テオドールの記憶 ~最終~
テオドールの記憶最終章です。
「・・・テオドールっ!!」
白髪の薄紫の瞳をした恰幅の良い男性がテオドールを見とめ走ってくる。足をふら付かせながらもテオドールの傍で跪き抱き締める。精悍な顔立ちの勇ましい男性は、今は表情を崩し涙に濡れていた。
「お祖父さま・・・、は、母上が!」
泣き崩れ、祖父の大きな背中に腕を回して体の震えを抑えようとする。それでも震える体は止められず、記憶の中の綺麗な母と凶刃に沈む苦悶の表情の母の顔を同時に脳裏に浮かぶ。最後の言葉が納得できない、吐き出すように祖父に告げる。
「・・・フィリアがお前を守ったか。よく、よく守り通した・・・!あんなに気弱な娘だったのになぁ・・・」
鼻を啜りながらテオドールの背中をあやすように擦る。二人は抱き合いながらフィリアを思い、泣いた。
「だすてぃん」
ぴょこんとテオドールの背中から顔を出した幼女に、辺境伯ダスティン・J・アイルノルトは驚いて顔を上げた。
瑠璃色の髪をした幼女は先ほどからずっとテオドールの背中に張り付いていたようだ。
背後から出てきた幼女は今度はテオドールの腰のあたりの服を掴む。ぴったりくっつくその姿にテオドールはずいぶんと気に入られているな、とダスティンは思った。
「これは、ライラ様?」
「知ってるの!?」
テオドールは驚いて祖父を見て、ライラを見る。
「――まあな。ライラ様、おひとりですか?テオドールとはどこで・・・?」
ダスティンを見上げてにこにこ微笑むライラは、今度はテオドールと手をつなぐ。手をつないでる腕にぴったり頬をくっつけてスリスリしている。
「・・・母上に言われて森に逃げたのですが追手に捕まり顔を斬られたのです」
「斬られた!?」
テオドールの両肩を掴み、正面からまじまじと孫の顔を観察する。傷などない、だが。
「お前、瞳の色が・・・。左眼が金瞳ではないか!ま、まさか」
よく見ると金の瞳に縦にスリット状の模様が見える、それに、テオドールの腕にくっつくライラの左眼は・・・薄紫だった。
ダスティンはごくりと唾を飲む。ライラの薄紫の左眼にはなにも映り込んでいない。視えていないのだろう、こちらはテオドールの眼球なのか。
「ライラが追手を倒し、潰された僕の左眼と自分の眼・・・を取り替えてしまったんですっ・・・」
ダスティンは天を仰いだ。
まさか、そんな芸当ができるのだろうか。ライラの血族ならば可能か?
だが、自らの瞳と交換するなど。
「孫を助けていただき、ありがとうございます。しかし、・・・なんという事をしたのです、ライラ様」
悲しそうに微笑う辺境伯ダスティンを見てライラは服を掴む手に力が入る。
眉をきゅっと寄せて口を一文字に引き結ぶ。テオドールの腰に手を上げて抱きついて顔を隠した。
「・・・だいじょぶだもん」
小さな声がかすれている。てお、と小さくテオドールを呼ぶ。
テオドールが頭を撫でてやって、ライラを抱き上げる。まだテオドールも8歳だったが、それよりも小さかったライラは抱き上げても初めにふら付くくらいで抱いていられる。
抱っこされたライラはダスティンから顔を隠したままだ。眼の事は頑なに譲らない、と態度で示している。
一部始終を背後で控えていた騎士ザックがダスティンに指示を仰ぐ。
「暗殺者はライラ様が撃退したようですが姿を見ておりません。代わりに大量の血痕があり、量からすると逃げたとしても魔物の餌か途中で絶命しているものと思われます。
ライラ様は・・・、閣下のお知り合でしょうか? もしや、公国のお方とかいいませんよね?」
ちらりとザックに視線をやると、息を静かに吐き出しながらダスティンは頷く。
「ヴェルドラク公国、公王の末子で双子のお姫様のほうだな」
ダスティンの言葉に皆が息を飲んだ。ザックは目をいっぱいに広げ、ほかの騎士たちも驚きの表情で固まっている。テオドールは亡き母からヴェルドラク公国の事は詳しくは聞いていないが、それでも知っている。
「竜のお姫様・・・?」
テオドールはぽつりと呟いて、抱き上げたライラの顔を除きこむ。綺麗な金瞳と薄紫の瞳が緩やかに弧を描いてテオドールに可愛らしく笑った。
「かわいい・・・。」
ぼそっと呟いたテオドールの頬が緩む。母が死んだばかりだというのに、ライラがずっとくっついているので寂しさが和らいでいる。悲しみの底に沈みこみそうになるのに、タイミングよくライラがくっついてくるので沈まずにいられる。
テオドールはしばらくライラの微笑みを見つめてしまった。
いったん、お休みします。
次回からは現在のライラのお話になります。
最後までお読みいただきありがとうございます(⌒∇⌒)




