双子の竜②
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アイルノルト城に度々訪れてはいたが竜をみたのは昨年の襲撃の時が初めてだ。竜の話は聞いた事が
あったが本物を見たのはカインが初めて。しかもまだ幼竜だ、人型じゃない。
アイルノルト辺境伯家はヴェルドラク公国と交流を持つベンゼンティア唯一の領地だ。実はそれ以外は
この辺境伯家の事は詳しく知らなかった。
ここ、アイルノルト辺境伯家に来て初めて明かされたヴェルドラク公国との関係。
魔の森とアイルノルト、竜の住まう国、ヴェルドラク公国。
もっと驚いたのはアイルノルト辺境地はベンゼンティア国建国よりも古くから存在していた事。
ヴェルドラク公国とアイルノルトの間に魔の森を挟み、太古より共に在った。ヴェルドラク公国は
謎に包まれた国であるが唯一、竜の一族が住まう国として他国に知られていた。
はるか昔より共に在ったアイルノルトにはヴェルドラクの竜の血も入り屈強な戦士が多い事、長命で
ある事が多く辺境地から出る者はいない事。アイルノルトの領民は皆、己の血を尊び誇りを持っている。
母フィリアがベンゼンティアの王太子に嫁ぐのが稀有だった為、当時は非常に揉めたそうだ。
竜の血が多少なりとも入っていれば、人間の時の流れと変わってしまう事が懸念されヴェルドラクからも
不安視されたからだ。
嫁ぐ事ができたのは、現アイルノルト辺境伯ダスティンが竜の血族ではあるが随分希薄になって
来ている事、その為フィリアも長命ではないと判断されたからだ。
ダスティンは確かに竜の血脈だが、流れる血は薄い。ダスティンの祖母がヴェルドラク公国の娘だったがこの娘も混血だったのだ。ダスティンは人間の老人にしては若々しくあるが120歳位が寿命だろうと
ヴェルドラク公国の公王の見立てであった。フィリアはもう“人間”と言ってよかった。
“人間”のヨシュアとフィリアの間に生まれたテオドールも普通の“人間”に違いなかった。
「おじい様・・・」
テオドール双子と朝早くから散々遊びに付き合わされて、陽が高くなってからやっと解放された。
朝食を食べに食堂に入ると祖父ダスティンが座ってコーヒーを飲んでいた。
「やっと朝食か」
テオドールの疲れた顔を見たダスティンは快活に笑った。
もう60歳を超えてるはずの祖父はまだ若々しい姿を保っているから不思議だ。
このアイルノルト辺境地の騎士達や侍女や侍従達も若い。辺境伯騎士団員は総じて若く、戦闘能力が非常に高い者が多く魔力の高い者もいて従魔を持つものもいた。ヴェルドラク公国と交流を持つ領地として竜の血がアイルノルトに受け継がれているのだろう。
「さっき、カインが僕がライラの番だって言ったのです」
テオドールはダスティンの向かい側に腰掛ける。すぐにメイドが朝食の配膳をしてくれる。
その様子を何となく見ながらぽつりと言った。
ダスティンは、「ああ」と言うとコーヒーカップをソーサーに戻してにやりと笑った。
「まだ幼竜だからな。“いい匂い”というのは番になりうるという事だな。このままテオドールの魂が
穢れず純真ならば番となるかもしれん。」
「穢れ?」
「そうだ。わかりやすく言うと“どす黒い感情”がいい例か。ベンゼンティアの王妃、と言えばわかる か?」
口許を歪め、テオドールは頷いた。 ――ああ、あれか。胃のあたりがどすんと暗くなる。
この感情も穢れを呼ぶ一因になるんだろうか、と頭の隅で思った。
「“いい匂い”の匂いは魂の匂いだという。きれいな魂に竜たちは惹かれるのだそうだ。それと、その
魂の持ち主の傍にいると癒されるのだと。」
「僕は・・・っ!綺麗な魂なんて、持ってない!」
音を立てて椅子から立ち上がったテオドールは震える拳を机に叩きつけた。ダスティンは無言のまま
テオドールを見ている。
「あの、王妃が憎いです・・・! 殺したいって、いつも思っている! そんな僕が穢れてないはず
ない!! その日から僕の心の中は真っ黒です!どろどろした感情が腹の底から湧き上がってきて
殺意が這いあがってきて、吐きそうなんだ!! こんな、母上を、殺すなんて・・・」
嗚咽が食堂に静かに響く。ギリギリと唇を噛み締めて血が滲む。あの日から、あの女に憎悪しない日
なんてなかった。自分も父ヨシュアとともに王宮に戻り、あの女を八つ裂きにしてやりたい!
何故か生かされているあの王妃を、国民の前で罵り、斬首刑にしてやりたい!そんな黒い感情が腹の
底に蠢いているのに・・・!!
突然、食堂のドアが大きな音を立てて開いたかと思うと、テオドールに向かって小さい塊がふたつ
飛びついてきた。
「テオーー!! なかないでー!!」
<テオ!!なくなー!!>
「えっ!? ライラ!カイン!」
飛びつかれたテオドールは目を大きく瞬いて双子の竜を見た。何故か、あんなに黒い感情が腹の底に
蠢いていたのに、すうっと消えていく。
「テオはわたしが守るの!」
<おれもくっついててやるから~!>
「いいにおいする」
<いいにおいだぁ~>
双子はテオドールにくっついてクンクンと鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぐ。
その行為にテオドールはだんだん恥ずかしくなってきた。さっきまであれほど憎悪に蝕まれていたと
いうのに。潮が引くように黒い感情が抜け落ちていく。王妃を許せない気持ちは残っている。
だけど、醜悪な感情が流されていくような不思議な感覚がある。
「に、匂い嗅がないでよっ!」
「いいにおい!!」
<いいにおいだ!!>
恥ずかしがって逃げるテオドールに双子の竜は腰や足にくっつきながら鼻を鳴らしている。
その様子をダスティンは柔らかい表情で見守った。
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