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魔王の箱庭  作者: 恵比原ジル


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18 ピアノの調達

 魔王がいつものように執務室で仕事をしていると、副官が近付いてきてそっと耳打ちした。


「我が君。オーガ族が陳情を申し入れてきておりますが」

「却下だ。放っておけ」

「御意に。……我が君がようやくあれらを放置する気になってくださり、安堵しました」

「フン。さっさと告げてこい」

「では、しばしお傍を離れます」


 一礼すると、副官はサッと退室していった。


 部族内の争いをやめようとしないオーガ族は、長いこと魔王の頭痛の種だった。

 争いをやめよと命じてもやめない。力づくでやめさせても魔王軍が去ればすぐに争いを再開する。誰が長になっても部族内を治めることができない。

 争いが長引き部族内が困窮すると仲裁を願い出てくるが、魔王が何度仲裁の労を取っても結局また争い始めるのだ。


(いつまでも温情を掛けてもらえると思うなよ、オーガ族め)


 今の魔王は的確に執務を行い、手早く片付けて自分の時間を捻出することに余念がない。


(定時で終業、ダッシュで作業! 俺の時間も労力も有限なのだ。愚か者のために無駄にしてたまるか)


 つい先日、限界まで徹夜で作業した魔王は、疲労を覚えつつも充実感を味わっていた。

 よく働き、よく遊ぶ。時間とは、こう使うべきなのだ。




 せっせと執務を片付けていた魔王が、ふとペンを止めた。左の耳元で微かに音がする。

 魔王は人払いすると、左耳のピアスに魔力を流して通信の魔道具を起動した。目の前に現れた魔ディスプレイに男が映っている。

 スキンヘッドにゴーグル、黒いハイネックのこの男の名はジロー。魔界ネットの担当者だ。


『大殿、執務中に申し訳ござらぬ。ピアノの手配が整いました故、最終確認をお願い致したく』

『うむ、大儀である。どうだった』

『お求めの最高級品、入手可能と』

『よし、よくやった!』


 ジローの報告に魔王が喜色を浮かべる。


 ドールハウスのピアノを魔道具化するに当たり、魔王はその手法についてさまざまに考えを巡らせた。

 単に音が出るようにするだけなら問題はない。だが、高いレベルの音質を求めるとなれば難易度は跳ね上がる。

 散々吟味した結果、取り寄せた本物のピアノを魔法でドールハウスへねじ込むという力技を選択。ピアノの現物を調達するようジローに命じたのだった。

 もちろん、可能なかぎり高品質な代物を、と。



『ですが大殿。先にも申し上げたとおり、新品は非常に高価格。中古ならば四分の一ほどの価格で購入可能。一度発注してしまえばキャンセルは不可能となり申す。なにとぞ、今一度ご再考を願いたく』


 ジローが魔界ネットを通して手配したのは、元の世界で最高峰とされていたブランド、「スタインドルファー」のピアノだ。

 生前のジローも名前だけは知っていた。だが、具体的な価格までは知らず、今回魔王からの発注を受けて調べ、その高額に度肝を抜かれた。


 ジローは、魔王のドールハウス作りを調達方面と魔界ネット関連でサポートしている。正直言ってめちゃくちゃ忙しい。

 あれが欲しいこれが欲しいと、魔王が魔界ネットで見つけた画像を頼りにモノを調達するのも大変だが、先日はウーゴ経由でスクショ機能の追加を求められた。

 プログラマーやシステムエンジニアとして働いてきたジローにとっては得意な方面の仕事だが、いかんせん多忙すぎて思うように作業を進められずにいる。


 魔界ネットを元の世界のインターネットと繋げられたのは、転生前に職業案内所で交渉しまくった成果だ。粘った甲斐あって、ジローはあの白い空間を経由して、元の世界からネット通販で物を購入することができる。

 だが、ピアノという大物を購入するのはさすがに厳しい。金額的も魔力的にも一度しか行えないだろう。


 だから魔王には購入を慎重に検討して欲しい。

 こんな高額ピアノを買ったら、確実に副官と執事に叱られる。何故止めなかったとジローも一緒に叱られる羽目になるのは確実だ。

 ジローは必死だった。



『ピアノの購入は今回の一度限りなのだろう? だったら新品を買うしかないではないか。中古が壊れたらどうする気だ』

『ですが、ドールハウス内は一日一度リセットされ申す。必ず導入時の状態に戻るのであれば、中古であっても問題は──』


 チッと魔王が舌打ちをするのが聞こえた。

 ジローの背中を汗が伝う。


『それに、ピアノを習っていたのであれば、リコ殿もスタインドルファーをご存じのはず。ブランド名が刻まれておる故、すぐに気付くでしょう。あまりに高額な代物、気に病まれるかと』

『それほどか』

『は、それはもう。中古でも、いささか懸念が』


 ジローは魔王からリコが同郷であることを知らされている。

 日本の一般家庭の女子がスタインドルファーをホイと与えられて平然としていられるだろうか。無理だろ、それは。




 説得の甲斐あって、魔王は中古でよいと言ってくれた。

 ジローはすかさず手配を完了。速やかに魔王の隠し部屋へと納品を済ませた。


 さあ、次はスクショ機能だ。

 ジローの頑張りはまだまだ続く。

ジローにとって救いなのは魔王が仕事の納期には鷹揚なこと。毎日終業時間には帰っているのでご安心ください!

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