空飛ぶ帰り道
ルチアは、机のなかの勉強道具を鞄に放り込んだ。
この鞄は、魔法の力で中身を勝手に整頓してくれる優れモノ。
本は綺麗に整列され、筆箱や弁当箱、水筒などはきっちりと隙間無く配置された。
椅子を立ち、ぐいっと背伸び。
窓からそよぐ爽やかな風、そして生徒達の喧噪が心を沸き立てる。
「ふ〜。よしっと。じゃあ行こう、エルサ」
教室から飛び出すと、体が軽くなったように感じる。
校舎のあちこちには、沢山の生徒たちの姿が──。
いつも通りの日常を感じながら、2人は正門で友人に挨拶を交わした。
「ルチア、エルサ、ばいばい、また明日ね」
「ばいばい、また明日〜」
正門では、クラスメイト達がほうきに乗って次々に飛び立っていく。
と、そこで何やら熱い視線を感じた。
「きゃあ、エルサ様〜! 今日も素敵です!」
つかまってしまった、放課後の待ち伏せだ。……しかも女子。
「あ〜、ありがとね〜」
困った表情を浮かべながら返事を返すと、エルサはそわそわと靴を履き替えた。
「相変わらず人気だね。お手紙までくれるなんて」
ファンクラブがあるらしい。というか有名な話だった。
「私よりもっと目立ちたいヤツが他にいっぱい、い〜っぱ〜い居るんだからさ
そっちに行けば良いのに。も〜」
渋い顔を必死に押し殺して、歩きながら、手紙をせっせと鞄につめ込んでいる。
ルチアはそれを少し羨ましいと思ったが、何も言わなかった。大変そうだから。
ぶつくさと文句を垂れる彼女を尻目に、ルチアはほうきに跨り意志を込めた。
すると体がふわりと宙に浮き、赤い髪がそよそよと揺れた。
そのままゆっくりと浮上し、
決められた規則(交通ルールならぬ飛行ルール)に従い店に向かう。
夕暮れにはまだ早く、王都を見下ろすと、白い壁が日差しを受けて光り輝いている。街角には花が飾られており、澄んだ青い海からそよぐ爽やかな風に揺られていた。
「そういえばさ〜、ルチア。魔法省の試験に向けて勉強してる?」
「全然。いつもの塾の勉強だけで精一杯だよ。ていうか、塾っていうかアレは運動部みたいなものだしね」
思いだしただけで苦笑いしてしまう。
「ヘトヘトになるまで魔法撃てとか、的に当たるまで頑張れとか」
「体育会系じゃん。でも頑張ってるね! アタシなんてついサボっちゃって〜」
「エルサは飲み込みが早いもん大丈夫だよ。私なんて要領悪いから」
普段の言動からは想像し難いが、エルサは学年成績トップ。
いわゆる天才肌だ。
学園で一番有名な女子、エルサ・マークハイランダー。それが彼女の名だ。
ついたあだ名も山ほどある。女帝、紅の女王、女豹、イノシシ、千年に一度の火力馬鹿、チート、タイプ、金髪しゅき。一部の妬みやら関係ないものが混じっている気がする。
「ちなみにルチアって、魔法省に受かってからやりたいことってあるの?」
「うーん、ぼんやりだけど。色んな古代遺跡や、魔法生物を調査する仕事がやりたいって思ってる」
ルチアは実用的な魔法が苦手というわけではなかったが、戦いや争いごとには興味が持てずにいた。
この世界には、古代文明の遺産と呼ばれる謎の遺跡が残っている。
そしてそこには数多の魔法生物が存在している。
それらの存在はルチアの好奇心を刺激してやまない。
幸いなことに、実家には研究所や百科事典が山の様にあった。
母が研究者だったのだ。
幼少の頃からそれらを調べたり、観察したり、絵を描いたりするのが大好きだった。
だから世界中を巡り、調査や研究をして回ることに憧れていた。
「しっかり先のこと考えてるんだね〜。アタシなんてなんとなく受けるだけだってのに。でもルチアって魔法生物のこと大好きだもんね」
エルサはいたずらっぽく囁いた。
「え、それほどでもないって〜! 仕事で無難なものを考えたらそうなっただけだよ!」
あたふたと答える魔法生物好き女子。
あまり大っぴらにしないことにしているので、いつもイジられると大慌てしてしまう。
──そうこうしているとお店が見えてきた。
「魔道具マジックキャンパス。学校の近くにあるからって安直すぎる名前だよね」
「商売っ気もないからね〜、ここ。学校に卸してなかったらつぶれてるわ」
2人は言いたい放題言ってお店に入店した。