表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

夫の激しい嫉妬から家庭暴力へ

◇◇◇◇◇

 望海は大きな丸いケーキの乗ったトレーを両手で持ち、窓の外を見ている。

高清(こうせい)さん、遅いな。運転、大丈夫かしら……」

 独りごとを言いおわらないうちに、ドアの開く音がした。

 望海は笑顔で夫を出迎える。

「おかえりなさい。今日は初めての結婚記念日……」

 パシーーン!

 酒のにおいをプンプンさせた高清が、いきなり望海にビンタをくらわせた。望海はよろめき、手の中のケーキが床に落ちて無残にくずれた。

 望海は(ほお)をおさえ、ぼう然とする。いつも穏やかで優しい高清が暴力を振るうなど、とても信じられなかった。

「そんなに五条(ごじょう)家の財産が欲しいのか?」

 高清がどなる。

「家族の借金を返すためなんだろ? 人に頼んで僕をひき殺そうとしたことも、わかってるんだ」

 望海は、わけがわからず首を振る。

「何を言ってるの? 私そんなこと……」

 高清は、目を真っ赤に充血させている。もはや理性など残っていないらしく、乱暴に望海の両肩をつかむと、壁に押しつけた。

「雪乃が命がけで守ってくれなきゃ、今ごろ病院のベッドで寝てるのは、この僕だったはずだ!」

 高清は、ものすごい形相で望海をにらみつけている。

「僕たちは夫婦なんだぞ。よくもあんなひどいことができるな」

 望海の頭が真っ白になる。

(私が高清さんをひき殺す?)

 それは、ありえないことだ。今日、望海の車は盗難にあっていたのだ。雅が慌てて説明しようとしたときだった。

「しかも他の男と……」

 耳を疑うような高清のセリフに、雅はことばを失った。

 高清は、望海の胸元に目を落とす。激しい嫉妬(しっと)とアルコールのせいで完全に自制心を失っている。彼は乱暴に望海の手を引き寝室に連れてゆくと、ベッドに放りなげた。

「カネ目当てで結婚したなら、妻のつとめを果たしてもらうまでだ!」

 よく知っているはずの夫が、見知らぬ人のように思える。(こわ)くて息がうまく吸えない。

「高清さん、私がそんなことすると思う?」

 高清はネクタイをゆるめ、上着を脱ぎすてると望海を上から組みふせた。

「お前なんか、欲望のはけ口でしかない」

 ギラギラした瞳とは対照的に、その声はぞっとするほど冷たい。

 望海の心が絶望に支配される。

 高清が大きな手で彼女の太ももをこすり、乱暴に指を立てた。

「痛い……」

 けれど、それとは比べものにならないほどに心が痛い。

 高清は冷ややかな()みを浮かべ、手のひらをスカートの中へとさし込んでゆく。

林田(はやしだ)と寝るときも、そうやって嫌がるふりするのか?」

 高清は乱暴に望海のからだをまさぐりながら、ゲスな質問を投げかけてくる。

 望海の目に涙があふれる。

「急に何を言いだすの? 高清さん、何か誤解してる……」

「誤解だ? ふん、幼なじみのあいつと、僕に隠れて浮気してたんだろ」

 高清は素早くベッドからおりると、脱ぎすてた上着の内ポケットから写真を取りだし、望海に向かって投げつけた。

 望海は身を起こし、震える指先で写真を拾いあげる。

「そ、そんな……」

 望海は背筋が凍った。男女がキスをしている写真だった。

 そこに写っているのは、たしかに望海と幼なじみの林田蓮(はやしだれん)だ。けれど望海は、誓ってキスなどしていない。体調をくずし、めまいがして倒れそうになった望海を、蓮が抱きとめて助けてくれたのだ。その瞬間を、誰かが意図的に角度を調整し、まるでキスをしているかのように写したとしか考えられない。

 それにしても、わざわざ「キスシーン」の写真を撮って、高清に送りつけた人物の目的は、いったいなんだったのか。

 望海が誤解を解こうと口を開いた瞬間、ベッドの上で望海のスマホが鳴り、ディスプレイに「林田連」の3文字が表示された。

「浮気相手から電話だぞ。何が誤解だ!」

 逆上した高清は、激しく望海を押し倒す。そしてディスプレイの「応答」のアイコンをタッチした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ