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幼なじみ林田蓮との再会

 驚きのあまり、つんのめって倒れそうになったが、なんとかドアにつかまってからだを支えることができた。よく見ると、それは人間ではなく、同じサイズの人形だった。かなり汚れているうえにボロボロで、いわゆる人形の持つかわいらしさとは無縁の代物(しろもの)なのだが、瞳には魂が宿っているようにも思えた。そして目をあわせると、こちらの魂を吸いとれるような錯覚におちいった。

(早く戻らなきゃ)

 それ以上いたら、どうにかなってしまうのではないかという恐怖に襲われ、雅は部屋に飛んで帰って鍵を閉めた。心臓がまだドキドキいっている。

 この屋敷は、蘇我夫人ひとりが風変わりというより、全体的に怪しい雰囲気に包まれているような気がしてならない。

 雅は急に思い立って、部屋の中をくまなく点検する。幸い監視カメラは設置されていないようだった。

 そのあとベッドに入っても、不安がぬぐいされず、なかなか眠れなかった雅だったが、いつの間にか眠りに落ちていたようだ。

 翌朝、ドアをせわしなくノックする音で目が覚めた。

ドンドンドンドン。

「雅ちゃん、雅ちゃん起きて! 今日は大学に行くんでしょ」

 雅は眠い目をこすりながら、スマホを手に取った。

(え? もうこんな時間?)

 すでに8時を過ぎていた。

 急いで歯みがきと簡単なメイクをすませた雅は、クローゼットを開けて服を選ぶ。そばに座って雅を待つミキは、ずらりとならぶ美しい洋服を、うらやましそうに眺めていた。

「ほんと、いっぱいあるね。その濃いピンクの花柄のワンピースなんか、いいんじゃない?」

 そう言われて雅は、ミキがすすめてくれたワンピースを眺める。上品ではあるものの、病み上がりで着ていくには色があざやかすぎるような気がした。

「大学へ行くの久しぶりだし、病気もしてたから、もう少し清楚な感じがいいかも」

 雅は白いワンピースを手に取り、ミキに見せた。

するとミキはバツが悪そうにペロっと舌を出した。

「ごめん、そこまで考えてなかった」

 雅は濃いピンクのワンピースをハンガーから取り「好きならあげる。もう着れそうもないし」と言ってミキに手渡した。

 このことばに、うそはなかった。だいいちサイズがあわない。病気になる前の雅にくらべて、いまはツーサイズくらい落ちているのだろう。そして何より、派手な色は好みではなかった。

 ミキは、うれしそうに受けとった。雅もミキの喜ぶ顔を見て、思わず笑顔がこぼれる。

 雅は大きな袋を取りだし、サイズが大きいものや好みではない服を次々と詰め込み、まとめてミキにあげた。


 雅とミキは、急いで大学の正門にやってきた。何とか時間には間に合ったが、各企業のブースには長蛇の列ができていた。意を決して中に入ろうとしたとき、雅の目の前を、目が覚めるほどのイケメンが通り過ぎていった。颯爽と歩くその姿は黙っていても人目を引く。なるほど、行く先々で女子学生から歓声を浴びていた。

(れん)?」

 思いがけず幼なじみとの再会を果たし、雅は叫びだしたい気分になった。なんとか近くに行こうと、人並みを押しのけるようにして進む。

 けれど次々に声をかける学生たちに阻まれ、なかなかうまくいかない。

「林田先生の事務所もインターンを募集するんですか?」

「エントリーします!」

「林田弁護士、あなたの大ファンです!」

 雅は、やっとの思いであと数メートルのところまで来た。

(もうすぐ蓮と話ができる)

 そう思った瞬間、ハイヒールで足の甲をしたたかに踏まれた。

 あまりの痛みに、雅は反射的にハイヒール女を押しのける。するとハイヒール女は、傷を確かめようと下を向いた雅を、力いっぱい押し返してきた。

雅が「あっ」と思ったときには、からだのバランスがくずれ、後方に倒れはじめていた。腕を前に出すが、もちろんつかまる場所などない。

 もはや道のわきを流れる小川に、背中から落ちる未来しか想像できなかった。

 あきらめかけた瞬間、大きな手が雅の腰をがっちりと受け止めた。

 見つめあう男女のまわりが、まるでドラマのワンシーンのような甘い空気に包まれる。互いの瞳に自分の顔がうつっている。

(林田蓮!?)


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