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第1話 勇者の首

「ただいま。メル」


「お、お帰り」


片田舎の村で心に傷を抱えながら寂しく暮らす男メルセス・ゼインは、自分の家の前に立っている人物がクールに微笑みながら挨拶をしてくることが信じられずたどたどしく言葉を返すのが精一杯だった。


「家入れてくれるかしら。これちょっと重いのよね」


「良いけど何しに来たんだよ。凱旋か?」


「違うわ。勇者は関係ない。―いや、関係なくもないかもね」


家を訪ねて来たのは3年前、自分を捨てて村に生まれた勇者に乗り換えた幼馴染アルメイス・アインス。


「どう言う事だよ!お前は勇者の野郎に媚び売って俺を捨てたんだろ!」


勇者とは、聖痕を持ち強力な魔法を操る選ばれた人間の事で、人類の中でも数千人~数万人に1人くらいの確率で誕生するらしい。


勇者の持つ力はすさまじく、過去には一国の軍と渡り合った勇者もいると言われている。


その力にあやかろうと多くの人が勇者の周りには集まる。


ぶっちゃけて言えば凄まじくモテる。


村から出た勇者もアルメイスを含む数人の女性を連れて旅立った。


「失礼ね。私がメルを何時捨てたって言うの?」


「捨てただろ!俺が勇者になりたかったのになれなかった!落ち込んでた俺はお前に慰めてほしかったんだよ!それなのにお前は…」


勇者は15歳の時に体のどこかに聖痕が表れる。


逆に言えば、15歳の時に聖痕が表れない者は一生勇者にはなれないと言う意味でもあった。


幼いころより勇者に憧れ勇者になりたかったメルセスはその時今までに無いほど落ち込み怒った。


「本当に?本当に私に慰めてもらう事がメルの一番の願いだった?」


シッカリと目を見据えてそう言ったアルメイスにメルセスは、後ろめたくなって目を逸らした。


「取り合えず、昼食にでもしない?この時間ならまだ食べてないよね」


「食べてないけど。ッチ、相変わらずこっちのペースを全く考えてないよなお前」


「そうでもないわ。それよりお義母さんたちは?」


「死んだよ。一昨年。お前たちが居なくなって防衛の手が回りきらなくて魔獣に襲われてな」


「そう、それは悪い事をしたね」


今までのクールな表情が一瞬曇ったが、アルメイスはすぐに台所に入り料理を作り始めた。


「私が勇者の所に居たのは、あなたのためよ。メル」


「え?」


作り終えた料理を食べている、2人は無言だったが、料理を食べ終えた頃アルメイスが口を開いた。


「メルが勇者を殺したいって言ったから私はそれを叶えるために勇者の所に行ったの」


「それって…。もしかしてお前あの時の話を聞いてたのかよ」


アルメイスに本当の望みが慰めてもらうことだったのかと言われた時にメルセスの脳内には15歳の時、勇者の祝賀パーティーの裏で泣きながら一人で吐露した思いがよぎり目を逸らしたが、今度ははっきりと頭の中に情景が浮かび、思わずアルメイスにを問い詰めた。


「あなたはあの時勇者になりたいと泣いていたわけじゃなかったわ。あなたは勇者を殺したいと嘆いていたわ。当然よね。よりによってあなたを虐めていたあの男があなたのあこがれの勇者になったんだものね」


「そうだよ。俺はあの男に虐められてあいつを憎んでた。お前があいつをボコった後も心のどこかであいつを許せなかった」


勇者になった男とはそれほど大きくない村だと言う事もあり、幼少期から顔見知りではあるのだが、何故か虐めにあっていた。


そんなある日、虐めに耐えかねたメルセスがアルメイスに愚痴をこぼすとすぐに木刀を持って勇者の家に乗り込みボコボコに殴った後、その男からの虐めは無くなったが、心の傷までは消えなかった。


「でも待て、だとしいたらお前。もしかして…」


メルセスは、今までの流れからアルメイスが何のために勇者について行ったのか分かって言葉に詰まった。


それに対しての答えの言葉は無かったが、行動がそれを示した。


「これは―」


アルメイスが持ってきた箱を開くとそこには勇者の首が丁寧に収められていた。


「ちゃんと保存魔法はかけてあるから腐っては無いはずよ」


通りで運び込んだ後、触れないなかったわけだ。


こんなものを見せられたらたまったもんじゃない。


「そう言う問題じゃないだろ!お前マジかよ」


「大マジだけど?」


その言葉を聞いたメルセスは、絶句した。


「そうは言っても吐いたりしないのね。生首見ても」


「まあ、そこそこ慣れて入るからな。この村にも盗賊は襲ってくるし。生首は初めてだけど」


「それはちょっと安心したかも。これ見せたら嫌われるかと思ったんだけどね」


「つーか、どうやって」


刀を用いる剣術の師範であった父親に男で1つで育てられたせいもあり、剣術の達人であるのは知っているが、勇者の力はちょっと強いくらいではどうにもならないほどのものだ。


「ハニートラップ。行為自体は未遂だけど」


「男が一番油断してるところを…」


「ベットの上でスパっといってやったわ」


「えげつないな」


「流石に相手もバカじゃなくて3年もかかっちゃったけど」


「当たり前だろ。逆によくそこまでこぎつけたな」


アルメイスは一度勇者をボコボコにしている普通一夜を共に過ごそうとは簡単に思わない。


「苦労したわ。あの男に媚び売るのは毎回虫唾が走ったから」


「それはご苦労様。褒めて良いのか分からないけど」


「そこは褒めてよ。私頑張ったのよ」


「分かったよ。ありがとな。俺のためにこんな事してくれて」


「これでメルの望み88個目達成ね」


「俺の望み88個目。おい、もしかして残り87もあるのかよ」


「あるよ。だから、次は1つ目の望みを叶えようと思うの」


「1個目の望み?」


「私と結婚したい」


「はぁ、いつの話をしてるんだよ」


「6歳」


「だろ、はるか昔じゃないか」


「したくないの?私のこと嫌いになった」


幼少期の恥ずかしい思い出を掘り起こされたメルセスは慌てて否定したが、その様子を見たアルメイスは少し笑いながら確信した様に尋ねた。


「それは―」




「アルメイス!!!!!!!!!出てこい!!!!!!!!!!」




メルセスが照れつつも答えを言おうとしたその時村に女性怒号が響いた。


「あら、あの娘たちもう来たのね」


アルメイスはその声を聴いて刀を片手に家を出て声の方へ向かった。


「この声は?」


「勇者パーティーの残党よ」


「それってお前に恨みを持った奴って事か?」


「そうなるわね」


「俺帰るぞ」


「もう手遅れよ」


勇者殺しの女と勇者パーティーの邂逅など絶対何か起こるに決まっている。


巻き込まれる前にアルメイスを追って歩いてきた道を引き返そうとするが、アルメイスに呼び止められ前を向くとそこには怒髪衝天状態の女性冒険者が3名ほどアルメイスとメルセスを睨んでいた。

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