ルチアの快気祝い 魔法王国の焼き鳥屋
──その夜
「へい、お待ち!」
テーブルの上に沢山の串焼きが並んだ。
「じゃ、始めまーす。ルチア退院おめでとう。かんぱーい!」
カチン!
キンキンに冷えたジュースを口の中にぐいっと流し込んだ。
今日は快気祝いの会だ。
選んだお店は王都でも評判の串焼き屋さん。
厨房を見やると店員がお肉に手をかざしながら調理している。このお店は熟練職人が遠赤外線の魔法を使い、炭と魔法のダブル加熱により中までしっかり焼き上げるらしい。赤い光によって肉を中から加熱され、肉汁がじゅわっと滴る。
魔法の力は「妙な」ところでも生活に役立っている。
「やたら器用だとおも〜う」
エルサが目を丸くして言った。ルチアも相槌をうった。
さっそく小皿にとりわけて、いち早く手をつけたのはアリウス。
女子二人は、彼がちょっとした美食家なことを把握済みだ。
お店秘伝のタレにつけて口に運ぶ。
「……う、うまい! 職人の直火焼きは違うな〜」
普段の冷静さはどこへやら、鳥の串焼きを夢中でモグモグと食べていた。
「おっとすまん。ルチア、お前色々無茶したみたいだな〜」
「うん、色々ありすぎて大変だった。今日も王様に呼ばれたし、やれやれだよ」
そして事の経緯を一から十まできっちり話した(本日2回目)
美味しい料理と店の賑やかな雰囲気に気持ちが和らいだ。
昼間の憂鬱さもどこへやら、話しながらルチアは串カツに手をつけた。
「美味しい! もうめっちゃ生き返るね。2人共今日はありがとねえ」
「冗談抜きで死ななくてよかったって思うぜ」
「いや、一回死んでると思うし、本当に生き返った気分だよ〜」
「おいおい、ルチアがそんなこと言うのも珍しいな〜」
文字通りで割と間違いでもないのだが、アリウスは冗談に受け取った。
「でも王様によばれるなんてすごいじゃん! で、その妖精さん? その子って出てきてくれるの?」
こちらの才女はつくねを口いっぱいほうばっていた。
「それが、その後全然話しかけても返事がなくって。心配してるんだけどさ」
ネギマ、うずら卵、玉ねぎ。つぎつぎに網の上に置いた。
ジューッという音が食欲を刺激する。
ルチアはよく温めてから食べる派だ。
「もしかして、くたばってるんじゃないだろうな」
などと言いながら、もう2本目を手に取った男子。
「ちょっとぉ、縁起でもないこと言わないの! ルチアはその子のおかげで助かったんでしょ?」
すかさず女子のツッコミをくらう。いつもの2人らしいや、と思いながら、久々のやりとりをしみじみ味わうルチア。
なんだか嬉しくて口元が緩む。
「うん。いつもの魔法とは違う力が出て怪しい男を撃退できたんだよ。とんっっっでもない強さだった。妖精はティアちゃんっていう女の子なんだけど、なんか疲れたっていってたし、しばらくしたらまた出てくるんじゃないかって思う」
温まった頃合いの玉ねぎをはむっとほうばる。甘い味が口の中に広がった。
「今度それ見せてくれよ。無事でよかったよな」
「ルチア肉もたべなよ〜。ほい! 甘だれもね。てか妖精って疲れるんだね」
「うん。あくびもしてたし結構自由だよ」
「へえ〜見てみたい! はやくでてこーい」
エルサはオーブに興味津々みたいだ。
ちょうど良いネックレスを見つけたルチアは、オーブをつけて首にぶらさげていた。
「それで魔力が強化されるのか。ちなみに襲ってきたその男ってどんな奴だったんだ?」
もう3本目を手にかける男子。
普通なら手がベタベタになるところだが、アリウスはやはり食べ方も綺麗だった。性格が表れている。
「錬金術師のトビアス・エフェトっていってた。かなりの使い手だったし、知らない?」
「錬金術師……。家に帰ったら聞いてみるか。しかし錬金術師って魔力も半端ないぞ。今の俺たちでは到底渡り合える相手じゃないとおもうが」
「そこはさ、このオーブの力もあってなんとかなったってことだよね〜。おーい、ティアちゃーん? ご飯だぞ〜」
「いや、飯で誘うって単調すぎんか?」
その時オーブがきらりと輝き……。
「ティア、お腹すいた!」 ──わりと単純だった。
「え? なにそれ?」
3人はびっくりして顔を見合わせた。
小さな妖精はテーブルの上にちょこんと降り立った。
「ちょっとまって本当に出てきたし。ご飯食べたいの?」
慌てた様子のエルサ。
「ティア、お腹すいた〜!」
腹ぺこの妖精はぐいぐいと両拳を突き上げ、つま先断ちでおねだりして見せた。
「甘いのすき? このりんごジュース、のんでみる?」
ルチアはそう言ってコップを妖精の前に移動させてみた。その背丈はグラスより少しだけ高いくらい。人間のサイズと比べると6分の1くらいだ。
「りんご! ……う〜。じゅーす飲めない!」
繊細な手足がじたばたともがいている。
ストローの高さに届かないのだ。小さな妖精にしか見えない世界がある。
「てか妖精ってご飯たべれるのか?」アリウスが怪訝そうな顔をして聞いた。
「甘くておいしいお水は好き!」
「え!? 妖精も好きな食べものがあるのか」
平然と出てきた回答だが、びっくりした様子のアリウス。
「なるほどねえ、蝶々だし、似たような感じで砂糖水とかが好きなのかな?」
虫の生態にも詳しいルチアはすぐに想像力が働いた。
妖精は蝶々の羽が生えているから、似ているのものかと推測した。
「じゃあこれではいかがですか。お姫様」 お姫様???
エルサがスプーンにすくって口元に差し出したところ、ぺろぺろと舐めるようにして飲んだ。
「かわいい〜。猫ちゃんみたい! おいしいでしゅか〜?」
なぜか赤ちゃん言葉になっていることに気づき、2人は顔を見合わせた。
「これ好き!」羽をパタパタとさせながらジュースを舐める姿は可愛らしかった。
身体中からキラキラした光も放出されているように見えた。
ルチアは趣味全開でその姿をまじまじと凝視した。
「きっとりんごジュースなんて普段食べれないもんね。てか、なんだかエルサと仲良くなれそうだね」
いつも思うが、こんなにゆるくて学園トップの才女なのが信じがたい。
「お姉ちゃんも好き!」ぴょんぴょんと飛び跳ねながら感情を表現する小さな妖精。
「きゃあ、かわいい! エルサだよ。もっとのんでくだちゃいね〜」
満面の笑みで世話をはじめるエルサはもはやお母さんだ。
「これはもう養子にしたらいいんじゃないのか?」
怒涛の圧に圧倒され引き気味のアリウス。
「うーん、とにかく仲良しになれそうだよねえ。よかったよ。それにしてもかわいいね」
「まあ、確かに。男の俺も悔しいが認めざるをえない……うっ!」
ビクッ! 一瞬鋭い眼光を感じたアリウス。
「ティアちゃーん、おいしいでしゅか〜」
……いや、まさか。それはどうやら気のせいだったようだ……?
突然表れた妖精も仲間に加わり、その後もルチアの快気祝いは続いた。
とあるファンタジーで串焼きが出てきたので感化されてしまいました。
ややミスマッチなのですが、キャラが現代の食べ物を食べている雰囲気って良いですね。




