夢ではないらしい。
「……いかなくちゃ!」
いてもたってもいられず、ルチアは上着を手に取り飛び出した。
外は静まり返っていた。
ほうきに飛び乗り、光が飛んでいった方に進路を向けた。
ひんやりした夜空には満月が浮かんでいた。