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08 かわいいものに囲まれて

 魔ディスプレイに向かって、魔王がビシッと一枚の紙を見せる。


『これがその手紙だ。今から読んでやるからよく聞いているように。────魔王様へ』



------------------------------------------------------------

魔王様へ


この度はドールハウスに住まわせていただき、ありがとうございます。

外から見ていた時もすごく素敵だと思っていましたが、中に入ったらもっともっと素敵でした。お部屋も服もお菓子も最高です!


あまりにうれしくて、感謝の気持ちをお伝えしたくなり、お手紙を書きました。

家具や服、料理を作られた方にもお礼をお伝えください。


今後ともよろしくお願いいたします。

リコ

------------------------------------------------------------



『……いい子……!!』

『ちょ! うちのドールがかわいすぎる! やめろー、泣かす気かよおおお』

『……尊っ……! ……ふうう……もっとたくさん服作る……まずは苺柄の服……!』

『うおおおおオレも──ッ! モチベ爆上げした! 料理増やすぞ──ッ!!』


(ぐっ……。くそっ、俺も絶対にピアノを魔道具化してやる! こやつらに負けてなるものかっ)



  ◇  ◇  ◇



 リコは手紙を書き終えると、パタンとライティングデスクの蓋を閉めた。

 副官からは、一日一回ここをチェックするように言われている。ドールハウスに関する質問や要望、それから退職したくなった時はここの紙に書き記すようにとのことだった。


(質問でも要望でもないけど、別にお礼を書いたっていいよね? お母さんが「冴子先生はお礼状をすぐ書くのよ。さすがだわ」って感心してたし)


 ドールハウスに転送されて以来、リコはずっと胸がいっぱいだ。でもこの感動を独り言で口にするだけでは物足りなくて、それならばと、雇用主の魔王にお礼状をしたためた。

 魔王はここまでのリコの行動を見て楽しんでくれただろうか。楽しんでくれていたらいいなと思う。まだ来たばかりだけど、ずっとここで暮らしたいとリコは願っている。




 転移して、ドールハウスの玄関ホールにいるとわかった時、リコは歓声を上げながらバンザイしてジャンプした。

 その途端、頭上でシャララ~ンと音がして、キラキラと光る虹色の光が粉雪みたいに降ってきた。副官が言っていたオーラというものだろう。ドールの感情の起伏によって現れると聞いたけれど、どうやら早速現れたらしい。

 驚きはしたものの、リコはすぐに気にならなくなった。だって、それ以降もオーラはしょっちゅう現れたから。


 転移したらまず着替えを、という副官の指示に従って寝室へ行った時もそう。ドアを開けた瞬間シャララ~ンと音が鳴り虹色の光が降ってきた。


「ふわあ~~~っ!!」


 目の前に広がる素敵空間に、自然と声が漏れてしまった。

 花柄の壁紙に、白いレースの天蓋付きベッド。まるでお姫様の部屋みたいだ。

 ドールハウスを外側から眺めていた時もすごくかわいいと思いながらこの部屋を見ていたけれど、中に入って見たら断然もっとすごかった。

 ベッドに近寄り、ボフンと仰向けに倒れ込む。


(天蓋付きのベッドって、こういう眺めなんだ。すごい、夢みたいな空間……。今夜ここで寝るの? ひゃああ無理無理! 興奮して寝られっこないよ~!)


 想像しただけで思わずジタバタしてしまう。またシャラランと音が鳴り、虹色の光が降ってきて、室内が暗転。副官の説明を思い出し、ベッドから降りて再び明るくなった時、枕元に座っているクマのぬいぐるみが目に入った。

 子供の頃から、ずっとずっと欲しかったぬいぐるみ。

 手に取って、ぎゅうっと抱きしめた。今度はトゥンクという音がして、なにかまた違うオーラが出たようだけど、もうオーラのことなんて気に掛けていられない。


「はああ……かわいい……。かわいい、クマさんかわいい! 好き!!」


 クマのぬいぐるみを抱きしめ、頬ずりする。その行為をリコは心ゆくまで楽しんだ。


(なんだかすごく満たされる……。お母さんがぬいぐるみを買ってくれなかった訳がよくわかったよ。こんなに手軽に心が満たされちゃうものが身近にあったら、絶対勉強に身が入らなかったもん)


 その後、ワードローブを開いた時も、悩みつつ選んだお任せコーデに着替えた時も、かわいい服や靴やリボンなどがうれしくてうれしくて、リコは声を上げながらクルクル回って喜んだ。

 胸元に大きなリボンが付いたワインレッドのブラウスに、ジャンバースカートは深緑の英国風タータンチェック。胴回りにギャザーがたくさん入っていて、回るとふわりと膨らんでとてもかわいい。学校の制服がジャンスカだったから、着慣れているという理由で選んでみたけれど全然違う。


 これまで着ていた服は母が選んだモノトーンか紺色のシンプルなもので、フリルやレースといった装飾は皆無だった。

 だけど、おしゃれに気を取られていたら、きっと自分はストイックに受験勉強なんて続けられなかっただろう。

 リコをかわいいものから遠ざけてきた母はやはり正しかったのだと再び実感する。



 でも。

 これからリコは、このドールハウスでかわいいものに囲まれて暮らしていく。どっぷり浸かって満喫してもいいのだ。

 しかも、それはかわいいものだけではない。


「あっ、スイーツも食べ放題なんだ! やった、フルーツがいっぱい載ってるのとかかわいいのが食べれる~!」


 自分で好きなスイーツを選ぶという初めての機会に、リコは思い切って三皿も手に取った。

 感情を露わに、好きなことをして楽しめという雇用主の要望に従って。

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