第5話 特別依頼
「うーん、面白そうなやつはないな」
「そうね。強そうなやつも居ないし」
掲示板を見て受ける依頼を決めようした2人だったがお眼鏡に叶う依頼は無く腕を組みながら悩んでいた。
「首なしの勇者が出て来て以降討伐系の依頼は特に減ったぜ」
「首なしの勇者が狩りまくったって話もあるよねー」
少ない選択肢の中、相談しながら話し合っていたメルセスとアルメイスは一組の男女に声をかけられて振り返った。
「ナルセスとサーシャだったか」
「あー、覚えててくれたんだー。先週はありがとねー」
「お陰でだいぶ楽できたぜ」
「ストロングベアーの時の2人だったわね」
「そうそう、その時以来だよねー」
「その時しか会ってないけどな」
「俺たちは噂で知ってたし、姿も見てはいたぜ」
「そうだったのか」
「それで何か用かしら」
「おお、そうだった。掲示板を見てるって事はお前たち今暇なんだよな」
「そうだけど?」
「だったら、俺たちの依頼を手伝えよ」
「何か面白い依頼持ってるの?」
「ああ、面白いとびきりのやつだ」
「詳しく聞こうかしらね。判断はそれから」
ひとまず話を聞く事でまとまった4人は、ギルドに併設されている酒場で座って話し始めた。
「このギルドでは、冒険者のレベルに応じてマスターたちが依頼を振り分けてる」
「それは知ってる。俺たちも実力を証明するまでは楽な依頼しか受けれなかったからな」
「そー、一番手っ取り早いのは実力者を倒すことだけどねー」
最初、その慣習を知らなかったメルセスとアルメイスは、ちまちま小さな依頼を受けて文字通りの日銭を稼いでいたが、その慣習を知ってギルドの実力者との模擬戦であっさり倒した事で実力を証明し最高位の冒険者として認められた。
「そんな最高位の冒険者でも簡単にはこなせない様な依頼ってのもたまにはあるんだ。そんな依頼は適性や実力を見てマスターが―と言うよりカルナムさんが直接声をかける事があるんだぜ」
カルナムさんとは、このギルドの事務方を一手に引き受ける超優秀な人物で、マスターが丸投げしたマスターの業務も彼がこなしている。
「今回はー、私たちかあなたたちに声をかけようと思ってたんだってー。それだったらー私たちだけじゃなくてー4人でやったほーが楽だし2人にも声をかけようってなったんだー」
「依頼内容はどん感じなの?」
「簡単に言えばゾンビ狩りだ」
「ゾンビ狩り?」
ゾンビと言えば死霊術者の得意分野だ。
思わぬところからの手がかり、二人は思わず目を見合わせた。
「そうだぜ。珍しいし面白そうだろ」
「そうね。面白そうね」
「分かった。その話受けさせて貰う」
「やったー、また一緒に戦えるねー」
喜んで立ち上がったサーシャが、向かいに座っていたメルセスに抱き着く。
「あら、腕と足どっちが高く売れるのかしら。それともこの顔なら首から落とした方がいいかしら」
「ちょっと、落ち着け」
刀に手をかけ真顔でとんでもないことを言うアルメイスをなだめる様にサーシャを振りほどいた。
「そう嫉妬すんなって。それにメルセスも嬉しそうにしてなかったか」
「んなわけあるか」
「どうだかな。でも、まあ世界を広げるってのは大事だと思うぜ」
そう言ってナルセスがアルメイス肩を抱く。
「調子に乗らないで」
「女連れで人の女に手尾を出す勇気は褒めてやる」
肩を抱かれたアルメイスは素早く立ち上がり、ナルサスを挟んで反対側に移動し刀を抜き、メルセスは座ったまま素早く抜刀してそれぞれ前と後ろから刀を首筋に立てた。
「おお、怖い怖い」
「2人とも本気にし過ぎ―。そう言うところも面白いんだけどねー」
そんな状況下でもナルセスとサーシャはケタケタと笑う余裕を見せている。
「本当に手を出したら。腰に付いてるの切り落とすからな」
「そうなる前に私が斬り捨ててるから心配しなくてもいいわ」
「わー、それは大変だ―。気を付けなきゃね。ナルセス」
「あなたが手を出すようなら股の割れ目を十文字にしてから斬り殺すから」
「何それー。無駄手間じゃーん」
刀を鞘に納めながらもさらに物騒な事を言うアルメイスだったが、サーシャはそれをさらに茶化す。
「皆さん。にぎやかなのは結構ですが、血は流さないでくださいね。御四方は、この街でも屈指の実力者。暴れられたら鎮圧にはギルド総出ですから」
ギルドの中で抜刀をしたせいで注目を集めまくった4人は丁寧な口調で話しかけられ一斉にそちらを向いた。
「カルナムさん。丁度良かったぜ。依頼内容を説明してくれよ」
「構いませんよ。特に御二方が刀を収めて頂けるなら」
「それはこっちの2人に聞いて。私たちが抜刀するかこっちにかかってるから」
「それなら心配するな冗談だからよ」
「うんうん。2人が可愛くってついねー」
ナルセスとサーシャはなおも笑いながらそう言って元居た席に座り直した。
「それでは話も収まったようですし依頼内容について話しましょうか」
登場からものの数秒で騒ぎを鎮静化したカルナムは、自分も席について依頼内容について説明を始めた。