第一話
燃えるように赤い彼岸花が咲き誇る場所で、とある五人の男女は目を覚ました。
一面に咲く、彼岸花。
そこに不自然に置いてある白い机と椅子が六脚。
男が二人、女が三人。
五人は誰に命令されたでもなく、自然と椅子に座っていく。
すると、一人の女性がどこからともなく現れた。
その女性は、奇妙なことに狐の仮面をつけていた。鼻から目の部分にかけて被った狐の仮面は、仮面に縁取られた朱色と彼岸花の赤が絶妙なコントラストを描いていた。
「おはようございます」
幼さと、大人びた雰囲気が混在する声。
目を覚ました五人は、困惑の色を露わにする。
「あ、えっと・・・・初め、まして」
空気を読んで言葉を発したのは、ローポニーテールの女性だ。
「とりあえず・・・自己紹介、しますか?」
ローポニーテールの女性は、恐る恐るそう言った。
狐の仮面を被った女性以外は頷くが、意識は狐の仮面の女性に集中している。
「私は、山瀬朝菜です。会社員、でした」
ローポニーテールの女性がそう名乗った。
「僕は、鈴原光太です。大学生でした」
ハキハキと、顔色の良い青年がそう名乗った。
今までは、席順の時計回りに自己紹介している。次は、髪の長いオドオドとした少女の番だ。
「・・・澤田、美桜・・・です。高校生、でした・・・」
周りからの視線を汲み取り、ぎゅっと縮こまった少女は名乗った。
「高校生なんですか!?若いですね!!」
光太が美桜に向かって言う。美桜はさらに縮こまりながら、小さく頷いた。
「次は、あなたですね」
朝菜が、斜め前に座ったヨレヨレのスーツを着た男性に話しかけた。
「名乗る必要性を感じないな」
ヨレヨレのスーツを着た男性は、ふんっと鼻を鳴らし答える。
「名乗る必要がない・・・つまり、名乗る名前がない」
ヨレヨレのスーツを着た男性の隣に座った、男勝りな女子中学生が煽った。
「誰もそんなこと言ってないだろ!?」
男性は、机を叩きながら立ち上がり、怒鳴った。
「じゃあ、早く名乗れよ」
「・・・青山星一。会社員だ」
どこか不貞腐れながら、星一はそっぽを向きながら答えた。
すると、星一は何かに気づいたように椅子から立ち上がり、女子中学生に詰め寄った。
「というか、お前の名前は!?」
「渡瀬華恋。中学生」
ニタっと笑いながら、華恋は答える。
「中学生が偉そうに。しかも女だろ?男にー」
「逆らうなって?お前、何時代の人間?」
華恋が椅子から立ち上がり、星一に詰め寄る。あまりの圧に、星一は椅子に座ってしまった。
「き、貴様ー」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
朝菜が慌てたように立ち上がり、華恋と星一を宥める。
「えっと・・・じゃあ、あなたの、名前を聞いても?」
朝菜が彼岸の方を向き、静かに聞く。全員の意識が、謎の仮面を被った女性の名前へと持っていかれる。
「彼岸です」
やはり幼さと大人びた雰囲気を持った声で、彼岸は答えた。
「それが・・・あなたの、名前ですか?」
美桜が彼岸に聞く。
「はい」
「本名を知りたいんですけど・・・」
即答する彼岸に朝菜は申し訳なさそうに聞いた。
「教えられません」
「じゃあ、その狐の仮面ぐらい取れよ」
星一が彼岸に近づき、仮面に手を伸ばしたが、彼岸は咄嗟に移動し、星一の手をかわした。
「机の上にある紅茶ですが、おかわり自由ですので、いつでも私にお申し付けください」
彼岸の言葉に、星一は顔を顰める。
「毒とか、入ってねぇだろうな」
「そのようなことは断じてございません。また、あなた方はすでに死んでいるので、毒が入っていても心配ありませんよ」
彼岸の言葉に、全員が言葉を詰まらせた。
そう、ここにいる全員は死んでいる。
彼岸が自分の席に座り、紅茶を一口飲んだ。
「私が皆さんをここに呼びました」