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魔王の箱庭  作者: 恵比原ジル


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37/40

37 マリルーのサプライズ

 朝起きて、着替えようとワードローブを開けたリコの目に新しい衣装が飛び込んできた。


「えっ、もしかして着ぐるみ!? しかもクマさんの! ふわあ~っ!!」


 ピコンと音がして、すぐにシャララ~ンという音と共に粉雪のように虹色の光が降った。

 ふわもこの質感にずんぐりしたシルエット。修学旅行で同じ班の子が着ていた着ぐるみ風ルームウェアとよく似ている。

 パジャマにもできるんだと、その子がフードを被ったまま寝るのを見てリコはびっくりした。そしてちょっぴりうらやましく思った。母は絶対に買わなそうだから早々に頭から追い出したけれど。


 なのに、まさか異世界のドールハウスの中で着れるなんて。


 ポンポンと音を立てて黄色い星が飛ぶ。リコはドキドキしながら着ぐるみルームウェアに着替えた。

 鏡を見た途端、トゥンクと音を立てて桃色の泡が降る。


(かわいい。確かにかわいい、んだけど)


 リコは思わず吹き出した。


「プッ、ふふ、あはは。おかしい、おもしろーい!」


 すごくかわいいけれどシュールだ。おもしろさの方が勝ってリコは笑い転げた。

 床の上で、文字どおり転がって、ついでにでんぐり返しもしてみる。おかしい。おもしろい。


「ハァ~、笑った……。これ着る時はいつもと同じじゃダメだよね。いつもと違うように……そうだ、今日はぬいぐるみになったつもりで過ごそう!」


 両手をパンと叩き、まずはスキップで移動開始。足裏には滑り止めが施してあるようで、軽快に動ける。


 書斎を覗いて通達チェック。ライティングデスクは光ってなかったので一階へ向かう。

 階段は手すりを跨いで滑り降りた。小学校の時、男子がやっているのを見て、ちょっとだけリコもやってみたいと思っていたのだ。


 広い玄関ホールに降り立つと、今度は鼻歌のメロディーにあわせてラジオ体操をする。

 スカート姿で運動するのは何となく憚られて今までしていなかったのだが、着ぐるみ姿なら問題ないだろう。


 クマのぬいぐるみと向かい合っての食事は、おかしくて笑ってばかりいた。

 テーブル橫の窓ガラスにぬいぐるみのツーショットが映っている。かわいいけれど、おもしろい。

 そして、窓ガラスに映っているのを見て今気付いたが、首もとのリボンがお揃いだ。

 リコはうれしくなって、思わずドールハウスの正面に向かってバンザイをした。また虹色の光と桃色の泡が降ってくる。


「着ぐるみの製作者さん、ありがとう~!」


 その後は、寝そべって本を読んだり、ピアノでねこふんじゃったを弾いたりと、いつもの自分とは違う行動をし続けた。

 まるで別の人になったみたいで楽しい。


(動画を観て魔王様もいっぱい笑ってくれるかな。お仕事の合間の気晴らしになったらうれしいなぁ)


 そんなことを考えながら、ウサギのぬいぐるみを抱き締めてリコは眠りについた。



  ◇  ◇  ◇



『……こんばんは……』

『マリルー! あれは一体何だ!』

『うーわ、してやったりって顔してるぜ』

『やはりウケを狙って作ったようですぞ』


 マリルーの顔は長くて厚い前髪で隠され、鼻から下しか見えていない。だがウーゴの指摘どおり、口角の上がり具合はどう見てもにんまりと笑っている。


『……何って……きゃわわだったでしょ……?』

『ああ、めっちゃかわいかったぜ! 不意打ち食らって悶えまくったけどな。でんぐり返しとか、もお殺しに来てるだろ~。スクショ厳選するの大変だったぞ』

『まったく、けしからんですなぁ。もっとやっていいんですぞ?』

『ぐぬぬ』


 クマの着ぐるみはウーゴとロレンソにとても好評だ。魔王も普段とは違う動きを引き出したマリルーを褒めたい気持ちはある。

 ただ、あの着ぐるみ姿が先日サイクロプスの族長に下賜したクマのぬいぐるみに似ているように思えて、なんとなく取り戻したいような落ち着かない気持ちにさせられた。

 ウーゴが厳選した着ぐるみ姿のスクショを見る度にそわそわしてしまう。


 そんな気の迷いを振り払うかのように頭を振ると、魔王は進捗の報告を促した。


『ようやく庭が完成しましたぞ! 小鳥も差分込みで一羽分納品されまして、さっそくカミロが魔道具化してくれました。鳥が止まる樹木の設置も含め、ひと通り作業は完了したと言えますな』

『家具や食器や料理、オレの担当分の設置は終わってるぜ。バードバスとか後から足してく分ももう結構出来上がってるけど、まあそっちは追々ってことで』

『……庭で園芸できるように……エプロンドレスや帽子を増やした……。……着ぐるみも……もう一着作る……。……新しい家にも置こうね……』

『俺もカーテンの設置は済んでいる。あとは、ドールハウスと庭を一体化して魔道具化する作業だけだな』


 魔王にとって、ドールハウス内に人を縮小して転送し、中で暮らせるように魔道具化するのは二度目なのでさほど難しくはない。

 ただ、ドールハウスという閉じた空間だけで成立していた前回と違い、今回は庭という開けた空間を含むため、範囲設定や細々とした調整に手間が掛かるだろう。


『それが終わったらいよいよ引っ越しだな? よっしゃーッ! またリコリコのかわいいリアクションが見れるぜ!!』

『……うふふ……楽しみ……』

『リコちゃんのお庭デビュー! 待ちきれませんな!』

『ああ』



 【まおはこ】メンバーは皆、期待に胸を膨らませている。


(ただ、新しいドールハウスは今までとは勝手が違うところがいくつかある。移転前に一度説明してやらねばならんな)


 魔王はリコに通達を出し、移転説明のため訪問する旨を伝えた。

 「クマの着ぐるみを着て待つように」との指示付きで。

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