エピローグ
「花開先生が死んだ?」
瑠璃は覚えていた。頭が理解を拒んでいただけで、お葬式に参列したことも何もかも知っていた。
それでも、信じたくない。
「来てくれ、きっとまだ······」
瑠璃は紅葉を半ば強引に連れ出し、花開先生のいた一室に強制連行した。
しかし、その部屋はまるでもぬけの殻で、花開先生が居るどころか、その形跡すらない。高く積み上げられていた資料も、瑠璃が贈った百合水仙の花も消え失せている。
「そんな······」
瑠璃は泣き崩れた。死んでしまっていることが確実と考えるしかなくなったからだ。
「しかし、あれは一体······」
にわかには信じられない。生きていない人間があれだけの質量感を持って現れるものなのだろうか?
それよりは花開先生が影武者か何かと入れ替わっていて、お葬式にいたのは影武者の方だったと考えるほうが確率的にありえるように思えた。
そんな瑠璃をみて、紅葉は慰め、口を開く。
「わたしには何があったのか、それを推し量ることはできません。······ですが、花開先生より預かっていたものがあります。瑠璃さんがお別れを済ませられたのならわたしてほしいものがあると、そう言付けられています」
「渡しもの?······まさか!?」
紅葉は静かにゆっくり頷いた。
答えはしない。本当に瑠璃が花開先生と会っているのなら知っているだろう。それに瑠璃と花開先生の二人は家族と同等以上の絆で結ばれている。その大切な思い出をわざわざ自分が引き出してやる必要もあるまいと考えた。
「それはどこに、どこにある!?」
瑠璃は紅葉を揺さぶる。
それはもう強く揺さぶる。
「おちついてください!」
「あぁ、済まない。平静を失っていた」
怒って振りほどいた紅葉に謝罪する。
気持ちを理解できる紅葉もそれ以上は責め立てない。
「自分で探してください。花開先生がものを隠す場所を知っていること、それがわたしからの課題です」
「あいわかった」
説明されるやいなや、瑠璃は駆け出す。
「ちょっと簡単すぎたかな?でも、瑠璃さんの探偵としての資質はもう示したんだろうし、あとは二人の絆の強さを示すだけだよね」
走り去った瑠璃を紅葉は微笑ましく見つめる。自分を救ってくれただけに、それくらいの贔屓はあってもいい、花開先生も許可するだろうと思った。
* * *
瑠璃は一目散に自分の家に駆け込み、とある絵画の裏を見た。この絵画はとある歴史的な戦の一幕を描いた作品で、瑠璃の祖父が当時伸び悩んでいた花開先生のために大枚を叩いて購入した品だ。
ことあるごとにこれがなければ今の私はいないと瑠璃に話していたもので、両者にとって縁深いものだ。
絵画の裏には穴が開いている。
その中には、葉書と桐箱があった。
急ぎ足でしたが完結です。
ありがとうございました。