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国王謁見② 軍師ジン・アカツキの過去

「我々も、悪事を成す者共の存在は把握しておる。先の事件は結界を破っての侵入だったのだ」


「あの錬金術師の男、また攻めてくることはあるのでしょうか?」

 不安を口にするルチア。


「トビアスか。無いとは言えないがそう容易くはいかぬよ」

「世界樹の結界は、失われた古代魔法でできておる。一度破られれば、術式が複雑化するのだ。紐解くには時間を費やす以外の手段はない。だが油断はできぬからな、警備を強化して対応にあたる。そなたの護衛も万全を図るつもりだ」


 王国軍の協力も無しに妖精ティアを守り抜くことは無理だと思った。自分一人で立ち向かうなんて、不安で夜も寝れないし耐えられない。


「そなたの護衛には、この者、ジン・アカツキを充てがおう。我が国屈指の剣の達人だ。そのうえ頭も切れる」


 東欧風の出立ちをした男は、黒い長髪を後ろで束ね、メガネをかけた気真面目そうな青年だった。

「おっと、なんと過分なお言葉を」

 少し過剰気味なリアクション。だがそれはしたたかであり、嫌味な感じは無い。そして柔和な表情で挨拶をする。


「ルチアさん、ジンと申します。よろしくお願いしますね」

 ルチアはお辞儀で返した。

 軍の最重要人物、その割には優しそうだなという第一印象。

 そして、どこかで会ったことがあるような。初対面とは思えない感覚がした。


「話は変わるがルチアよ、そなた魔法省試験を受けるそうだな」

 身辺調査は抜かりないようだった。

「はい。色々考えましたが、仕事と使命を両立できたらと思っています」

「良い選択だな。魔法省に身を置けば行動範囲も広がるだろう。何なら私のほうから一声かけておこうか?」

「いえ、そこまでお手間をおかけするわけには!」

「わはは、そう言うと思ったよ。ちょっとした冗談だ。健闘を祈っておるぞ」


 王様というと厳格な人間像を想像していたが、意外とざっくばらんな性格なのかもしれない。ルチアはそう思った。一方で、よく人を観察しているなと感心した。


──その後も今の家族のことや学校生活のことなどいろいろと聞かれたので話した末、挨拶をしてルチアは謁見の間を後にした。後で警備についての説明があるようだ。


 少女の後ろ姿を見送った後、王は腕を組み、隣に立っている軍師に言った。


「血は争えんということか。まさかマリアの形見が巫女とはな」


「少々驚き入ったお話でした。マリアと我が妻、2人の願いは受け継がれた。そうとでも言うのでしょうか?」


「さてな。子にまでとは、少々酷であると思うが」

 重々しい口調で呟くと、王はジンの表情をうかがった。

 

「ええ、神々の悪戯にしてはいくぶんか厳酷」

 伏した目に哀愁が纏う。

 何年も引きずってきたわだかまりは、2人の心の中に影を落としていた。


「……して、覚悟はどうか?」

 黄昏時。浮かび上がる鋭い眼光。


 ジンはそれを受け止め、一呼吸置いてから虚空を見つめて言った。

「止まっていた秒針は、また時を刻み出したようです──」

 腰元に下げた剣に手を添えると、しっかりとした調子で言葉を紡いだ。

「あの日のマリアの挺身によって我々の今が在ります。……私は、彼女の残してくれた大恩に報いたい」


 その言葉には並々ならぬ決意が込められていた。

 2人はルチアの本当の母、マリアをよく知っていた。


「……ルチア・ラ・フォンティーヌか。あの少女のことは任せたぞ、ジン先生よ」


「微力ながらお力添えいたします」


 王は硬い表情でうなずく。


「僭越ながら陛下……」


「どうした?」


「『先生』というのは我が身には過ぎたる称呼かと存じます由──」


「なーに、親しみを込めての意と受け取ってくれ。作戦参謀から我が剣の指南まで、お主には世話になっておるのだ。その手腕、大いに振るってくれ、はっはっは」


「なんとまた、お戯れをおっしゃる」


 一礼して謁見の間を後にした。

 格式高い意匠を凝らした廊下に金色の光が差し込む。

 沈みかけの太陽を見送りながら遠い目で過去を思い出していた。

 幼馴染だったマリア・ラ・フォンティーヌ。

 共に戦い、そして彼女が命を落としたあの日のことを──。

 

 妻とマリア、そして友、大切なものを一挙に失った17年前。

 彼らは間違いなく世界を救ってくれた。

 一方で1人残されたジンは苦悩に駆られて生きてきた。

 だが今日、再び前を向く決意を持つことが出来たのだった。

 新たな世界樹の巫女、それは彼女らの残した希望の光に思えたからだ。

 

「今度こそ守り抜いて見せましょう。この剣に誓って」

 腰に下げた東洋の刀剣──。

 白い柄に美しい装飾が施されたその刀の名は『水引桜双白』

 彼はそれを強く握りしめた。

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