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04 魔王の面接

(ドールハウスに住めるの? 素敵!)


 理子の胸はときめいた。彼女はかわいいものが大好きなのだ。

 ただ、母の教育方針で幼い頃からかわいいものを遠ざけられて育ったので、思う存分かわいいものと触れ合ったことがない。本当はすごく欲しかったが、ぬいぐるみや人形も与えられなかった。

 なのに突然、ドールハウスというかわいいものの集合体のような場所で暮らすという夢のような話が目の前に転がり込んできた。

 しかも、好きなことをして自由に暮らしていいだなんて。仕事なのに、これほどいい条件が他にあるだろうか。


(この機会を逃したくない。でも雇用主が魔王っていうのはやっぱり怖いよ。どうしよう……)


 理子の躊躇を察したのか、男は仕事について更に説明を加えた。

 求人の目的はあくまでドールハウス型の魔道具の中でドール役の住人に生活させ、その生活行動全般を観察すること。

 生活は一人で。基本的に雇用主である魔王との接触はなく、“夜伽”はあくまで表向きの条件であり実態はない。

 食事も睡眠も好きな時に取ればいい。何をして過ごしても住人の自由。ただ、できるだけ雇用主の意図を汲み、積極的に活動する人員を求めているのだとか。


「勤めてみて自分に合わないと感じたらすぐに辞めてもらってかまいません。実際これまでも何人か斡旋しましたが、皆さんサクサクと辞めてますので。魔王の愛人希望な方たちにはご不満だったようで、次の職へと移っていかれました」

「好きな時に辞められるうえに、次のお仕事もお世話してもらえるんですか」

「もちろんですよ。突然転生して大変でしょうが、どうせなら楽しく働いて欲しいですからね。納得のいく職業に当たるまで、何度でも転職してください。我々も協力を惜しみませんので」


 退職を告げても命を取られたりはしないようだ。愛人希望者がすぐ辞めるくらいだから、本当に“夜伽”はないんだろう。

 それに“楽しく”、“納得いくまで”という男の言葉にも背中を押された。

 何度でもやり直せるなら一度ドールハウスに住んでみたいと理子は思った。インターンシップみたいなものだと考えたら、少しはハードルも下がる。


「やります。ドールハウスの住人のお仕事、紹介してください」

「では、まずは雇用契約の手続きに関する説明を。その後に雇用主の面接を受けてもらいますね」



 こうして理子は「魔王のドールハウスの住人」になるために異世界へと転生したのだった。



  ◇  ◇  ◇



 魔王は執務室で仕事をしていた。副官が差し出す書類を次から次へと捌いていく。

 外へ出向いて乱を鎮圧したり制裁を加えたりするよりは楽な仕事だが、頭の痛い案件も少なくない。まったく、どうして魔界にはこうもトラブルを起こす輩が多いのか。魔王の眉間にしわが寄る。

 そんな書類のひとつを手にしながら魔王が深々とため息を吐いたその時、執務机から少し離れた床に円柱状の淡い光の柱が立ち上がった。


「おや、ドール候補が来るようですね。今度は長続きしてくれると良いのですが」

「先日お前に出させた要望書次第だろうな」

「それなら良い人材が送られてきますよ。我が君の要望を的確に記しておきましたからね。どうぞご安心を」

「フン、あまり期待はしておらんが。まあいい、面接する。履歴書を寄越せ」

「はいはい」


 副官は光の中に浮かんでいる紙を取ると魔王に手渡した。

 魔王が履歴書にざっと目を通す。特に見るべき点はないが、今回のドール候補はこれまでの者たちと比べてかなり若いようだ。

 一抹の不安はあるものの、魔王は光の柱に面接許可の合図を送った。

 どうせ形ばかりの面接だ。実際に住まわせてみないことには適性はわからないと、これまで一度も面接で不採用にしたことはないのだから。

 すぐに光の中に人影が浮かび上がる。それに向かって魔王は声を掛けた。


「雇用主の魔王エルメネヒルドである。直答を許す。我がドールハウスの住人職を希望する者か」

「はっ、はい。リコと言います。よろしくお願いします」


 リコと名乗った女は光の柱の中でぺこりとお辞儀をした。緊張した面持ちで笑顔はない。少なくとも雇用主である魔王に媚びを売ろうとする様子はなかった。


(ふむ。これまでの者たちとは毛色が違うようだな。少しは期待が持てそうか。しかし、若いというよりまだ子供ではないか? 履歴書には成人とあるが)


 こんな子供が愛人志望だとは思わないが、通常どおり最初に釘を刺しておく。


「職種は“魔王の愛人”となっているが単なる建前で実態はない。“夜伽”も便宜上契約書に記載してあるだけでこれまで一度も実施しておらぬ。期待するなよ」

「ッ! はい、わかりました!」


 女はパァッと明るい顔になった。良かった、安心したという表情だ。それを見て、顔には出さないものの魔王は少しムッとした。

 愛人扱いされることはない、夜伽もないと知って喜ばれるとは。愛人志望のドールたちを煩わしく思っていたのに、こうして露骨に喜ばれるとそれはそれで面白くない。男心は繊細で複雑なのだ。


 魔王が副官に視線を送ると、副官はリコという女に細々とした確認事項や申し送りなどを伝え始めた。女は時折頷きながら真剣な顔で話を聞いている。


「以上を踏まえた上で、就職希望に変わりはないか」

「はい」

「ならばこちらへ。お前が住むことになるドールハウスを見せよう」


 女の顔に喜色が浮かぶ。どうやら魔王の愛人ではなくドールハウスの方が目当てだったらしい。


(この反応……。期待できるかもしれんぞ)

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