第6話 依頼内容
「発端は数日前、首なしの勇者を偵察していた都市の警備隊が南にある森でゾンビの群れに遭遇した事です」
「最後に首なしの勇者目撃されたのもその辺りだったな」
「ええ、その事もあり現在南方面は緩やかに規制が行われています」
「全面じゃなくて緩やかになの?」
「そこがポイントです。都市の上層部はこの件を内密に処理する事を決めたのです」
民衆は首なしの勇者の件だけで不安を感じ、城壁の中にあるこの街ですらもどことなく街全体に不安感が漂っている。
街の外の村々はその比ではない不安を感じているのであろうから、この件を隠ぺいするのは理にかなっている。
「しかし、放置するわけにもいかず、かといって大規模に警備隊を動員すれば目立ってしまいます。そこで、市長から内密でギルドに依頼があったのです」
ギルドは冒険者の統率組織であり、依頼の仲介組織であると同時に都市の非常戦力や非正規戦力としての側面を持つ。
どの都市でもその構図は変わらず市長とギルドマスターは、強いパイプを保持している事が多い。
「ですら、ギルドとしても大規模な討伐隊は組づらく、少数精鋭足りえる御四方のいずれかにに声をかけようと考えた次第です」
「まあよーするにー、私たちはこのギルドの最高戦力にー認められたって事だよー」
「別にそんな評価はどうでもいいけどゾンビには興味があるのよね」
「と言いますと?」
「群れをなすほどのゾンビを作れるって事は相当な術者だろ。最近噂の首なしの勇者にも繋がるものを感じる」
「何だよ。おめーら、首なしの勇者には興味ないんじゃなかったのかよ」
「勇者の方は興味ないわ。興味があるのはその術者の方よ」
「訳アリかー。うんうん、そう言う2人だけの秘密っていいよねー」
「別に踏み込む気はねぇぜ。冒険者をやってる奴なんて何らかの秘密を抱えてるもんだしな」
「そうですね。核心には無暗に踏み込まないそれがギルドの暗黙のルールでもありますから。とは言え術者の方にご興味があるようでしたらら受けて頂けるということでよろしいのですか?」
意外そうな顔をしたナルセスとサーシャの意見を総括する形でカルナムが依頼受注の判断を尋ねた。
「ああ、俺たちも参加させてもらう」
「私も異存なしよ」
死霊術者は手がかりどころか足がかりすらもない状況だったため、その足掛かりになるかもしれない今回の件を事張るつもりは最初からなく、ナルセスとサーシャの誘いとカルナムの依頼を快諾した。
「それでは出立の日取りや時間が決まった時には知らせていただきたいです」
「日時を報告するのか?」
冒険者ギルドは通常依受注と達成の確認以外は行わない。
今回の様に日時まで管理する事は通常無い。
「今回の件の様に危険度が非常に高い事案は、私どもも依頼に出たかどうか把握しておきたいのです。帰らなかった場合や失敗した場合、素早く後の対応が出来るように」
「なるほどなぁ、信用されてないわけか」
「いいえ、御四方で無理ならばこのギルドの人員では少数精鋭路線はあきらめなければならないでしょう。信用も信頼もしていますが妄信するつもりもありませんと言うだけです」
「そこに文句を言えば組織として成り立たないし仕方ないんじゃないかしら」
「そーそー、文句があるならその予防線を徒労に終わらせる事で意趣返ししてあっげよー」
それでも少々不満げなナルセスをなだめると話がまとまったのを確認したカルナムが、席を立った。
「出発は何時にするの?」
「最初に声をかけられたのはお前らだ。こっちはそっちの事情に合わせる」
「じゃあ、明後日の朝方で」
「了解。しっかり準備をしとく」
「ゾンビ狩りなんて持久戦間違いなしだもんねー。みんな明日は英気を養おー」
4人は集合の日時を決め、カルナムにそれを伝えてからギルドを出て、2組それぞれに分かれた。
「思いがけない所から足掛かりが出来たな」
メルセスとアルメイスは、2人で借りている部屋に戻り、依頼を含めた起こった物事の整理を始めた。
「そうね。でもちょっと気になるもするのよ」
「気になる事?」
「群れをなすほどのゾンビを飼っていたなら今までそれを秘匿してたって事でしょ」
「それがここに来ていきなり外に出るのはおかしいって事か?」
「ええ、勇者を首なしで動かせる状態にするほどの術者がコントロールを失敗するとは思えないし」
「罠かもしれないか」
「こっちが罠を張るならともかく向こうが罠を張る意味はないけど。作為的なものは感じるのよ」
「ラーファが主導でこっちを誘い込んだとか?」
「だとしたら、死霊術者があの娘に従ってることになるけど、あの娘にそんな器用ななことは出来ないわ」
ラーファは勇者を復活させてもらった立場であり、強く出られる立場ではない。
死霊術者をうっかり怒らせれば、勇者を消滅させられてしまう可能性があるからだ。
取り入ってコントロールをすると言う手もあるが、3年間一緒に旅をしたアルメイスがそれは無いと断言したのでそう言う事が出来るタイプではない事は間違いなさそうだ。
「だったら…」
「自分から話を振って言うのもだけどさっきも言った通り考えても仕方ない事を考えてもどうにもならないわ。どのみち私たちにはそこに乗るしかないわけだしね」
「だな。どのみち主導権は向こうにある。罠だったとしても全てを斬り伏せるしかないからな」
決意を固めた2人は明日の準備の予定を軽く話し合った後、眠りについた。