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魔王の箱庭  作者: 恵比原ジル


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10/40

10 ドールハウス内の不思議

レビューをいただきました。ありがとうございます!

 ドールハウスで初めて迎えた朝。


 リコは静かに目を覚ました。ぐっすり眠ったという満足感があるのでもう朝だと思う。だけど、室内は暗い。ドールがベッドにいる間は照明がつかない仕様になっているからだ。

 ベッドから降りるとパッと明るくなり、眩しくてリコは一瞬目を閉じたが、目を開いた瞬間叫び声を上げた。


「クマさん! クマさんがっ!!」


 サァーッという音とともに青い雫が振ってきた。

 ゆうべ隣に寝かせたはずのクマのぬいぐるみが床の上に落ちている。座るタイプのぬいぐるみを横にするのはやはり無理があったようだ。


「ごめんね……」


 ぬいぐるみを枕元に座らせると、リコは窓際へ行きカーテンを開けた。

 だが、朝の光は差し込まない。ゆうべ寝る前に、カーテンが開けっぱなしだったので閉めようとして気付いたのだが、窓の向こうは真っ白なのだ。


(不思議……これどういう状態なんだろう。窓の外の世界はないのかな。景色が見れたら良かったんだけど)


 窓からなにも見えないのはドールハウスの仕様なのかもしれない。それは仕方ないとしても、せめて自然光が入れば朝らしい雰囲気になるだろうにとリコは残念に思った。




「さて、今日は何を着ようかな?」


 ポンポンと黄色い星を飛ばしながら、リコはワードローブの前に立った。

 最初に小さな花柄のスモーキーピンクのワンピースを選び、あとはおすすめコーデに従って。

 赤いストラップシューズに、白い靴下にはレースの飾りがついていて────


「わあ、苺の刺繍がついてる! かわいい!!」


 トゥンクという音とともに桃色の泡が降ってくる。


 ドールハウスで初めて迎えた朝。

 リコは一日の初めから盛大にオーラを降らせたのだった。




 キッチンで朝ごはんを食べたあと、リコはドールハウス中の窓を見て回った。

 やはりどの部屋の窓も外はただ白いだけで、景色などは見えない。そして、自然光が入ることもなかった。

 玄関のホールクロックが鳴って時を知らせても、どの部屋も時間の経過を感じさせる変化はなく、昼が過ぎ、夕方になってもそれは同じで。


 リコは夕暮れが好きだった。あの少し切なさや寂しさを感じるような時間帯の、オレンジ色の空が紫のグラデーションに染まっていくのを見るのが好きだった。


(もしこの窓から空が見えるとしたら、どんな感じの夕焼けになるんだろう。見れないのはちょっと残念だなぁ)


 やがて時計の音が夜の訪れを知らせる。窓の外は白いままで、そこに闇はない。

 なのに、寝室ではどの時間帯でもベッドに上がれば30秒で暗がりが訪れる。


 時間経過による変化のなさに慣れるには、もう少し時間が掛かりそうだとリコは思った。



  ◇  ◇  ◇



『なあなあ、今日のドールもかわいかったよなー。朝起きたらぬいぐるみが床に落ちてて大騒ぎしてたやつ』

『ドールハウス内は午前三時でリセットする。三時前だったら枕元に戻ったが、落ちたのはリセット後だったからな』

『……添い寝用のぬいぐるみ作る……クマのぬいぐるみはベッド以外に移動……』

『書斎のソファーでいいんじゃねえ? 隣に座って本読んでるとこ見てえよ。絶対かわいいって』

『……いい……』


 新しいドールが来た日の興奮も少し落ち着き、今日は【まおはこ】の三人とも作業通話しながら真面目にせっせと手を動かしている。

 魔王が取り組んでいるのは次のドールハウスの制作だ。今回も組み立てキットを使用するのだが、塗装済みだった前回とは違い今回は未塗装のキットを選んだ。すべて無垢の木製パーツで、塗装や壁紙を張るのも魔王が行う。


 魔王は初めての塗装に意気込んでいたが、欲張って床材を一片ずつ並べて張り付けるという方法を選んだため、延々と床材用の薄い板を切り分け、チマチマと塗料を塗り続ける羽目に陥った。

 見た目の良さに惹かれてその方法を選んだものの、ウーゴの勧めどおりに木目調シートを張る方法にすればよかったと後悔している。もちろん、魔王の面目に関わるのでそんなことは口にしないが。

 今は、ようやく床板パーツの塗装を終え、木工用接着剤を塗った板にひとつずつ並べて張り付けるという作業に移っている。



『お。床、だいぶ形になって来たな。地味だし根気のいる作業だけど、やっぱ木目調シートを一枚ペラッと貼った床とは違って味わいあるよなー』

『ああ。……だが、この方法は手間が掛かりすぎる。外壁のレンガを一ブロックずつ処理するのはやめることにした』

『いいんじゃねえの? 達成感とかやりがいとか感じるならいいけど、苦行になったらきついしなー。ただでさえ魔王は仕事がハードなんだし、楽しくやれる範囲でやっていこうぜ』

『そうだな』

『……いいこと言う……』


 ウーゴは時折メンバーの手元映像も観ているのか、良いタイミングで声を掛けてはアドバイスしたり相手を褒めたりする。作業通話に毎晩メンバーが集まるのは彼の存在が大きい。【まおはこ】のムードメーカーで、潤滑油でもある。



『で、外壁はどうするんだ?』

『レンガ風のシートを張るつもりだ。良い質感のものを見つけたので、魔界ネット担当者のジローに取り寄せさせる』

『あ、オレもジローに頼みたいことがあったんだ。魔王、ジローにスクショ撮れるようにしてくれって頼んでもいいか?』

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