25 ミニチュアプラントに関する話し合い
『あ、そのミニチュアプラント作家から作品を買ってきたぞ。作業通話でマリルーに見せてから魔王に送ろうと思ってさー。すげえ細かくていい品なんだけど、動画だと決まった角度からしか見れねえし、置き場所によってはあんまり映らねえかもしれねえからな』
『……ありがと……』
ウーゴは手のひらに買ってきたミニチュアプラントを載せて、魔ディスプレイにアップで映るようにしてみせた。
ひとつはガーベラの盛り籠。籐の籠に様々な色のガーベラが飾られている。
もうひとつはチューリップの一輪挿し。細長いガラスの花瓶に赤いチューリップが挿してある。
『……きゃわわ……!!』
『ほう、細かい細工だな。よくできている。素晴らしい、気に入ったぞ』
『へへッ、いいだろ? とりあえずこの二つを買ってきたんで送っとくぜ』
『うむ』
ウーゴが調達してきたミニチュアプラントはマリルーと魔王にも好評だ。
建材や家具、服飾品とは違って生き物を模しているからか、生気や瑞々しさを感じさせる。
これらをドールハウスに飾ったらさぞかし華やかになるだろう。
ひとしきり作品の感想を述べ合ったあと、今後ミニチュアプラントをどう取り入れていくかに話題は移った。
『なあ魔王。ドールハウス内で植物って成長させられるのか? 毎日一回リセットかかるんだろ?』
『魔道具化すれば問題ない。個別に成長周期を設定してやればいける…………が、成長過程ごとのミニチュアが必要になるな』
『やっぱ差分が必要かー』
差分とは、元の状態から一部分だけを変えたもののことだ。
植物の場合だと、種類にもよるが、発芽、つぼみ、開花、結実、落花、立ち枯れや休眠状態といった感じだろうか。
『もっと省略できるだろうけど、芽・花・枯れ葉ってのも微妙だしなあ。このミニチュアプラントの作家はロレンソっていうんだけど、ロレンソが言うにはミニチュアプラントって基本的に開花状態しか売れねえから、それ以外は芽かつぼみくらいしか作らねえんだってさ』
『それはそうだろうな』
『……わざわざ花が散ってるのを買わない……』
『でも、発注すれば差分も対応してくれるってよ』
なんでもロレンソは重度の花好きで、花が咲くまでの過程も散って実を結ぶ過程もすべてが美しいと考えているらしい。
売れないから作らないだけで、作ること自体はウェルカムなんだそうだ。
『奇特なことだな。……そのロレンソとやら、【まおはこ】に入れても大丈夫そうな人物か?』
魔王は聞くまでもないと思いつつ、一応ウーゴに尋ねてみる。
問題があると思っているならウーゴはこの作業通話でロレンソの名前を出さなかっただろう。
そう思って尋ねたのに、ウーゴの返答は歯切れが悪かった。
『う~~ん、大丈夫かって聞かれると微妙っていうか……』
『信用が置けぬ人物なのか?』
『いや、そうじゃねえよ! 腕はいいし仕事も丁寧だし口も堅い。今後ドールハウスに庭を作るなら、絶対メンバーにいた方がいいと思ってる。……けど、ちょっと癖が強いんだよなあ~。魔王やマリルーがイラッとしねえか、そこらへんが不安。あんまり自信がねえ』
ウーゴの言葉に、一体どんな人物なのかと若干不安を抱いた魔王とマリルーだったが、とにかく人物を確認しないことには評価は下せない。
一度作業通話に参加させて様子を見てみて、無理そうだったら【まおはこ】入りはなし、作品購入だけでいいのではという感じに話は落ち着いた。
とりあえず、人物うんぬんは置いておいて、もう少し作品を見てみたいと魔王が言うので、魔道具化前提の差分ありミニチュアプラントを一つ発注することになった。
『んじゃ、差分ありのやつ、オレが発注してくるわ。どんなのがいいんだ?』
『任せる』
『おい』
『……無茶振り……』
『花のことなど知らん! マリルー、なにかいい案はないか』
『………………』
困ったときにアイディアを求められることの多いマリルーだが、今回は返答するのに少々時間が掛かった。
しばらく黙々と針を動かしたあとで、ポツリと答える。
『……ロレンソに一任……。……どんな作品を作ってくるか見てみたい……』
『ふむ。技量だけでなく、センスやこちらのニーズをどう捉えるかも見るということだな。ウーゴ、その方向で発注できるか』
『そうだなー。素人が園芸を始めるのに最適なもの、っていうテーマで差分ありのミニチュアプラントを作ってくれるよう頼んでみるか』
『それでいい』
【まおはこ】の三人とも園芸は門外漢だ。
ロレンソの人物評はともかく、庭作りのことを考えると植物に精通している人材は必要だと、今日の作業通話で三人ともはっきりと認識した。
同時に、庭作りを想定するなら、かなりの量のミニチュアプラントの魔道具化が必要になるのではという懸念も浮上する。
『今回発注するやつの魔道具化も魔王がするつもりか?』
『……いや、カミロに発注する』
『それがいいな』
景色と時間経過の変化などのドールハウス本体に関するものや、今回のピアノのように大量の魔力を必要とする魔道具化は魔王が直々に行っている。
ただ、魔王は多忙なため、細々としたものまでは手が回らない。
そこで、キャビネットやクローゼット、本棚といった細々としたアイテムの魔道具化は魔道具師のカミロに任せてきた。
(ドールハウスの規模が大きくなってきた。ジローのチームと合わせて部署を作った方がいいかもしれんな)




