表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

実の母がなぜ娘に毒をもるのか

ミキが運んできたトレーには、おいしそうなチャーハンが乗っている。

「雅ちゃん、おまたせ」

 雅は、目の前に置かれたチャーハンを夢中で食べた。

「ホントおいしい、いくらでも食べれる」

 そう言いつつ、もう食べ終わる勢いだった。

 ミキは驚いたようすで何かを言いかけたが、口には出さなかった。

 「ゲフー、おいしかった。幸せ~」

 ミキは雅がレンゲを置くのを見計らい、口を開いた。

「雅ちゃん……前はコーンをよけてたよね?」

 雅は内心ドキッとしたが、そしらぬ顔で答える。

「だね。前はツブツブして気持ち悪いと思ってたんだけど、今日は1日なんも食べてなかったから、おなかがすいてたのかな。一気に食べちゃった。すごくおいしかったよ」

「そっか。ごめんね。本当は雅ちゃんのぶんだけ、母さんに作ってもらうはずだったんだけど、雪乃(ゆきの)さんがどうしてもチャーハンが食べたいって言いだしてね、あの人、コーン好きでしょ。だから……」

「いいの、気にしないで。それより……」

 愛想よく手を振りつつ、雅は探りを入れることにした。

「私いま、うつ病で学校を休んでるじゃない? でもそろそろ卒業だよね」

「うん。だからちょうど聞こうと思ってたの。明日、大学で卒業生向けに企業のインターン募集の説明会があるんだけど、雅ちゃんも行く?」

 前から雅とミキが同じ大学だとは知っていたが、こんなに仲がいいとは驚きだった。

(インターン……)

 雅の瞳がキラリと光る。

(やった! これって五条(ごじょう)グループに入り込む絶好のチャンスじゃない?)

 願ってもない誘いに「もちろん行く!」と勢いよく返事をする。

 ミキはうれしそうに笑った。

「よかった、じゃあ早く休んで」

 雅は、ドアのところまでミキを送ろうと立ち上がる。ところが突然、激しいめまいに襲われ、心臓がバクバクと早鐘(はやがね)を打ちはじめた。

「どうしたの? お葬式で疲れちゃった?」

 ミキは雅を支えベッドに座らせると、心配そうに顔をのぞき込んできた。

「大丈夫? 病院、行く?」

 雅は手探りでコップを手に取り、水を飲む。

(まさかこんなに、からだが弱いなんて……)

 そう思った瞬間、川島の言葉がよみがえる。

「雅様、余計なことに首を突っ込むと、ひどい目にあいますよ。食事には気をつけたほうがいいです」

(たしかにそう言ってた。さっき食べたチャーハンがダメだったの?)

 雅は米粒ひとつ残っていない皿を見て、絶望する。あまりにもおなかがすいていたのだ。いまさら気づいても、もう遅い。

 ミキは心配そうな顔をして優しく手をにぎってくる。

「やっぱり明日は大学に行かずに、家で休んでなよ」

 雅はミキの人のよさそうな顔をじっとみつめていたかと思えば、突然、ミキの手首をわしづかみにした。

「正直に答えて。チャーハンに何か入れた?」

「そ…そんなことしてないよ」

 ミキは目に涙を浮かべている。

「雅ちゃん、何言ってんの? 入れるって何を? つばとか泥とか? 私がそんなことする意味ないでしょ? 今日の雅ちゃん、なんかずっと変だよ!」

「そんな嫌がらせ程度のものじゃなくて……。薬か何かを入れたんじゃない?」

 ミキは目を丸くして、口をぽっかり開けている。

 雅はミキの手首をつかむ手に力を入れた。

「もう一度聞く。入れたの?」

 ミキは深いため息をつき、首を振った。

「そっか、めまいがしたのは誰かに薬をもられたせいだと思ってるんだね。もし本当に薬のせいだとしても、私じゃないから」

 雅は注意深くミキの表情を観察する。疑いをかけられたことに傷つき、本気でがっかりしているように見えた。

 ミキは雅の手に自分の手を重ね、まっすぐに雅の目をみつめる。

 ミキの無言の訴えに、雅の確信は揺らいだ。ミキを疑ったことに罪悪感をおぼえつつ、ゆっくり手を離した。

 ミキは痛そうに手首をさすりながら言った。

「行こう」

「え?」

「警備室で監視カメラをチェックしよう」

 なるほど、これだけ大きな屋敷で、しかもあるじが議員なら、監視カメラくらい設置されていても不思議はない。

(これからは気をつけて動かないとダメね)

 雅は、あらためて自分をいましめる。自分が監視カメラをチェックできるなら、他人も同じことができるということだ。


 雅とミキは警備室にやってきた。ミキの「雅ちゃんのピアスを探したい」という適当な口実で、あっさり映像を見せてもらえた。

 まずキッチンの映像を確認する。ミキの母親がチャーハンを作っているが、特に怪しい点はなかった。チャーハンが皿に盛られると、ミキがトレーに乗せてキッチンを出た。ここまで何も問題はない。

 次に階段と廊下の映像を見る。ミキが2階へと続く階段の踊り場にさしかかったときだった。上の階から中年の女性がおりてきてすれ違う。

(あれは昼間、薬のチューブを渡してきた人だ!)

「これ、私に薬をくれた……」

 言い終わる前に、衝撃的な映像が目に入ってきた。中年女性が落としたハンカチを、ミキが拾ってやっていたのだ。その瞬間、中年女性は雅のチャーハンに白い粉末を振りかけた!

 雅は驚きを隠せなかった。この屋敷の使用人なら監視カメラの位置はわかっているはずだ。それなのに、あえてカメラにうつる場所で、あのように大胆な行動に出た理由がさっぱりわからない。何か事情があるのか、それとも誰かに指示されたのだろうか。

「薬かけたよね? この家政婦さん、私に恨みでもあるのかな?」

 わけがわからず、思ったことを口にしてしまう。

「家政婦さん?」

 ミキと当直の警備員が、不思議そうに雅を見る。

「雅ちゃん、お母さんのことを家政婦さんって……」

 雅は頭が混乱する。

(お母さん? えええ? あの人が雅のお母さん?)

 頭がガンガンする。もはや耳鳴りまで聞こえてくるしまつだった。

(実の母親でしょ? ……なんで娘に薬をもるわけ?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ