表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

ルチアの快気祝い 魔法王国の焼き鳥屋

 ──その夜


「へい、お待ち!」


 テーブルの上に沢山の串焼きが並んだ。


「じゃ、始めまーす。ルチア退院おめでとう。かんぱーい!」

 カチン!

 キンキンに冷えたジュースを口の中にぐいっと流し込んだ。


 今日は快気祝いの会だ。

 選んだお店は王都でも評判の串焼き屋さん。


 厨房を見やると店員がお肉に手をかざしながら調理している。このお店は熟練職人が遠赤外線の魔法を使い、炭と魔法のダブル加熱により中までしっかり焼き上げるらしい。赤い光によって肉を中から加熱され、肉汁がじゅわっと滴る。

 魔法の力は「妙な」ところでも生活に役立っている。


「やたら器用だとおも〜う」

 エルサが目を丸くして言った。ルチアも相槌をうった。


 さっそく小皿にとりわけて、いち早く手をつけたのはアリウス。

 女子二人は、彼がちょっとした美食家なことを把握済みだ。

 お店秘伝のタレにつけて口に運ぶ。


「……う、うまい! 職人の直火焼きは違うな〜」


 普段の冷静さはどこへやら、鳥の串焼きを夢中でモグモグと食べていた。

「おっとすまん。ルチア、お前色々無茶したみたいだな〜」


「うん、色々ありすぎて大変だった。今日も王様に呼ばれたし、やれやれだよ」

 そして事の経緯を一から十まできっちり話した(本日2回目)


 美味しい料理と店の賑やかな雰囲気に気持ちが和らいだ。

 昼間の憂鬱さもどこへやら、話しながらルチアは串カツに手をつけた。


「美味しい! もうめっちゃ生き返るね。2人共今日はありがとねえ」


「冗談抜きで死ななくてよかったって思うぜ」


「いや、一回死んでると思うし、本当に生き返った気分だよ〜」


「おいおい、ルチアがそんなこと言うのも珍しいな〜」


 文字通りで割と間違いでもないのだが、アリウスは冗談に受け取った。


「でも王様によばれるなんてすごいじゃん! で、その妖精さん? その子って出てきてくれるの?」

 こちらの才女はつくねを口いっぱいほうばっていた。


「それが、その後全然話しかけても返事がなくって。心配してるんだけどさ」


 ネギマ、うずら卵、玉ねぎ。つぎつぎに網の上に置いた。

 ジューッという音が食欲を刺激する。

 ルチアはよく温めてから食べる派だ。


「もしかして、くたばってるんじゃないだろうな」

 などと言いながら、もう2本目を手に取った男子。


「ちょっとぉ、縁起でもないこと言わないの! ルチアはその子のおかげで助かったんでしょ?」

 すかさず女子のツッコミをくらう。いつもの2人らしいや、と思いながら、久々のやりとりをしみじみ味わうルチア。

 なんだか嬉しくて口元が緩む。


「うん。いつもの魔法とは違う力が出て怪しい男を撃退できたんだよ。とんっっっでもない強さだった。妖精はティアちゃんっていう女の子なんだけど、なんか疲れたっていってたし、しばらくしたらまた出てくるんじゃないかって思う」

 温まった頃合いの玉ねぎをはむっとほうばる。甘い味が口の中に広がった。


「今度それ見せてくれよ。無事でよかったよな」


「ルチア肉もたべなよ〜。ほい! 甘だれもね。てか妖精って疲れるんだね」


「うん。あくびもしてたし結構自由だよ」

 

「へえ〜見てみたい! はやくでてこーい」

 エルサはオーブに興味津々みたいだ。


 ちょうど良いネックレスを見つけたルチアは、オーブをつけて首にぶらさげていた。


「それで魔力が強化されるのか。ちなみに襲ってきたその男ってどんな奴だったんだ?」


 もう3本目を手にかける男子。

 普通なら手がベタベタになるところだが、アリウスはやはり食べ方も綺麗だった。性格が表れている。


「錬金術師のトビアス・エフェトっていってた。かなりの使い手だったし、知らない?」


「錬金術師……。家に帰ったら聞いてみるか。しかし錬金術師って魔力も半端ないぞ。今の俺たちでは到底渡り合える相手じゃないとおもうが」


「そこはさ、このオーブの力もあってなんとかなったってことだよね〜。おーい、ティアちゃーん? ご飯だぞ〜」


「いや、飯で誘うって単調すぎんか?」


 その時オーブがきらりと輝き……。


「ティア、お腹すいた!」 ──わりと単純だった。


「え? なにそれ?」


 3人はびっくりして顔を見合わせた。

 小さな妖精はテーブルの上にちょこんと降り立った。


「ちょっとまって本当に出てきたし。ご飯食べたいの?」


 慌てた様子のエルサ。


「ティア、お腹すいた〜!」


 腹ぺこの妖精はぐいぐいと両拳を突き上げ、つま先断ちでおねだりして見せた。


「甘いのすき? このりんごジュース、のんでみる?」


 ルチアはそう言ってコップを妖精の前に移動させてみた。その背丈はグラスより少しだけ高いくらい。人間のサイズと比べると6分の1くらいだ。


「りんご! ……う〜。じゅーす飲めない!」


 繊細な手足がじたばたともがいている。

 ストローの高さに届かないのだ。小さな妖精にしか見えない世界がある。


「てか妖精ってご飯たべれるのか?」アリウスが怪訝そうな顔をして聞いた。


「甘くておいしいお水は好き!」


「え!? 妖精も好きな食べものがあるのか」

 平然と出てきた回答だが、びっくりした様子のアリウス。


「なるほどねえ、蝶々だし、似たような感じで砂糖水とかが好きなのかな?」


 虫の生態にも詳しいルチアはすぐに想像力が働いた。

 妖精は蝶々の羽が生えているから、似ているのものかと推測した。


「じゃあこれではいかがですか。お姫様」 お姫様???

 エルサがスプーンにすくって口元に差し出したところ、ぺろぺろと舐めるようにして飲んだ。


「かわいい〜。猫ちゃんみたい! おいしいでしゅか〜?」

 なぜか赤ちゃん言葉になっていることに気づき、2人は顔を見合わせた。


「これ好き!」羽をパタパタとさせながらジュースを舐める姿は可愛らしかった。

 身体中からキラキラした光も放出されているように見えた。

 ルチアは趣味全開でその姿をまじまじと凝視した。


「きっとりんごジュースなんて普段食べれないもんね。てか、なんだかエルサと仲良くなれそうだね」

 いつも思うが、こんなにゆるくて学園トップの才女なのが信じがたい。


「お姉ちゃんも好き!」ぴょんぴょんと飛び跳ねながら感情を表現する小さな妖精。


「きゃあ、かわいい! エルサだよ。もっとのんでくだちゃいね〜」

 満面の笑みで世話をはじめるエルサはもはやお母さんだ。


「これはもう養子にしたらいいんじゃないのか?」

 怒涛の圧に圧倒され引き気味のアリウス。


「うーん、とにかく仲良しになれそうだよねえ。よかったよ。それにしてもかわいいね」


「まあ、確かに。男の俺も悔しいが認めざるをえない……うっ!」

 ビクッ! 一瞬鋭い眼光を感じたアリウス。


「ティアちゃーん、おいしいでしゅか〜」

 ……いや、まさか。それはどうやら気のせいだったようだ……?


 突然表れた妖精も仲間に加わり、その後もルチアの快気祝いは続いた。

とあるファンタジーで串焼きが出てきたので感化されてしまいました。

ややミスマッチなのですが、キャラが現代の食べ物を食べている雰囲気って良いですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ