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テンシル国の章 ⑥

そろそろテンシル国も大詰めです。残酷な表現があります、苦手な方はお気をつけ下さい。

 ビリビリと宮殿の壁や天井、床が震える。震動が国王達に恐怖を与える。遠くの方から獣のような咆哮が聞こえてくる。鳥のような、もっと大型の何かが太く甲高く鳴いた。大きな鳥のような翼を持った大型の獣が飛来する。


「ま、魔獣だ・・・!!」


 テンシル国には魔物や魔獣はいないはず。女神に守られたこの島国には結界が張り巡らされ、あらゆる魔のモノを弾くと言われている。結界が緩んだ気配はなかったはずだ、少なくとも王族や神官たちは感じなかった。


 だが、魔力を失った今は結界そのものを感知できるものはいないのだ。


「陛下!!城下町に魔狼の群れが現れました!! 騎士団が制圧に向かっていますが魔狼の数が多く、中には翼を持った魔獣もおり壊滅寸前です!」

「陛下!お逃げください!!ここはもう駄目です!! 魔物はキ、キマイラです!!」


 次々に報告に来る騎士に国王は顔面蒼白になる。なぜ簡単にテンシル国に入ってきたのか、結界は本当に機能していないのか、そもそも女神の加護は・・・。ぶつぶつと念仏の様に呟いて頭を抱える国王に王妃が縋り付いて怒鳴った。

「逃げるのです!!ここにいては私たちも魔獣の餌になってしまいますわ!」

「ま、待て!! では王女はどうしたのだ!? 愛し子なら丁重に扱うと許しを乞うのだ!ルーリエ!第四王女を連れてくるのだ!!」

 ルーリエはぴくりと眉を寄せ、怒りの形相で国王を睨みつけ吐き捨てた。



「亡くなりましたわ。リオが亡くなると同時に私の中の魔力も消え、結界も消えました。」



 ぐっと爪が食い込むほどに拳を握る込み肩を震わせる。眦からは涙が伝い顎を伝ってぽたぽたと大理石の床を濡らす。


「あなた方が殺したんじゃありませんかっ・・・! 両親からは何も与えられず放置され、義兄姉からは執拗な暴力を受け、魔力が消えていくのをリオの責任にして処刑ですって・・・? 我が子を女神の祭壇に供物の様に捧げようとするなんて、悪魔の所業ですわ・・・!!」


 ルーリエは涙で濡れる瞳を震わせる。背後からは悲鳴と獣の咆哮が聞こえてくる。金属音と魔獣の鳴き声、耳を突き刺す悲鳴、この国は終わる。


「お前たちの行いが女神の加護を失わせたのですよ。――さあ、責任を取っていただくお時間ですよ、お父様、お母様? お義兄さまやお姉様?」


 妖艶に笑ったルーリエは、私もね、と呟いた。




◇◆◇◆◇◆◇




「ルーリエ!!」


 飛び掛かってきた魔狼をダガーで叩き切る。ライラはルーリエの腕をとり力任せに引き上げて立たせると叱咤する。すべてを諦めたように崩れ落ちていたルーリエはライラを見ると泣いた。


「私も責任を取らなければいけません! 私もリオを虐待していたも同然、知らなかったでは済まされないのです。そんなの許されない・・・リオ・・・」

「立って、ルーリエ!」

 ライラはルーリエを叱り飛ばす。もう目の前まで魔狼が来てライラ達を取り囲むようにして間合いを取っている。

いつ飛び掛かってくるかわからない。広間の端の方で血まみれの肉塊になった国王と王妃、義兄姉たちがいる。ほとんど抵抗する事無くテンシル国王と王妃は魔狼の餌食になった。断末魔がそこかしこで広間に響く。神官長も抵抗虚しく魔狼の餌となったようだ。



――餌食になっているのはリオを痛めつけてきた連中だけですわ。

――だから私も報いを受けるのよ。



「リオはルーリエがしてくれた事が嬉しかったはずだよ。だから大丈夫、女神は怒ってないよ。」

ライラは断言するとルーリエをしっかり立たせる。ルーリエは何度も首を振りながらライラの腕に縋って泣き出した。

「でも、あの時連れ帰っていたら死ぬことはなかったはずなのよっ・・・! 私に勇気がなくて・・」

「ルーリエ!後ろにいて!!」


 睨みを合いを続けていた魔狼達が一斉に襲い掛かってきて、ライラはルーリエを後ろに突き飛ばした。



 魔狼との距離がつまりそのかぎ爪がギラリと光る。背後でルーリエの悲鳴が上がる。

ライラは目を閉じると額に意識を集中させる。同時に魔狼の足が目前で地を蹴った音を聞いた。瞬間、目をカッ見開く。空気が歪み衝撃波が飛び掛かる魔狼を数十メートル先まで吹き飛ばした。一緒に大理石の床が割れ、粉塵が舞い上がる。吹き飛ばされた魔狼は壁や床に叩きつけられて甲高い鳴き声を上げて気絶する。巻き込まれなかった魔狼は瞬時に体制を立て直し、ライラ目掛けて突進してきた。ライラは魔狼達から目を離さず、広間の空間を意識して掌握すると衝撃波で砕け散った大理石の残骸が一斉に高く浮き上がる。宙で制止すると魔狼達がライラの射程距離に入った瞬間、ライラが視線で捉えた全ての魔狼目掛けて石の残骸が弾丸のように貫いた。

一瞬の出来事でルーリエは呆けた。


「ま、魔法??」

「魔法じゃない。――キマイラがこっちに気付いた。」

この世界線にもキマイラとか魔狼っているんだな、と呑気にライラは思った。

「キマイラは飛びます!」

「わかってるよ」


 だったら、ライラも壁を蹴り上げて宙に舞い、ダガーの横一振りの斬撃でキマイラの目を裂いた。赤い花吹雪のように鮮血が舞い、一連の流れが踊る様に可憐でルーリエは言葉にできないまま、その光景に見惚れた。

 広間の天井の硝子を突き破って入ってきたキマイラは異形の姿だ。鳥のような嘴をもった女の顔なのに身体は大きな鳥そのもの。腕は翼で足には大きな鉤爪、引っ掛けられたらひとたまりもないだろう。

このキマイラの始祖も、人間が創作した忌まわしい種族だ。神をも恐れぬ悪魔の所業の落胤はキマイラだろう。


 キマイラは目を潰され奇声を上げながらライラ目掛けて大きな鉤爪で襲い掛かってきた。それを空中でひらりと躱し、キマイラが突き破った天井の硝子に意識を飛ばすと無数の硝子片が飛び回るキマイラを刺し貫いた。断末魔の鳴き声が王宮の広間に響き渡り硝子片の餌食になったキマイラが轟音と共に落ちた。



「ルーリエ」



ライラが呆けているルーリエを呼ぶ。はっとしてルーリエがライラを見た。

今まで魔物が襲い掛かってくるような現場に出くわした事は当然ないし、魔獣を見たのも初めてだった。

海の女神の加護の元、テンシルは平和に保たれていたのだと実感する。しかしライラは何てことないように戦闘に入っていた。すべてが終わった頃、ルーリエが邪魔になっていなかったか今になって思った。


最後までお読みくださりありがとうございます。

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