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魔王の箱庭  作者: 恵比原ジル


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21 魔道具あれこれ

「それでね、卵黄には水と油みたいに混じり合わない液体を乳化させる働きがあって、それを利用したのがマヨネーズなんだって! マヨネーズが酢と油と卵黄でできてるってのは聞いたことあったけど、単にそれを混ぜたらおいしいからってわけじゃなくて、乳化っていう働きを利用してたなんて知らなかったな~」


 おやつを食べている間、リコはクマのぬいぐるみを相手に先程読んだ本で知ったことをおしゃべりしていた。

 子供っぽいことをしている自覚はある。でも、動画で観ている魔王たちにリコの言葉はわからないのだし、子供時代をやり直しているんだからいいんだと、本人は気にしていない。

 それに、言葉にすることで考えを整理できる。 


 卵の乳化性を利用している例として本に載っていたパウンドケーキがキャビネットにあったので、おやつにはそれを選んだ。バターをよく混ぜながら卵を少しずつ加えて乳化させることで、生地がきめ細かくなるらしい。


「んふふ、しっとりふわふわだ~。きっとバターと卵がしっかり乳化してたから、こうやってふんわり焼けたんだね。すごいな~」


 アーモンドのスライスを散らしたパウンドケーキは、アーモンドの香ばしくてカリッとした食感に、生地はしっとりして口どけが良くて本当においしい。



 キャビネットにはいつも何種類かの料理とお菓子が入っていて、リコは毎日うきうきしながら選ぶ。どれもおいしくて、食事とおやつが楽しみだ。

 このキャビネットも魔道具で、中は時間が止められており、料理などが冷めたり溶けたり傷んだりしないようになっている。そして毎日中身が変わる。

 おやつを食べ終えると、リコは食器を食洗器の魔道具へ入れた。蓋を閉めると自動で洗って片付けるようで、次の食後に蓋を開けると中は空になっている。

 食堂の食器棚から取り出したティーカップなどは元の位置に戻るが、キャビネットから取り出した料理やお菓子の皿は消えてなくなる。その行き先はどこなんだろうか。

 ドールのリコは排せつもしないので、お腹に入った食べたものの行き先も秘かに気になっている。


 キッチンはドールハウス内でも特に魔道具が多い。紅茶を淹れる時に使う給水・給湯用のケトルも魔道具だし、シンクはドールハウス内で唯一水で手やものを洗える場所で、「洗浄」と言うと水が出る魔道具だ。

 これだけ魔道具だらけなら、コンロやオーブンにもその機能があってもよさそうな気もする。ただ、ケトルと違って、コンロやオーブンは火事が起きたら大変だから仕方ないのだろう。



 寝室のクローゼットも魔道具だし、リコは使っていないけれど、ドレッサーはメイクとヘアセットができる魔道具だと副官が言っていた。

 書斎の本棚にライティングデスクと、リコの暮らしは魔道具に囲まれている。さすが異世界。とてもファンタジーだ。

 もちろん、ドールハウス自体が魔道具なので、今更特筆するようなことではないのかもしれないけれど。


 魔道具化したアイテムがないのは食堂くらいだろうか。

 カーテンの開け閉めとティーカップを取りにいく時にしか向かわない食堂は、他と比べると訪れる頻度がだいぶ低い。

 食堂を使わないことをリコは申し訳なく思っていたが、八人掛けの長テーブルでひとり食事するのは気が進まなかった。がら~んとしていて、さすがに寂しくなりそうだったのだ。


 今はキッチンに小テーブルが設置され、クマのぬいぐるみと一緒に食事できるようになった。食堂を使わないことを許容されたようで、リコはホッとしている。




「じゃあね、クマさん。また夕ご飯の時にね~」


 キッチンのドアを開けながら、リコは振り返って胸のあたりで手を振る。

 クマとウサギのぬいぐるみを前にすると、つい顔がふにゃっと笑ってしまうくらいにリコはあの子たちを気に入っていた。

 自分の中に沸々と「好き」という感情が湧いてきて、ドバ~ッと溢れ出るこの感じ。愛情とは、いつか温泉地で見た間欠泉みたいだとリコは感じている。ぶわ~っと熱い水蒸気や熱湯を吹き出すのだ。


 好きという気持ちのパワーの凄さを噛みしめつつ、リコがキッチンを出ようとした時、ズズッと足元が沈み込むような、エレベーターでGが掛かった時のような感覚を覚えた。


(立ち眩みかな)


 そう思ったのもほんの一瞬のことで、すぐに違和感はなくなった。

 このあとリコはピアノの練習をしに書斎へ行くつもりだ。

 昨日から練習を始めたG線上のアリアのメロディーを口ずさみながら玄関ホールへと出た、のだが。



 玄関ホールに、黒くて大きな異物が存在していた。



「ひゃっ!!」


 驚きのあまり声が出てしまった。

 リコの声に反応したのか、それともドアを閉めた時の音に反応したのか、その黒くて大きな異物は睨むような目でリコを見ている。


 目が合って、ようやく気付いた。


「えっ、魔王さま!?」


 玄関ホールにいた異物は、リコの雇用主で、険しい表情で仁王立ちしている魔王だった。

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