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魔王の箱庭  作者: 恵比原ジル


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16/40

16 【まおはこ】今後の方針

誤字報告ありがとうございます。

『庭か~。規模にもよるけどおもしろそうだ。塗装面積も増えるし、魔王がエアブラシを導入するのにいい機会かもな』

『次のドールハウスはクイーンアン様式だろう? 英国というところで流行ったものらしいが、以前建築雑誌の庭特集で英国のイングリッシュガーデンというのを見た。建物にあわせて庭も英国で統一したらどうかと思うんだが』

『おいおい、いきなりハードル上げすぎだぜ』

『難しいか』


 ミニチュアプラントやジオラマに手を出すとなると制作はかなり大変になる。

 魔王もだいぶドールハウス作りに慣れてきたとは言え、まだまだ初心者。ウーゴもミニチュアプラントやジオラマといった方面は少し触った程度で、あまり詳しくはない。

 だがウーゴとしては、やる前から無理だと魔王に諦めさせるのは嫌だった。初めての作業に四苦八苦して試行錯誤するのも物作りの楽しみのひとつだから。


『まずは柵で庭を囲って芝生を植えて、少しずつ木や花を配置してみるって感じで進めてみたらどうだ? 木や花は買うか外注すればいいし、芝生くらいならオレでも教えてやれる』

『待て。それでは序盤の庭は貧相ではないか。そんな庭の家にリコを住まわせるのか?』

『リコリコが庭や植物に関心あるかもわかんねえのに、いきなり力入れたってしょうがねえだろ。むしろ運動スペースがあった方が喜ぶかもしれねえんだぞ』

『む、それはそうだが……』

『今までだってゴージャスな食堂を使わずにキッチンの作業台で飯を食ってた。オレらがいいと思うものがリコリコにとってベストとは限らねえ』


 素晴らしい庭を用意してリコを喜ばせたかった魔王は少し肩を落とした。

 だが、高望みして床の作成で苦労したばかり。ウーゴは魔王の力量をよく見ている。アドバイスもいつだって的確だ。


『少しずつ充実させていくのも楽しいもんだって。今だって一度にドンと追加アイテム与えてないだろー? なあ、マリルーは庭があったらリコリコにさせてやりたいこととか、着せたい服とかあるか?』

『……お散歩に、芝生の上でピクニック……。……麦わら帽子に……庭いじりするならエプロンドレス……。……ふうう、きゃわわっ……!』

『おお~、オレもイメージが浮かんできたぜー。庭ってのも案外いいもんだな! リコリコが園芸に関心あるなら尚いいけど。もし園芸するなら、なにも植えてない花壇とかあった方がいいよなー』


(なるほど。確かにリコの嗜好を探ってからでないとなにが必要でなにが不要か判断できぬか。時間や労力を無駄にするのは御免だし、欲しがらぬものを押し付けたくもない。方針を定めるのはまだ先だな。少し先走りすぎたか。……そういえば、今日は一気にアイテムを追加してしまった……。次からは小出しにしよう)



 まずは花を生けた花瓶や植木鉢などでリコの反応を見てみようということになり、ミニチュアプラントに当てがあるというウーゴが手配を引き受けた。



  ◇  ◇  ◇



 ドールハウスに景色と時間経過による変化が加わった翌日も、リコは朝から驚きに包まれた。

 目が覚めたら隣にウサギのぬいぐるみが寝ていたのだ。


「へあっ!? なに、は? ウサギさんのぬいぐるみ!?」


 起き抜けから驚嘆と歓喜のオーラを放つ。

 厚みや形状からしても一緒に寝るためのぬいぐるみだろう。つい、どんな感じか確かめたくなり、もう一度一緒に横になってぎゅっと抱き締めた。

 ふわふわもちもちでとても心地良い。特に手足と耳はふにふにで、ずっと揉んだりこねたりしていたくなる。


「ふふ、うふふ。ふわふわだ~~。もちもち~、ふにふに~~っ」



 うれしいアイテムの登場に喜びながらも、リコは枕元から消えたクマのぬいぐるみの行方が気になった。

 リコにとって初めて与えられたぬいぐるみだったから。


 クマのぬいぐるみは書斎にも見当たらなかった。リコは本格的に心配になってきたけれど、一階に降りキッチンのドアを開けた瞬間すべてが吹き飛んだ。


 昨夜閉めたはずのカーテンが左右にきれいに開いていて、窓の手前に小さなテーブルとイスが据えられている。

 そして向かい側のイスには、あのクマのぬいぐるみが座っていた。


「クマさんッ! えっ、これ、子供用のイス? うわ、クマさん専用だ! すごい。わたしの分だけじゃなくてクマさんの分まで作ってくれたんだ!」


 トゥンクと音を立てて桃色の泡が飛ぶ。

 レストランなどでよく見掛ける子供用の背の高いイス。小さくてリコには使えないイスを、わざわざぬいぐるみのために用意してくれるとは。

 この小さなテーブルも、リコがいつもキッチンの作業台で食事しているのを見かねて用意してくれたんだろう。

 赤いギンガムチェックのテーブルクロスがとてもかわいい。なにより、向かい側には大好きなクマさんが座っている。

 しかも、テーブル脇の窓には朝の空が広がっていて、眺めも最高だ。シャララ~ンと音がしてキラキラと虹色に光る粉が降ってくる。

 でも、この食卓の光景の方がキラキラ輝いているようにリコには思えた。



「ふわぁ~~っ、食卓が一気に素敵空間に……! 朝ごはん、なに食べよう~」


 リコはうきうきしながらキャビネットから料理を出し、テーブルの上にいそいそと並べた。

 今朝はベーコン、スクランブルエッグ、サラダのプレートに、クロワッサンとカフェオレにしよう。デザートにはプレーンのヨーグルトに、ブルーベリーのジャムを少しのせて。


「おいしそう~。いただきます!」


 リコは手を合わせると、元気良く朝ごはんを食べ始めた。

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