インターミッション 少女が守り抜いたもの
──翌朝。ルチアは病院で目を覚ました。
「…チア、ル……ア。大丈夫? ルチア」
どこからか声が聞こえてきた。
「うう、私、まだ……はっ!」
目を覚ますと真っ白の天井が目に入ってきた。
「え? ここはどこ? たしか私は…… うっ」
まだ記憶がはっきりしない。ベールに包まれたかのように目が霞む。
しばらく目をつぶり、片手でじっと頭を押さえていた。
「ルチア! 目を覚ましたんだね。よかった」
聞き慣れた声がした。優しくて暖かさを感じる。
「お母さん?」
少しずつ視野が回復していった。すると目の前に母が座っていた。
「良かった。あなた、世界樹の庭園で倒れていたらしいのよ。それを巡回中の王国軍の兵士さんが見つけてくださって」
「助けてもらって、急いで病院に運んでくださったようだ」
父が言った。2人とも付きっきりで看病してくれていたようだった。
「……心配かけてごめんなさい」
実は、ルチアは養子だった。それでも2人の両親は本当の我が子のように大切に育ててくれた。ルチアも両親を血が繋がった家族のように思っていた。それ位に、とても良い両親だった。
そんな2人に迷惑をかけないように今まで生きてきた。やってしまった。
「あなた、丸2日寝込んでたのよ。体は大丈夫?」
「え? 2日も。体の方はなんともない気が……! そういえばオーブは?」
「ん? 何をよくわからんことを言ってるんだ?」
「お母さん、私のバッグはある?」
「ええ、荷物ならそこにあるわよ」
ベッドの脇に、バッグが置いてあった。ほうきも杖も無事のようだ。
急いでバッグの中身を確認した。
中にきらりと輝くオーブがあった。
「あった! 良かった。それに夢じゃなかったんだ」
安堵してまたベッドに突っ伏した。命を賭けて守ったティアとオーブは無事だったのだ。
「あら、案外元気そうね。良かったわ。今お医者さんを呼ぶわね。診てもらいなさいな」
その後、ルチアは医者の診療を受けた。あれだけ激しい戦いを繰り広げたにもかかわらず、体に異常はないという話だった。その時の状況を簡単に説明したのだが、重大なダメージは受けていないという結果だった。
もしかしたら、精霊たちが治してくれたのかもしれない。そう思った。
不思議なことが起こり過ぎて、そんな奇跡のような話があったとしてもおかしくないと思えた。
「ルチア、今の話本当なのか?」父は怪訝な表情で聞いてきた。
「うん、強い魔法を使う男に襲われて。なんとか追い払ったけど、だいぶ重症だったと思う」
「体を打ちつけてぼろぼろだったと思うんだけど……なぜか傷が無くなってるの」
改めて思い出すと恐ろしかった。あの錬金術師と言っていた男は強力な力を持っていた。おそらくオーブの力で対抗できたものの、それも奇跡的に助かっただけだと思った。
「お母さん、私怖かった」
母は、何も言わずにぎゅっと抱きしめた。
「あらあら。ルチア、もう無理はしないで。危ないことは王国軍に任せればいいのよ」
ルチアはその温もりに安堵しながら、世界樹の女神との約束を思い出していた。
「私、本当に約束をはたせるのかな……」
アップルティーの香りがしてきた。
母が淹れてくれていたみたいだ。
そんな思いを抱きながら、温かい紅茶を飲んでゆっくりと過ごした。
ここまでで物語のオープニングという感じです。
この後、魔法省試験に向けてエピソードが進んでいきます。




