表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の箱庭  作者: 恵比原ジル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/40

19 愛でていい存在

 本日も【まおはこ】の三人は作業通話をしていた。


『慣れって恐ろしいよなー。以前じゃ考えられねえくらいに毎日かわいいリコリコの動画観れて眼福なのに、正面固定じゃなくてもっと違うアングルでも観てえって思っちまう』

『……わかる……。……本読んでるリコピの横顔見たい……』

『それな! オレはクマに話し掛けるリコリコを正面からアップで見たい。魔王はそういうの、なんかねえの?』

『む、俺か。そうだな、夕暮れ時に窓の外を見ているリコの背後から同じ光景を見てみたいとは思う』

『わかる!!』

『……同意……!!』


 最近の作業通話はもっぱらドール動画への感想の言い合いに終始している。

 次のドールハウスの方針も定まり、今は個々で進められる作業を進めるだけなので、特に制作に関して話し合うことがないからでもあるが。


『なあ、魔王。正面以外のアングル追加って無理なのか?』

『視点を自在に動かすというのは現時点では難しいとジローに言われた』

『もう相談済みなのかよ。早えなー』

『だが、違うアングルから動画を撮る場所を何か所か設けることは可能だと言っていた。魔力消費が増えるうえに、増設するとしても次のドールハウスからしか無理らしいが。まあ、準備するよう命じてある』

『魔王、この前オレにジローに負担掛けるなって言ってなかったか? あんま無理言ってやるなよ?』

『……わかっている』


 歯切れの悪い魔王の返事に、たぶん魔界ネット担当のジローになにか無理を言っているのだろうと、ウーゴとマリルーは察した。

 スクショ機能の実装はまだ先になりそうだ。



『けどよー、魔王はリコリコの欲しがりそうなものはホイホイ与えたがるし、動画を堪能するための無茶ぶりも自重しねえくせに、“かわいい”とは口にしねえよなー。なんで?』

『フン、俺がそんな威厳を損ねるようなことを口にするか』

『だからなんでだよー。リコリコは魔王の愛人なんだから、魔王がリコリコをかわいがったってなんもおかしくねえだろうに』

『ばっ、馬鹿者! 愛人は建前で実態はないと、お前たちも知っているだろう!』


 魔王がドールハウスの費用を捻出するのに使えるのは愛人用の予算枠しか残っていなかったのだ。

 あくまでもドールハウスの予算獲得のためであって、愛人などに興味はない。


『夜伽がないだけで、リコリコの衣食住は愛人用の予算で賄われてんだから、公的には実態あるだろ。愛人として契約結んでんだし』

『……言い方……』

『いや、オレが言いたいのは、愛人は愛でるための存在なんだから、堂々とかわいがりゃーいいのにってこと』

『……それは同意……。……ドール自体、愛でるもの……。魔王はリコピを二倍愛でていい……』


 からかうわけではなく、単に不思議に思っているという感じでウーゴに言われ、更には女性のマリルーにまで同意されて魔王は戸惑った。


 以前のドールたちのように、魔王には寵を得たい女性たちが寄ってくる。魔王はそういうタイプを毛嫌いしていた。今日も執務室への移動中にリザードマンの族長の娘に付きまとわれてうんざりしたところだ。

 女にデレデレするのは魔王としての威厳を損ねると魔王は考えている。例えドールであろうと、かわいいと言って愛でるのは非常に抵抗があった。


 だが、ウーゴが言うのを聞いていると、魔王がリコをかわいがるのは自然なことのように思えてくる。


『魔王的には不名誉っつーか、不本意なのを呑み込んでまで愛人枠使ってるんだから、むしろ愛でなきゃ損じゃねえかと思うけど』

(……そういうものだろうか)



 少しの間沈黙が流れたが、ウーゴがまた魔王に質問した。


『ちなみに、魔王がこいつかわいいなーって思った時はなんて言うんだ?』


 眉間にしわを寄せ、少し考えるような素振りをしてから魔王が答える。


『考えたこともなかったが……。()いやつめ、とでも言うんじゃないか』

『おっ! なんだ、ちゃんと魔王っぽい言い回しあるんじゃねえかー』


 意外なことを聞いたとでもいうように、ウーゴが顔を上げた。魔ディスプレイ越しに魔王を見る。魔王はすまし顔だ。


『確かに魔王が“かわいい”って言うのはあんま似合わねえ感じするけど、“愛いやつめ”ってのはすげえ魔王っぽくていいな』

『……威厳がある……ちょっとかっこいい……』

『持ち上げても、俺は言わぬぞ』


 そう言いつつも、魔王は満更でもなさそうだ。


『ハハッ、別にそんなこと考えてねえよ。ただ、魔王にふさわしい言い回しがあるなら、口には出さなくても、胸の内でくらい素直に言ってて欲しいなと思っただけさ。異世界のSNSでよく見掛ける標語があるだろ?』

『……“かわいいは正義”……』

『それそれ! 恥じるような思いじゃねえんだから、自分に隠す必要はねえよ。もちろん、オレたちにもなー』

『……同意……』




 その後の会話で、むしろドールハウスを好むことの方が魔王の威厳を損ねる可能性があるとウーゴに指摘されて、魔王は愕然としていた。


『素晴らしい工芸品だ、芸術性が高いと言ったところで、興味のないやつからしたら女の子の人形遊びのおもちゃだぞ。“かわいい”って口にすることより、そっちのがダメージでかいんじゃねえ?』

『くっ、そのようなことを言う輩がいたら殲滅してくれる』

『……物騒……』

『うん、やめような』

金・土はお休みします。次の投稿は日曜の夜の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ