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魔王の箱庭  作者: 恵比原ジル


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02 ドールの求人

『お、今日はオレが最後か。おつー』

『……こんばんは……』

『大儀である』

『プッ、なんだよそれ。仰々しいなあ』

『お前が挨拶挨拶とうるさいから言ってみただけだ。気に入らんならもう言わん』

『拗ねるなって。労いの言葉だし“おつ”と似たようなもんだろ。魔王っぽい挨拶ってのも特に思い付かねえし、いいんじゃねえの』

『……“ああ”だけより全然いい……』


 今夜も作業通話には【まおはこ】メンバー全員が揃った。

 魔王は床材となる細長い木の板を一本ずつ筆で塗装していたが、全員揃うなり作業の手を止めて口を開いた。二人に報告があったのだ。


『あのドールが辞めたぞ』

『ようやく帰ったか~っ! 安心したぜ』

『……よかった……』

『今回はマジで酷かったよなあ』

『……服着て欲しかった……』

『まったくだ』


 ドールとは、魔王が作ったドールハウスの住人のことだ。

 生きた人間が暮らせるよう魔王がドールハウスを魔道具化し、その住人役の斡旋を職業案内所に依頼した。しかし、残念ながら今のところ上手くいっていない。紹介されて来たドールが居着かない日々が続いている。

 もっとも、こちらの気に入るようなドールは来ていないので、自主的に退職してくれるのはありがたいのだが。


『やっぱ“魔王の愛人”って募集の仕方が不味いんじゃねえの?』

『実際に愛人用の予算を使っているのだから仕方あるまい』


 魔王がドールハウス関係で使える費用は既に予算額いっぱいまで使っていて、自由になる枠はそこしか残っていなかった。他からの流用は副官が許さないのだ。


『高級ツールばっか買ってるからだろ』

『ドールハウスの魔道具化に金が掛かったからだ! 第一、腕がないなら良い道具で補えと言ったのはお前ではないか』

『だからって、いきなりビルエナ工房の匠シリーズで揃えるヤツがあるかよ。オレよりいいの使いやがって』

『……あちこちの処理が格段に綺麗になってる……使って正解……』

『フッ。そうか』


 確かにオリハルコンのデザインカッターの切れ味は抜群だ。執事に持ってこさせた文具箱に入っていたものを使っていた時とは雲泥の差だった。

 精霊銀のピンセットも繊細な操作感で非常に使いやすく、魔王はとても気に入っている。




『話戻るけどよー、こんだけ外れドールが続くとモチベ下がるよなあ。せっかく次のドールハウスの製作が始まったってーのに』

 ウーゴの言葉に他の二人も深く頷く。


 魔王はもちろん、ウーゴとマリルーもドールが暮らす様を眺めるのを楽しみにしていた。

 なのに、求人内容が“魔王の愛人”となっているせいか、応募者は魔王の寵を得ようと色気を振りまく者ばかり。

 やたらと風呂に入っては肢体を誇示したり、ベッドの上で悩ましげな振る舞いをしたりするのでバスルームを撤去。ベッドも改造を施した。

 にもかかわらず、未だに魔王を誘惑しようと試みる者が続いていて、【まおはこ】メンバーは辟易していた。


『オレらが見たいのは“かわいいドールのリアクション”だっつーの。ドールハウスに入ったらお前ら7センチ弱の三頭身だぞ、色気なんか皆無だって教えてやれよ』

『毎回副官が説明している。身体の縮小に伴いビジュアルは単純化され、細かい動作も省略されるから無駄なことはするなと言っておるのに』

『……剥き出しのドール……悲しい……』


 ワードローブに入っているマリルーの服は丈の長いワンピースが多い。露出度の低いそれらが気に入らなかったのか、今回のドールはすぐ下着姿になった。しかも魔王の反応がないとわかると、今度は裸で過ごすようになるという始末。

 自分たちの作った服を着たドールが自分たちの作ったドールハウスで過ごす。その姿を見て和みたい【まおはこ】の三人は萎え萎えだ。特に服を着てもらえなかった服飾担当のマリルーの落胆は大きい。


 とは言っても、これでも被害は最小限で食い止められているのだ。

 魔王は風呂を撤去した段階で魔道具に手を加えた。今は見えてはいけない部位が露出したら、自動的に首の下から膝上までの範囲にモザイクがかかる。

 また、ベッドに上がったら30秒で室内が暗転するよう改造を施した。ドールのよこしまな思惑どおりになることはない。

 【まおはこ】メンバーがドールの様子を楽しめるよう、ドールの様子は自動追尾の俯瞰モードで録画され、魔界ネットの【まおはこ】共有フォルダにアップされるようになっている。

 異性のメンバーもいるのに、いくら三頭身とはいえ裸体のドールがうろつく動画を共有するなど気まずすぎる。そんな目に遭わずに済んでよかったと魔王は胸を撫で下ろした。




『でもなあ、職種が“魔王の愛人”で業務に“夜伽”なんてのが入ってるんじゃ、愛人志望な女しか来ねえのも無理はないぜ。もっとマイルドな表現にできねえのかよ』

『愛人用の予算を使う以上、“愛人”と“夜伽”の文言は必須だと副官が譲らんのだ。雇用契約を結ぶのにその二点を伏せるわけにもいかんだろう?』

 恐怖で魔界を支配する魔王だが、雇用主としては意外と誠実だった。


 ただ、魔王もドール斡旋の現状を憂いているのは事実。

 実態はないとはいえ、経理上は愛人を囲っていることになっているという不本意な状況を呑み込んでいるのは、すべてはドールハウスの中で生き生きと暮らすドールを眺めて楽しむため。

 せめてもう少しマシなドールに来てほしい。


 翌日魔王は執務室に赴くと、職業案内所に要望書を提出するよう副官に指示を出した。

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