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07 ドールの反応

 着替えを終えたドールは寝室を出た。

 とてとてと階段を降り、一階のキッチンへ入ると、今度はポンポンと音が鳴り黄色い星がはじけ飛ぶ。


『おっ、これ何だったっけ』

『……わくわくのオーラ……どんなメニューがあるか期待されてる……』

『やべえ、緊張してきた』

 家具だけでなく調理器具や食べ物のミニチュアもウーゴ作だ。


 キャビネットを開くと、いろいろな料理やお菓子が並んでいる。その中からドールはケーキを二皿とマカロンを盛った皿を取った。


『プハッ、意外と欲張りさんだな』

『……きゃわ……きゃわわ……』

『感情を抑えるなと言ってある。こういう方向であれば、欲望の赴くままの行動は見ていて面白い』

『確かにー』

『……同意……』


 ドールはケーキの皿を台に並べると、タタッとキッチンを出て玄関ホールを抜け、食堂へ駆け込んだ。

 ここには装飾性の高いアンティーク調の食器を飾った食器棚がある。どれもウーゴの力作だ。

 ドールはポンポンと黄色い星を飛ばしながら食器棚の中をじっと見ている。


『もしかして、食器選んでるのか?』

『ああ。外からドールハウスを見ていた時、柄が全部違うと感心していた』

『マジかよおおお……やべえ、オレもグッときた』

『……よかったねウーゴ……どの柄選ぶかな……』


 やがてドールは苺柄のティーカップとソーサーのセットを取り出した。途端にトゥンクと音を立ててピンクの泡が飛ぶ。

 そしてポンポンと黄色い星を飛ばしながらキッチンへ戻ると、ドールはお茶を入れてケーキを食べ始めた。盛大にシャララン音と虹色の光を撒き散らしながら。


『動きも表情も単純化されてるのに、すげえ嬉しそうに飲み食いしてるように見える。不思議な感覚だけど、嬉しいもんだな。あー、かわいー』

『……作り手冥利……きゃわわ……』

 ウーゴとマリルーの言葉に、魔王も深く頷く。

 威厳を損ねそうで「可愛い」と口にするのには抵抗があるものの、このドールの一挙手一投足を愛でる気持ちは魔王も強い。


 ミニチュアは観賞用の工芸品だ。出来を褒められることはあっても、基本的には自己満足の世界だと【まおはこ】の三人は考えている。人形遊びでもするならともかく、道具や衣類として実際に使った時の評価を想定して作ってなどいない。

 だから、普通にドールが暮らす様を見られればそれで十分だった。ドール自身にここまで喜ばれるなんて思っていなかったのだ。

 まだ初日だというのに、今回のドールは既に彼らの期待を軽く超えてしまっている。


『それにしても、コイツ一体何種類オーラ飛ばすんだよ。歓喜のオーラだけでも驚いたってのに』

『まだ出るぞ』

『マジか』

『ああ。だが、少々気掛かりな反応になる。お前たちの意見を聞かせてくれ』




 ケーキを食べ終えると、ドールは再び二階へ上がった。

 向かった先は書斎。ドアを開けると同時にピコンと音が鳴り、「(感嘆符)」がドールの頭上に浮かぶ。そしてポンポンと黄色い星を飛ばしながらグランドピアノに向かったが、鍵盤に触れた途端、サァーッという音と共に雨のような青い水滴がしとしととドールに降り注いだ。

 これは悲しい気持ちになった時のしょんぼりオーラだ。ほんの一瞬のことですぐに止んだが、ドールがしょんぼりしたのは間違いない。


『気掛かりな反応ってこれか』

『ああ。音が出ないから落胆したのだろうか』

『鍵盤も動かねえしなあ』

『……ピアノ弾きたいのかも……聴いてみたい……』

『弾かせてやりてえとはオレも思うけど、鍵盤が88本もある楽器だぞ。魔道具化なんてできんのか?』


 二人の言葉を聞いて、魔王は考える。

 精巧な楽器の魔道具化。確かにすぐには手立てが浮かばない。だが、出来ないと思われるのは癪だ。

 それに、弾けるようにしてやれば彼女はきっと喜んで弾くだろう。どんなオーラを放つだろうか……見たい。


『検討してみる』

『あんま無理すんなよー。って、お? 今度は──なんだ連絡チェックか』


 ドールがライティングデスクの蓋を開けた。

 このライティングデスクは外界との通信機能を備えていて、ドールと魔王間の唯一の連絡手段だ。

 魔王からの通達はここに書面の形で送られてくる。そのため、ドールたちは一日に一度なにか届いてないか確認するよう、副官から指示されていた。


 だからこのドールの動きも送付物の確認だとウーゴとマリルーは思っていたのだが、ドールが椅子に座って紙になにか書き始めたのを見た途端悲鳴を上げた。


『……ヒッ……!』

『おい、まさか退職願書いてるのか?! やめてくれッ!!』


 これまでのドールたちがこのライティングデスクでなにか書く場合、そのほとんどが魔王への訪問の要請か夜伽伺いで、それ以外は退職を決めた時のみだった。

 そのため、ライティングデスクでの書き物は見ていて楽しい行為ではないと、【まおはこ】の三人はすっかり刷り込まれていたのだ。

 せっかくいい反応を見せてくれるドールが来たというのに、もう去ってしまうのかとウーゴとマリルーが青醒める。

 そんな二人の様子に、魔王は不敵な笑い声を上げた。


『ふははははは。安心しろ、この者が書いているのは手紙だ。このドールめ、我々に手紙を書いて寄越したのだぞ!』

『……!!!……』

『マジで──ッ!?』

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