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【魔法省選抜試験1】 〜緊迫の舞台へ〜


 ──数日後、魔法省選抜試験 当日

 よく晴れた朝。清々しい風が頬をかすめていった。

 赤く艶やかな髪がふわりと揺れる。 


 ルチアは、いつものように家の前の花壇に水やりをしていた。

 これは彼女の毎日のルーチンワークだ。

 今日はいつもと違う気持ち。些細な変化を感じる——。


「はぁ……。うまくやれるかな」


 硬い表情のまま水やりを続けていると、途中でじょうろの水が切れた。

 屈んだ姿勢を解いてから、ふーっと伸びをして顔を上げる。


「!」


 ハッとして視線を向けた先に、ひらひらと白い蝶が舞っていた。

 蝶は黄色い花の周りを周回してから、ぴたりと花にとまった。


「そういえば、ティアちゃんも蝶々だったっけ」


 あっという間に世界の景色が変わったなぁ……。

 ぼんやりとそんな事を考えながら、花壇の花に近づいてそっと身を屈めた。

 すると——。


「はわわっ!」

 蝶は舞い上がり、ルチアの周りをくるくると飛び回った。


「ふふっ、元気で人なつっこい子だね!」


 そして直ぐに青空に溶け込み、遙か彼方へ消えていった。

 オーブに触れながら、目を閉じて深呼吸した。

「私達、この先どこへ向かうのかな? でも、みんなと一緒なら心強いよね、きっと!」


 庭木の葉の隙間からは、柔らかな日の光が差し込んでいる。

 その光が心を真っ白に洗いあげて、覚醒を促してくれた。


「よし、今日は頑張ろう!」


 少し柔らいだ表情で、天に向かって願いを掛けた。



          ◇ ◆ ◇



 ──試験会場に到着してしばらくすると、試験の説明が始まった。

「本試験は2段階に分けて行います。皆さんの強さ、判断力、意欲を問う試験になっています。頑張ってください」


 受験者はざっと五十名余り、事前に前試験が実施済みだ。前試験は魔力の基礎力を問う試験。

 火水風及び防御それぞれの魔法の威力が満たされているかを試す課題だった。

 ルチアとエルサはこれを通過した。本試験に残った受験者は十六名だった。


 一次試験では2人でペアを組み、遺跡に仕掛けられた試練に挑む。通過できるのはその半数とされた。

 二次試験は一対一の個人戦。最終的には合格者は4人程になる。


「1次試験はこの遺跡で実施します。まずは1時間以内にペアを結成してください。相手は自由に決めて構いません」

「ルチア〜、一緒にやろうよ。いい?」

「もちろんだよ。エルサが良いっていうなら是非! 助かる〜」

 と、速攻でペアは成立。

「よっしゃあ、最強ペア結成だね。やるぞ〜」

 エルサは気合を込めて拳を突き上げた。


 辺りを見渡すと、気の知れた者同士ですぐに結成するものもいれば、交渉や駆け引きをおこなっている声も聞こえてくる。青い髪の長髪の少女が目に入った。

彼女は成績トップクラスのシルヴィア。エルサとも成績を争っている実力者だ。


「私と組みませんこと?」

 高貴な生まれの彼女は、意外な相手、——ある男に声をかけているようだ。


「おう、優等生さんが俺を誘うなんてどんな風の吹き回しだ?」


「あなたは他の受験者と違い、実戦経験も豊富。私はどうしても受かりたいの。ただそれだけのことですわ」


 シルヴィアが声をかけているのはエーヴァルト。少しやさぐれていて、長髪の黒髪で片目が隠れている。

 彼は昨年の最終試験で不合格。2回目の挑戦であった。

 ちなみに受験資格は学園を卒業後の2年目までと制限されている。勿論、試験内容は毎回変わるので公平性は保たれている。


「よく調べてるな。確かに俺はこの1年間、衛兵見習いとして技を磨いてきた。今度は絶対に落ちるわけにはいかねえ。いいぜ。あんたが相方なら文句はねえ」

 ——どうやらペア成立のようだ。

 誰しもが合格の最有力候補と思ったはず。ガックリしている受験者がちらほら。


「うひゃ〜、シルヴィアあれと組むんだ。見境ないなあ。飼い慣らせるのか、あの狂犬を〜」

 と、エルサ。ライバルにはちょっと口が悪い。

「シルヴィアさんにしては意外だね。でもみんな本気みたい。私も気を引き締めていかなくちゃ!」

「ルチアは姫っちのためにも絶対受からないとね。落ちてブラック企業に就職したらやばいよ」

「そうだよ! 社畜になって、世界を巡る前におばさんになっちゃうかも。恐い!」


 ティアとの約束を果たすためにも、まずはここを突破しなければいけない。

 ちなみに試験ではオーブの力は使用禁止にされたのだった。まあ使いたくても力の引き出し方がわからない。ルチアは首にかけたオーブを握りしめた。


「まぁ、でも大丈夫、私はルチアを2次試験に連れていくために全力尽くすから!」

「ありがとう、エルサ。わたしも一生懸命やるよ」


 その時、よく知った人物の顔が視界に入ってきた。


「あ、ルチア。アイツだよ」エルサも気づいたみたいだ。

 金髪の少女エルネスタ……昔ルチアと仲良しだった女の子。学園に入ってからはクラスが別となったのもあるが、すっかり性格が尖ってしまった事もあり疎遠になっていた。まあ人間色んな成長があるのだ、仕方ない。

 悪い子では無い……はず。この前だって泉の魔物から救ってくれた。本人はそんなつもりは無いといっていたけれども。ルチアの心象はそうだった。


 見たところ派手な男とペアを組んでいる。男は豪商の息子ゼナンだ。

 2人はなにやら他のペアを指差して嘲笑している様子に見えた。

 その様子を見ていると、何とも言えないもどかしさを感じた——。

「う〜ん、昔は普通だったんだけどなあ。なんかケバくなっちゃって……」


 遠目に見ていると目が合ってしまった。マズイと思い視線を逸らす。

 ——だが、険しい表情で少女が歩んできた。そして口火を切った。

「アンタも受験するんだってね? まあせいぜい頑張ってちょうだい。最後まで残るのはアタシだから」

 挑発的な態度に対してルチアは落ち着いて答えた。

「うん、エルちゃんも頑張ってね。応援してるから」

 応援しているといいつつ、緊迫した雰囲気に飲まれてしまい、口元は固かった——。


 エルちゃんというのは子供の頃にそう呼んでいたあだ名だ。今はそんな親しい間柄とは言えない。

 冷静さがかえって怒りを買ったようだった。かつての親友は険しい表情で言った。


「応援? 人のことより自分のことを心配しなさい。それとも皮肉かしら。まあいいわ。ったく昔っから鈍臭いんだから」

 彼女はフンッとそっぽを向くと、すたすたと去っていった。

「なにあれ? 喧嘩売りにきただけじゃん。2次試験であたったら絶対ぶっ飛ばす」エルサは本気でキレているみたいだ。

「う〜ん、彼女なりの挨拶だったのかも知れないし、気にしないようにね。昔はそんなに悪い子じゃなかったんだけどね。それに、今もきっと……。昔はお人形遊びとかしたりして遊んだんだよ」

「え、想像できん。どう見ても性格わるいじゃんアイツ。しっかもあの男は、コネやろ」

 どうもエルサには敵が多そうな試験になりそうだ、苦笑いを連発するしかないルチアだった。


 既に戦いは始まっていた。

 

 受験者が火花を散らす独特の雰囲気、ルチアは緊張しながらも高揚感を感じていた——。


ここから1章のクライマックスまで一気に進んでいきます。

ルチアは魔法省試験を突破できるか!?というお話です。

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