第二話
「私が皆さんをここに呼びました」
その言葉に、彼岸以外の全員が驚いた。
「お前が?」
星一の疑問に、彼岸は静かに頷く。
「はい」
そう頷くと、彼岸は一人一人を見回し、紅茶を飲んでからこう言った。
「山瀬朝菜、鈴原光太、澤田美桜、青山星一、渡瀬華恋。あなた方は年齢、性別、職業は違えど自殺をしました。理由はどうあれ、自殺はとても、とても重い罪です」
その言葉に、全員が顔を曇らせた。
「なので、それをここで償っていただきます」
彼岸の言葉に彼岸以外の全員が驚き、顔を見合わせた。
美桜が静かに首を傾げる。
「つぐな、う・・・?」
「はい」
「俺が自殺したことは認める。だけど、それをどうやって償うんだ。もう命はないし、死んでいるから失うものもない」
星一の言葉に、彼岸は頷く。
「確かに失うものはありません。ですが、得るものならあります」
「得るもの?」
今度は、朝菜が彼岸に聞く番になった。
「ええ。皆さんは、自殺した理由を覚えていますか?」
「そういえば、覚えてないかも」
朝菜の言葉を皮切りに、それぞれが「確かに」という言葉を放った。
「おい、彼岸と言ったか?」
華恋が、椅子の上に足を乗せ、膝に肘を置きながら彼岸を見据えた。
「はい」
「私たちに死んだ理由を思い出させて、何をするつもりだ?得るものってなんだ?」
「得るもの・・・それは、命です」
命。その言葉の重みに彼岸以外の全員が驚いた。
彼岸は、言葉を続ける。
「今から一時間以内に自殺した理由を思い出していただければ、命を差し上げます。命を得ることで、もう一度自分として人生を続けられる権利を差し上げます」
華恋が不機嫌そうに首を傾げた。
「命?そんなもの、もらって何になるんだ」
華恋の言葉を聞いて、美桜が立ち上がった。
「そ、そうですよ・・・!私たちは、自分の意思で死んだんです。なのに、どうして生き返らないといけないのですか?」
美桜の言葉に、華恋が頷く。
「あなた方の命は、まだ残っている」
彼岸以外が驚いた。
驚いたり怒ったり、みんな大変だなぁと彼岸は他人事のように思う。
「どういうことだ?」
華恋が、恐る恐る口を開いた。
「どういうことも何も、そのままですよ。あなた方が、自殺した理由を思い出せば、残りの寿命全て差し上げます」
「いらない」
華恋は強気に言った。
「どうしてですか?」
彼岸は、仮面の下の眉を下げながら聞いた。だが、声色は全く変わらない。
「残された寿命なんていらない。どうせ私には、もともと寿命なんて残ってないんだ!!」
華恋は、吠えるように叫ぶ。
その姿が、どこか痛々しかった。
そんな華恋を、彼岸は仮面越しに眺める。本当はどう思っているのか、その真偽を確かめるために。
「十年」
彼岸は、唐突に呟く。
「十年であれば、追加できますが」
「追加とかあるのかよ」
「どうされますか?」
彼岸の試すような視線を跳ね除け、華恋は言い放った。
「いらない」
彼岸は下を向き、「そんな・・・」と呟いた。だが、その呟きを拾う者はここにはいなかった。