2輪のマリーゴールド
「やっと、帰れる」
全員殺せた。
でも、ちょっと疲れたな。
最後の男を殺した私は、ゆっくりとお母さんの元へ移動する。
「お母さん」
私は、近寄ったお母さんに触れる。
肌は酷く冷たくなっており、凍えている事が良く伝わって来る。
「寒かったね、でも、もう大丈夫だよ」
お母さんをマントでくるみ、背負った。
もうこんな所に用はない、さっさと出て行こう。
全身にできた生傷の痛みをこらえ、私は階段を上がる。
「痛い、でも、我慢しないと」
建物から出た私は、周囲を警戒しながら町の外を目指す。
もうあんな数の相手はごめんだ。
「すぐに、帰ろうね」
私はお母さんに、そう話しかけるが、返事をしてくれない。
どうしたんだろう……
あ、そっか、疲れたんだ。
今は、寝かせてあげよう。
「こんなに疲れてるんだから、私が頑張らないと、
槍で刺され、剣で斬られ。
でも、これで良い。
邪魔な奴らは、みんな殺せた。
「はぁ、はぁ」
今の私に、追い打ちをかける様に振り付ける雨に打たれながら、私は町を出た。
ただでさえ寒いのに、雨で更に体温が奪われる。
諦めそうになるけど、こんな所で諦めたくない。
「帰るんだ、そしたら、また、三人で」
一歩踏み出すたびに、気が遠くなるような痛みが広がる。
それでも、私は足を止めない。
アイツらが追ってこないとも、限らないのだ。
そんな私の意に反して、視界も歪み、足にも力が入らなくなってくる。
「あ」
遂に限界を迎えた私は、その場に倒れ込む。
見渡す限り、ただの森林。
故郷の森だと思いたいが、もう、そんな事を考える余裕がない。
血が流れ出て、思考も薄れてきた。
「いや、だ、まだ、死ねない」
自らにカツを入れ、無理にでも起き上がる。
もう追っ手も来ないようなので、一先ず休むことにした。
一緒に倒れてしまったお母さんも、木に立てかける。
「お母さん、安心して、すぐに帰れる、から、ね」
力がなくなった私は、不意にお母さんにもたれかかってしまう。
視界はかすみ、呼吸も早くなって来る。
そして、緊張の糸もきれ、目から涙がこぼれ出て来る。
「おか、しい、な、力が、入らない、冷たい、さむい、よ、お、かあ、さ、ん」
安心したせいかな?なんか、眠くなってきた。
でも、このままじゃダメな気がする。
こんな冷たいの、もう嫌だ。
「まだ、ダメ、でも、この、ま、ま、寝たい」
とうとう私は、マブタの重さに耐えられなくなった。
お母さんに寄りかかり、眠りにつく。
安心して、起きたらすぐに、家に帰るから。
――――――
……あれ?
何だろう、揺られてる?
それに、温かい。
「ん、お、お母さん?」
私を、誰かが運んでいる。
暖かくて、優しい感じ。
懐かしい。
こんなに暖かいの、何時以来だろう。
「お家に、帰るの?」
「……そう、着いたら起こすから、それまで、寝ていなさい」
「うん、ありがとう」
優しい声に包まれながら、私は眠りについた。
そっか、戻れるんだ。
またあの、温かい日々に。
私の求めた、三人一緒の暮らしに。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
息抜きに書いた物なので、これにて最終回という、短いお話となっております。
別の作品も読んでいただけると、嬉しいです。