第三話
「それは分からないよ」
朝菜が努めて明るい声でそう言った。
その声に、彼岸が顔を上げる。
「華恋ちゃんは、まだ中学生でしょう?きっと、生きていれば良い事たくさんあるよ」
「・・・分かった。できる限り、思い出してみる」
彼岸をちらっと見ながら、華恋は頷いた。
小さく、ため息をついて。
「わ、私も・・・思い出したいです。何が、起こるか分からないけど・・・」
美桜も頷いた。
それに伴い、彼岸以外の全員が頷いた。
「それでは、ルール説明をしますね」
周りを見渡し、彼岸はそう告げた。
「ルール説明とかあるのか?」
星一が首を傾げた。
「ええ。できることなら、私だって皆さんに命を差し上げたいですが・・・それは、上の人間に禁止されてまして」
彼岸には上司がいる。その上司たちは、彼女に四つの規則を提示した。
一つ目、自分の正体は五人全員が思い出してから明かすこと。
二つ目、必ず死んだ原因を思い出させてから命をあげること。
三つ目、彼岸自身は生き返れないこと。
四つ目、これらの規則を破れば五人は生き返れないこと。
それを思い出し、彼岸は内心ため息をつく。面倒くさい、と。
「あなた方五人には、自分自身が死んだ原因を思い出していただきます。制限時間は一時間です。もし、一時間以内に思い出せなければ、残された命は本部・・・と言いますか、私の上司がいただきます」
「彼岸さんの上司は、その残された寿命はどうなるのですか?」
「さぁ・・・分かりません」
彼岸は素直に首を振る。
「では、スタートさせてもいいですか?」
彼岸は周りを見渡した。そして、華恋以外の全員が頷いた。遅れながら、華恋が頷いたのを見て彼岸は小さなベルを取り出し、カランと鳴らした。
「あの・・・彼岸さんに協力していただくのはありですか?」
「ええ、もちろんです」
いざ、一時間がスタートしても何から手を付ければいいのか、分からない。
いっそのこと、名探偵みたいに瞬時に次に取るべき行動が分かればいいのになぁと朝菜は思った。
「まず、死ぬ直前の状況とか言っていくのは、どうですか?」
光太の意見に星一が首を傾げた。
「わざわざ言っていく理由があるのか?」
「もしかしたら、誰かの記憶がトリガーとなって思い出せるかもしれないだろ?」
やれやれと華恋は肩をすくめながら気付いたように、こう言った。
「あ、星一・・・さんは馬鹿なんだね」
「んだとテメェ!!」
立ち上がった星一に、光太と朝菜が止めに入った。
「青山さん、落ち着いて」
「一時間なんですし・・・」
「分かってるよ!!」
怒りながら席に座った星一を見ながら、華恋はわざと煽った。
「分かってないから、怒るんだよね〜」
「貴様ー」
「華恋ちゃん、煽らないの!」
朝菜から止められ、華恋は小さく「はーい」と呟いた。
その姿に彼岸は疑問を覚えながら、五人を静観していた。