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06 オーラ

『よお、魔お』

『……こんば』

『新しいドールが来たぞ! 今度は当たりだ、大当たりだぞ!』


 その夜、興奮した様子で魔王が作業通話にインしてきた。ウーゴとマリルーの挨拶をスルーして声を張り上げる。


『ホントか~?』

『……………』

 これまで魔王の愛人志望のドールたちに散々うんざりさせられてきた二人は、つい懐疑的な目で魔ディスプレイに映る魔王を見てしまう。


『このサークル内で偽りなど言って何になる。これから動画を流してやるからよく見ろ。そして驚き震えるがいい! うわははははは!』


 魔王の高笑いと共に、それぞれの作業通話用魔ディスプレイの隣の空間にもうひとつ魔ディスプレイが現れた。

 映っているのはドールハウスの一階玄関ホール部分。ドールを初めて投入する際は毎回この位置に転送される。故に新しいドールの動画はいつもここから始まるのだ。

 ドールハウス正面、やや斜め上からのアングルで三頭身のドールが映っている。


『へえ~、今までのヤツらと比べるとだいぶ素朴な感じだな。地味だけど清潔感あっていいんじゃねえの』

『……黒髪ショートボブ……グレーのパーカーに黒のパンツ……。……服の好み合うかな、──ッ!?』


 動画の中で、玄関ホールに降り立ったドールが笑顔でなにか言いながら両手を上げてピョコッと跳ねた。その途端、シャララ~ンという音と共に、虹色の光が粉雪のようにキラキラと耀きながらドールに降り注いだ。


『なッ、オーラ!? しかも虹色ってマジかよ! 今まで欲求不満の紫のオーラしか見たことなかったのに』

『……歓喜のオーラ……! ……初めて見た……』

『うわははははは、驚いたか! だがこんなものではないぞ』


 とてとてとドールが階段を上がり始めると、動画もドールを画面中央に捉えたまま追尾していく。

 ドールが片手で手すりをすべすべしているのを見て、魔王の顔がにやけた。


(フフフ、その手すりは俺が紙やすりで風合いを加えたのだ。いい手触りだろう。ドールハウスを見せた時も、この者の反応は喜びに満ちていた。あまりに嬉しそうに語るから、危うく顔がにやけそうになったぞ。雇用主の沽券に関わる、威厳を保たねばと顔をしかめて取り繕ったが。俺を焦らせるとは、このドールめ、なかなかやりおる)



 二階に着くとドールは寝室へ向かった。転移したらまずは着替えをと副官に指示されているので、どのドールも最初に向かうのはワードローブがある寝室なのだ。

 寝室に入った途端、またもやシャララ~ンという音と共に虹色の光が降り注ぐ。

 ドールは天蓋付きのベッドへ近寄ると、仰向けにボフンと倒れ込んだ。笑顔で手足をバタバタさせているドールに、再びシャララ~ンと音が鳴り虹色の光が降る。


『かっわい───ッ!!』

『……きゃわっ! きゃわわっ……!』

 ウーゴとマリルーの歓声が重なる。その反応に、内心で深く頷く魔王。


 あいにくと、魔王の愛人志望者対策のせいでベッドに上がると30秒で室内は暗転してしまう。

 薄暗い中、ピコンという音と共に「(感嘆符)」がドールの頭上に浮かんだ。これは驚嘆のオーラ。主に驚いた時に、また感心した時にも現れる。

 ドールはすぐさまベッドから降り、照明が復活する。この仕組みは副官から説明済みだ。

 続いてドールは枕元に置いてあるぬいぐるみを手に取り、ぎゅっと抱き締めた。同時にトゥンクという音と共に桃色の泡がふわふわと降ってくる。音が鳴る度にシャボン玉のような泡が降った。


『これ、ときめきのオーラか? すっげー! しかもなんだよその動き。かわい過ぎんだろー、くそッ!』

『……ときめきの音、トゥンク……尊い……。……ぬいぐるみ作ってよかった……きゃわわ……』

『うむ、こういうのが見たかったのだ!』



 ぎゅうぎゅう抱き締めて気が済んだのか、ドールはぬいぐるみを元の位置に置くと、今度はワードローブの前に立ち、戸を開いた。途端にシャララ~ンと音が鳴り虹色の光が降る。


『おい、マリルー。お前の服気に入ったみたいだぞ』

『………………』


 ワイプに映るマリルーは食い入るように魔ディスプレイを見つめている。

 ふいにドールが白い光に包まれた。ワードローブも魔道具化されていて、服を選択すると自動で着替えが完了する仕組みになっているのだ。

 マリルー作の服に着替えたドールが声を上げながらクルクル回る。またトゥンクと音が鳴り桃色の泡が降った。


『……ジャンスカ着てもらえたの初めて……しかもわたしのお勧めコーデで……ぐすっ……』

 厚い前髪で隠れているマリルーの目は見えない。だが、頬が涙で濡れて光っているのが作業通話の画面越しの二人にも見えた。


『よかったな、マリルー』

『うむ。だが、お前の天蓋付きベッドも喜んでいたではないか』

『おっ、そういえばそうか。ドールのリアクションとオーラに気が行ってて、全然意識してなかった』

『ここから先はほぼお前のターンだぞ、ウーゴ』

『マジかよ』

 マリルーの服とぬいぐるみは寝室にしかないが、ウーゴの調度や家具はドールハウス中にある。


『ちなみに、ドールには俺が家担当で、家具と小物類、服飾の担当がそれぞれいると伝えてあるからな。ドールはお前たちのことも認識している。それを踏まえて反応を楽しめ』


 魔王はそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。

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