15 【まおはこ】反省会
その夜、徹夜続きで寝不足の魔王はすぐに作業通話から離脱した。
だが去る前に、明日は反省会と今後について話し合いをしたいから今日の動画を観ておくようにと、ウーゴとマリルーに言い置いていった。
そして翌日。作業通話には既に【まおはこ】の三人が揃っている。
『テーブルとイスをキッチンに配置しておいたぞ。テーブルクロスもな。夜のうちに済ませたから、朝食時に気付くだろう。ああ、ついでにぬいぐるみも移動しておいた。あのイスはそういうことなんだろう?』
『おー、サンキュー。ハハッ、連日あちこち変化してて、リコリコもビックリだろうな』
軽く雑談したあと、本題に入る。魔王が反省会と言っていたので、指南役のようなポジションにいるウーゴは少し緊張していた。
『魔道具を改造してドールハウスの外に空と雲の景色を、そして時間経過による変化という要素を加えた。動画を観てどう思った?』
動画は常にドールを中心に、ドールハウス正面の方向から撮影されており、正面側の壁は透過されている。
そのためリコがずっと眺めていた窓やカーテンは動画には映っておらず、彼女が見た景色を彼らは見ることができない。それでも左右の側面と背後の壁にも窓はあるので、そこから面積は小さいながらも窓の外の景色が見えた。
窓から差し込む光は朝昼夕で明らかに違い、リコの報告書にあったとおり部屋は表情を変えていた。
そして何より、時間経過を感じられるドールハウスで過ごすリコの姿は、今までより格段に生き生きとして見えた。
ウーゴとマリルーの二人は口を揃えてそう言った。
『一日中ドールハウスの中をとてとて移動しては窓を覗いてて、もうかわいいったらなかったよなー。初日と同じくらいオーラ出まくってたし』
『……表情のパターン……ほぼずっと“にっこり”だった……きゃわわ……』
目尻を下げて感想を述べたあと、ウーゴが真面目な顔をして意見を述べた。
『なんていうかさー、オレたちが作ってたのはドールハウスなんだけど、今リコリコが住んでるのはドールハウスっていう工芸品やおもちゃじゃなくて、リアルな家なんだよな。今まではそういう観点が足りてなかった』
『同感だ。俺もドールハウスは、小さいが完璧に調和のとれた世界。静謐で、個で完結している美しい世界と思っていた。だが実際は、人が住む場所としては不足があり、歪な世界だったと気付いた。これは俺の詰めの甘さ、想像力不足が招いたことだ。安易にドールを住まわせようと考えたことを今は反省している』
『なんだ、反省会ってそういう意味か~。のめり込み過ぎてるのを反省して、ドールハウス作りはもう辞めるって言い出すかとヒヤヒヤしたぜ』
『馬鹿を言え。むしろ逆だ。反省を今後の創作活動に生かすぞ』
『……リコピを辞めさせるのかと思った……』
『げっ、怖いこと言うなよマリルー!』
『リコのためにここまでしたのだぞ。こちらから辞めさせるわけがないだろう』
『……よかった……』
ホッとしたウーゴはプシッと音を立てて缶ジュースを開けると、ごくごくと飲んだ。今日は反省会と話し合いがメインなので、各自飲み物を手に参加している。マリルーはミルクティー、魔王は酒だ。
強い酒を舌の上で転がしてから飲み下すと、魔王は改めて口を開いた。
『今回のリコの反応を見て、俺たちは認識を改めた方がよいと思ったのだ。人ひとりをドールとしてドールハウスに住まわせる以上、与える世界に責任を持たねばならん。今まではそのあたりの意識が希薄だった』
ウーゴが以前のドールたちに対し、悪いことをしたと反省を口にするのを聞いて魔王も考えを改めたのだ。
ドールハウスが魔界ならドールは民だ。統治者である自分はリコを守らねばならぬ。
『ドールハウスは狭い世界だ。そこに閉じ込める以上、リコにはしっかり幸せを与えていかねばならん。俺はリコに美しい世界を与えてやりたい』
『異存はねえ』
『……同意……』
【まおはこ】の三人はドールハウス作りへの新たな認識を共有し合うと、今後の創作活動について話し合いを始めた。
『世界観の構築っていうか、もっと設定をきっちり詰めた方がいいのかもな。この家がどこに建っているのか決まってねえと、窓からの景色なんて決められねえし』
『今回改造していてそれを痛切に感じた。それと、雲の上というマリルーの案は幻想的で美しい上に実装面でも都合が良かったのだが、長く暮らすには不向きかとも思った。やはり地上で暮らしている我々には、地面が見える暮らしの方が合っているのではないか』
『それはあるかもなー。地に足がついてる感じ? 安心感っていうか』
『……動画見ていて、ちょっと……お尻がスースーした……』
マリルーの感想に笑いが起きて、硬くなっていた反省会の空気が和らいだ。
そこへ、魔王がぐいと身を乗り出す。
『それを踏まえての提案なんだが。次のドールハウスは、庭付きにしてみたい』
土日は投稿をお休みします。




