END4「生きてきた理由」
彼を殺して……どうなるというの? その疑問は私の判断を一瞬、遅らせた。
「外が騒がしい。少し見てくるよ」
「待って!」
私は咄嗟に短剣を突き刺した。彼の服がじわりと赤く染まっていく。
「私は、この時のために、生かされてきたんだ。正義を成すために。正しい、ことなんだよ……!」
「なら……泣かないで」
「泣いてなんかない……! 苦しくなんかない! だって正しいんだから!」
目を袖で拭き、彼を睨みつける。
「あなたの、リュシアンのせいよ! あなたがもっとクズなら良かった! 死んで当然だと思えたら良かった! あなたは王子として生まれただけの普通の男の子で、人並みに悩みがあって……! 知らなければ良かった! 好きにならなければ良かったのに!」
「初めて、好きって……言ってもらえた。嬉しいなあ……」
彼は消えそうな声で言った。咄嗟に出かかった「死なないで」を飲み込む。これ以上話していると余計なことを言ってしまう、悪い考えになってしまう。
「……もう話さないで。痛いでしょ」
「君も、痛そうだ」
私たちはこの部屋に革命を起こした人たちが入ってくるまで抱き合った。
革命の後、王や貴族たちは公開処刑された。王子の処刑がなかったのは革命の最中に命を落としたからだと報道された。王子が見せしめに殺されなかったのは私が願ったからだ。他にもたくさんの王侯貴族たちが捕えられていたため、王子一人減ったところで気にしない人は多かった。
革命を成し遂げた平民議会は国民議会へと名を改め、国を動かす立場となった。元々国を運営していた人たちはほとんど処刑されてしまったため、かなり苦労しているようだが、それでも自分たちの国をやっと持てたと喜ぶ人の方が多いらしい。まずは組織を動かした経験がある商人や善良だった元貴族たちが議会の構成員となるのだそうだ。
一方私は王子暗殺の功績で議員となっても良いと言われたが丁重に断り、旅をすることに決めた。リュシアンと話すうちに他国のことがもっと知りたくなったためだ。この国に居づらいというのも理由にあるけれど。
「ねえリュカ。あなたはどうして私を好きになってくれたの?」
「君が眩しかったからかな」
彼は私たちが出会った日を懐かしむように言った。
「何かを成したげようとする君の瞳は輝いていたんだ。何よりも、美しいと思った」
「あなたへ仇なす行為をしたのに?」
私は彼を揶揄うように言う。彼は「それでもだよ」と言って私を抱きしめた。
死んだことになっているリュシアンだが、実は生きていたのだ。
あの日、私は彼を殺そうとして腹を短剣で刺したのだが、私の覚悟が甘かったせいか、深く刺さらず、致命傷にはならなかったのだ。そうは言っても、血は多く出ていたし、何より私が泣き叫んでいるため死んだと誤認され、私の「これ以上傷つけないで欲しい」という願いも受け入れられたため、彼が助かったという訳だ。
彼を埋葬しようと教会へ連れていった際、神父様に治療していただいた結果、彼は一命を取り留めた。神父様に駆け落ちしたと思われ、同情された結果、旅に必要なものを格安で売ってもらえることになり、無事に出国できたのだった。
道中、旅の資金を作るためにこっそりと持ち出していたあのネックレスを売った。彼に貰ったプレゼントを売るのは悲しかったけれど、私たちにはそれ以上に大切なものもできたため辛くはなかった。
私は今、とっても幸せだ。私は彼と生きるために生きていた、なんて恥ずかしいことを思えるくらいには。
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