第五話
「私の、死んだ状況ですか・・・」
彼岸は新しいコーヒーカップを取り出しながら、そう呟いた。
「私は、病で死にました」
「え・・・」
華恋は首を傾げた。
「どうかされましたか。渡瀬華恋」
彼岸の言葉に、華恋は緩く首を振った。
「いや、なんでもない」
「彼岸さん、ありがとうございます」
朝菜が立ち上がり、彼岸にお礼を言った。
「なぜ、お礼を言うのですか?」
彼岸の問いに、朝菜は優しく笑う。
「誰だって、死んだときの記憶を話すのは辛いと思います。それなのに、話してくれてありがとうございます」
「・・・相変わらず、優しい」
ポツリと呟いた彼岸の一言を、華恋は聞き逃さなかった。
「彼岸と朝菜は知り合いなの?」
「いいえ」
彼岸の否定に華恋はつまらなさそうに「ふぅん」と返事をした。
「あの、私達の記憶のキーとなるアイテムとか、ありませんか?」
美桜が縋るように尋ねた。
「・・・申し訳ありません」
彼岸は、頭を下げた。
「そう、なんですね」
美桜は明らかに落胆した。
「皆さんの話を聞いていると、共通点がありますね!」
光太が暗い空気を払拭するように、明るい声でそう言った。
「はぁ?そんなのあるか?」
「ほんっと、馬鹿だね。あったでしょ?共通点」
煽るような華恋の言い方に、星一は苛立ったように立ち上がった。
その姿を見て、華恋は小さく「チョロ」と呟いた。
「んだよ、共通点って」
「バカには教えない」
「ふざけるなよ!!」
華恋の襟元を掴み、星一が怒鳴りつけた。
「馬鹿はよく騒ぐなぁ。馬鹿には一から教えてやらないと、分からねぇよな。みんな、誰かの記憶を失っている。私と朝菜さんは、人そのものが登場していないが・・・人が死ぬには誰かからの影響ってものがある。だから、その誰かのせいで朝菜さんも、私も死んだ」
そこで華恋は星一の腕を掴み、続ける。
「死んだ理由を思い出せって言うなら、死んだ理由の記憶が欠落しているのは当然だ。だから、みんな誰かを思い出せない」
華恋は「手ぇ離せよ」と言って、星一を睨んだ。
「・・・分かった」
手を離されると、華恋はコーヒーを飲んだ。
「華恋ちゃん」
美桜が、華恋を呼ぶ。
「なに?」
「他にも、分かっていることがあるんじゃないの?」
華恋はコーヒーを飲んだ。
「さぁ、なんのことだか」
「分かっているなら、教えて。華恋ちゃんだって、生きるって決めたでしょう?」
華恋は、考え込むようにコーヒーを飲む。
苦い味が舌に乗り、華恋はうっすらと諦めたように笑う。
「共通点がないのに集められるってことは少ない。となると、みんな誰か一人の影響で死んだってことが考えられる」
華恋の言葉は、それだけで、周りに影響を与えた。
誰も気づけなかったようで、それぞれが目を丸くし驚いていた。
「そっか・・・。確かに」
朝菜の言葉を皮切りに、光太も言う。
「よく分かったね、華恋ちゃん」
「なんで教えてくれなかったのかは、謎だけどな」
星一の言葉に華恋は顔を歪める。
「馬鹿は馬鹿らしく黙ってろ」
「もう、華恋ちゃん黙って!!」
美桜が勇気を振り絞ったように大声で言う。
「あ、あぁ・・・わかった」
華恋は目を丸くしながら、そう答えた。
「美桜・・・強くなったね」
彼岸がぼそりと呟く。その言葉を華恋は聞き逃さなかった。
「知り合いなのか?」
「誰と、誰が?」
彼岸が質問で返す。
「美桜と、彼岸」
彼岸はゆるりと首を振り否定した。
「いいえ、まさか」
彼岸の言葉に華恋はニヤリと笑いながら、コーヒーを飲んだ。
「話を戻すと・・・私たちが思い出せない誰かの記憶を思い出せば死の記憶も思い出せて、生き返れるってことだよね?」
朝菜が周りを見渡してそう言った。
それぞれが頷いているのを見て、朝菜は満足そうに彼岸を見た。
「合ってますか?彼岸さん」
「・・・ええ。合っています」