34 ミニチュア動物フィギュアに関する話し合い
リコと同じオムライスを満喫した昼食の後、一昨日リコが飲んだというアップルティーを皆で飲みつつ、ロレンソが新たな話題を切り出した。
魔王に頼まれた小鳥のミニチュアフィギュアに関して、知り合いの作家と連絡がついたらしい。
「まずは腕前を見てもらおうと思いまして、作品を一つ入手してきましたぞ」
「ほう、アクアリウムか。素晴らしい出来だな」
「すげえ。本当に泳いでるみたいだぜ」
「……きれい……リコピ喜びそう……」
ロレンソが披露したのは水槽の中を小さな魚が数匹泳いでいる作品だ。
魚のサイズは小さいし、尾を左右に動かす程度なら差分なしでも魔道具化できるだろう。魔王は問答無用で魔道具化を決定した。もちろん魔道具師のカミロに発注するつもりでいる。
「小鳥のミニチュアフィギュアですが、差分ありで、まずは一羽作ってくれるよう頼みましたぞ。鳥の種類を指定しろと言われましたが、どうせ我々にはわかりませんからな。庭と背景に設定する植物を挙げて、その植生に合う小鳥をと頼んでおきましたぞ」
「うむ。それでかまわん」
「ただ、このとおり腕はいいんですが、少々面倒な奴でしてな。こだわりが強いせいか、こちらの魔道具化に注文をつけてきました」
ロレンソに面倒な奴と言われるなんて、一体どんな人物なのか。ロレンソ以外の三人は内心でそう思ったが、口には出さなかった。
それにしても、そのミニチュア動物フィギュア作家の要求とは一体どんなものなのか。
「それが、魔道具化するなら、鳥の動きだけでなく鳴き声も再現して欲しいと言うのです。可能ですかな?」
「鳴き声? ああ、鳥のさえずりか」
「へえ、おもしろそうだな。よく考えたら、今って玄関ホールの時計とピアノ以外はほぼ無音だろ? ふとした時に鳥のさえずりが聞こえたらいいかもな」
「……癒される……」
アクアリウムに、鳥の動作だけでなく音声も伴う魔道具化ときて、ミニチュアの魔道具化を担当しているカミロと意見のすり合わせが必要と感じた魔王は、急遽を彼をこの場に呼びつけた。
何のことはない。資料編纂室設置の際に魔道具師のカミロは分室2に配属されており、今日はオフ会で部屋を占拠されているため隣の分室1で作業していたのだ。
カミロは高い技術を持つ魔道具師だ。発想も柔軟で、魔王も一目置いている。
だが、魔道具にしか興味がない。魔道具の動作確認のためにドールハウスの動画チェックはしているものの、ドールには一切関心が湧かなかった。
なので、ドールの挙動にキャッキャしている【まおはこ】メンバーと慣れ合う気はなかったのだが、分室2に配属された以上関わらないわけにもいかない。
「どうも。カミロ、魔道具師ッス」
そんなわけで、現れたカミロはまったく愛想がなかったが、アクアリウムのミニチュアを見せられた途端、目を輝かせた。
「この魚を泳がせればいいんスね? 差分なし? これくらい問題ないッスよ。んで、その次は鳥のミニチュアフィギュアで、へえ~、鳴き声もつけるんスか。おもしろそうッスね。いいッスよ、引き受けるッス」
なかなかいいチャレンジを持ってくるじゃないかと、腕が鳴ってうずうずしているカミロに、ウーゴが話し掛ける。
「なあ、カミロ。鳥の動きってどんなのを想定してる?」
「飛んできて、枝に止まって、また飛んでくって感じッスかね。ジローに鳴き声の音データを探すついでに映像も集めてもらって煮詰めるつもりッスけど」
「オレ、バードバス作って庭に置いたらどうかって思ったんだけど、水飲んだり水浴びしたりって動き、魔道具化できそうか?」
「ッ!!? いいッスね! オレやってみたいッス!!」
【まおはこ】と慣れ合う気はなかったカミロだったが、予想外に興味の惹かれる提案をされ、俄然やる気が出てしまったようだ。
「魔王。庭にバードバス置いてもいいか?」
「いいだろう。ロレンソ、ミニチュアフィギュアの差分に水飲みと水浴びを追加発注しておいてくれ」
「ハーイ、任されましたぞ~」
「……餌もあるといいな……」
「おお、マリルーちゃんのアイディアもらってもいいですかな? 実がなる木を植えますぞ!」
「……楽しみ……」
アクアリウムの作品を手にカミロは嬉々として去って行った。すぐに魔道具化の作業に入るのだろう。
ミニチュアフィギュアの魔道具化で盛り上がったせいで、予定していた魔王のエアブラシ講習はだいぶ時間が押してしまった。
「見当たらねえけど、魔王のエアブラシはどこだよ。塗装ブースは?」
「あそこだ」
魔王が指差したのは部屋の一角。そこにあるドアをひょいと開けたウーゴは、中を見て思わず絶句した。
「……でかっ! なんだこの塗装ブース、プロ仕様通り越して業務用じゃねえか」
「だが、土台の板のサイズを考えたら卓上のものでは小さいだろう? もちろん普通の卓上サイズのも用意してあるぞ」
「ハァ~、またオーバースペックなもん買いやがって……。しかもエアブラシ、ポデロッソ社製かよ」
「えっ、めちゃくちゃ高額なのでは!?」
「ウーゴが言った基準で選んだんだが」
「ああ、確かに言った。空気圧高い方が絶対作業効率いいから、パワーのあるコンプレッサー選べって。言ったけどよぉ、ったく」
「……ウーゴおつ……」
なるほど、こういう感じで愛人用の予算が必要になっていったのだなと、ロレンソは深く納得した。
愛人と言うと魔王が怒るので、口には出さなかったが。




