第8話 実験?
「衝波」
ゾンビの攻撃を掻い潜り腹部に巻き付いたサーシャが魔法で腹部を探りながら内部を破壊する。
「腹にはないよー」
その結果、腹部に術式がない事を確認したサーシャはそのまま後ろに居るナルセスへ向けて、放り投げた。
ブリッジの状態になったサーシャに向けてゾンビが群がる。
「勤勉だねー。よろしくー」
「「裏名川流剣術九連放刀」」
群がったゾンビは、待ってましたと言わんばかりにメルセスとアルメイスが、それぞれ飛ばした九連撃よって体のあちこちを切り裂かれ全員がその術式を破壊され、機能を停止した。
「すげーな、俺も負けてられねーな。えっとそれじゃー、ここだ。裂拳」
投げられたゾンビは弧を描きながらナルセスの前まで飛んでいくと飛ばされたまま拳で胸を貫かれ、魔法によって胸を破裂させられ、術式を破壊された。
「だいぶ数は減って来たな」
「思ったより楽で助かったぜ」
「えー、私そろそろ疲れたー」
「いや、お前は飽きて来ただけだろが。真面目にやれ」
「微笑ましくて結構な事だけど。敵はまだ残ってるわ」
数十体居たゾンビは既に十数体まで数を減らしていて、終わりが見えた状況だった。
「でも、思ったより楽だったってのには同意見だ」
「もしかして俺たち最強じゃね」
「いいえ、こいつらが弱いのよ。防御行動を取らないもの」
「そうだな。最初は弱点をバラさないために防御行動を減らして、必要な時だけに取るプログラムかと思ったけど、それすらないなんて」
「ここまで作り込まれてるのに不自然だよねー」
「倒されることを前提に作ってるって事か?」
「まさか、そんなわけないだろぜ。考えすぎじゃね。手抜きしたんだよ。きっと」
「それならそれでも構わないけど。そうじゃなったら痛いしっぺ返しを食らうのは私たち自身よ。考えておいて損はないわ」
「違った時に得もないけどねー」
「代償を考えれば俺なら前者を選ぶ」
「それはそうだねー」
「ああ、もう。俺が間違ってました。だとしたら実験だとか?」
「実験?」
「いや、思い付きで言っただけだけど」
みんなから事実を突きつけられて仕方なく認めた様に装っていながらもナルセスは、その心の中ではその可能性も十分に考慮していた様で、すぐに案が出て来た。
「俺たちがどうやって倒すのかを見てるとか?」
「悪くない考察かも知れないな。でも、俺たちに限定した話じゃなくて強者とゾンビが相対した時の強者の行動を見てると言う方が可能性が高い気がする」
ゾンビを大手を振って徘徊させたのは、誰かに見せるためで、その誰かが街の情報を持ち帰れば、首なしの勇者が顕れたと言う状況を加味すれば少数精鋭の人間が送り込まれる事は容易に想像できる。
沢山の術式破壊パターンや術式を探す方法を見るために敢えて、防御行動を省いた。
このゾンビたちは最初からそれを見せさせるためだけに作られた存在であり、不要な部分は省いた。
そう考えればつじつまは合う。
「それだけで済めばいいけど」
しかし、ナルセスとサーシャには詳しく知らせて居ないが今回の術者が首なしの勇者の作成者だった場合、それだけでは済まない可能性も十分にある。
「ねーえー、さっきから話し込んでて戦ってるの私だけなんですけどー」
「悪い悪い。今行くぜ」
考えをまとめるために戦闘を自衛程度までにしか行って居なかった3人にしびれを切らしたサーシャが抗議の声を上げると3人は我に返ったように戦いを再開した。
「よゆーなのは分かるけど、さーすーがーにー、私の負担が大きすぎるよー」
「そう言いつつもしっかり数体殺してるじゃない」
「仕方ないでしょー、誰もやらないんだから―」
「じゃあ、ここからは任せろって事で。裏名川流剣術九連放刀」
「裏名川流抜刀術単竜」
「熱炎拳」
今までの遅れを取り戻すように3人は、大慌てで次々とゾンビを葬って行った。
「終わったー」
最後のゾンビの機能を停止に追い込んだ瞬間、サーシャは歓声を上げてその場に座り込んだ。
「おいおい、いきなりスイッチ切すぎだろ。不意打ちされるぜ」
「だいじょーぶ、ちゃんと警戒はしてるから」
「相変わらず。抜け目ねぇな」
「えへへー、褒められた―」
「多分、褒めてないわよ」
他の3人もサーシャほどではないにしろ力を抜いて、その場に立って静かに息を整えた。
「これで依頼達成だ。分け前は4等分で良いか?」
「俺たちはそれでいいぜ。お前たちともめたくないしな」
「何でだよ」
「敵になれば元仲間でも躊躇なく斬りそう」
「そんなの当たり前でしょ」
「そーかな―、情が湧くって人も多いと思うけど」
「そう言うものか?」
「そう言うもんだ。まあ、俺たちも敵対すれば多分殺るだろうけどな。お前たちはそれがリアルに想像できると言うか」
「これ俺たち貶されてるよな」
「貶されてるわね」
互いの顔を見合ってから収めたか刀に手を添える2人を見てナルセスは慌てた。
「わーわー、悪かったって」
「冗談よ」
「冗談だ」
「ッチ、たく自分たちのキャラを考えろってんだ」
「一昨日は散々弄られたから御返しだ」
「冗談きついぜ全く」
一気に汗をかいたナルセスをサーシャも含め3人は笑った。
「 」
4人が仕事を終え、談笑している時、音のない声が聞こえたのと同時に突風の様な風が発生してナルセスを吹き飛ばした。
「クッソ」
「ナルセス!」
そのまま崖下へ落下したナルセスをサーシャは躊躇なく崖に飛び込んで追って行った。
「ナルセス!サーシャ!」
「今はそれどころじゃない。首なしの勇者よ。メル」
アルメイスの言葉で振り返ったメルセスの目には確かに首なしの勇者が写っていた。
2人は、ナルセスとサーシャの無事を心の中で祈りながらも警戒度を上げた目で、首なしの勇者を睨んだ。