嫉妬
朝日が昇るとともに、私は廃墟を後にした。
そしてまた、あてを頼りに、歩き続ける。
「すぐに帰るよ、だから、まってて」
閉じ込められていたあの部屋が有った建物。
そこを抜け出して、一週間の辺りから、もう何日経ったか数えていない。
疲労の蓄積されている足。
日に日に重さを感じて来る身体。
もしかしたら、一か月は経過しているのかもしれない。
「……ここで、何個目だろう」
時間の経過を考えながら、私は次の町を前にする。
あの日から、町や村を、見つけては、手当たり次第に訪れた。
そこで、お母さんを探しては、色々な人に騙されかけた。
そのうで、追いはぎ同然に生活し、命をつないできた。
「……相変わらず、武器を持っている人、沢山いる」
町の周りには、槍や剣で武装した人間達が徘徊している。
どの町や村でもそうだった。
武器を持ち、なんとも緊張した空気を出していた。
どうでも良いけど。
「でも、何時もみたいに入ればいいか」
目の前に有る町のように、大きな場所では、何時も入る時に襲われかけた。
その度に、腕を掴まれ、槍を向けられた。
だから、何時もこういう町に入る時は、入り口に立っている人達を倒してから入る。
もうあんな目に遭うのは嫌だから。
それに、あんな目に遭ってからというもの、男の人を、人間と認識できない。
何か、別の生きものに見えるようになった。
「……」
「あ、ちょっと君!」
「(やっぱり)」
「悪いけど、ここに入るならッ!!」
何時もの通りだった。
静かに入らせてくれない。
だから、私は話しかけてきた人間を殴って黙らせた。
最初に町に訪れた時に気付いた。
私は喧嘩が強い。
「おい!なにしやっゴフ!!」
もう一人も、同じように黙らせた。
突き飛ばされた男は、壁にキレツができる勢いで激突し、気を失った。
いつも思う、どうして皆、私の邪魔をするの?
町位、好きに入らせてよ。
「(ほんと、ここに入る人って、何時も如何してるんだろ)」
考えてもみれば、私は百年以上、家から出た事が無い。
いや、正確には、家の敷地から出た事が無い。
外は危険だから、町に入ってはいけないと、両親に釘を刺されていた。
だから、他の人たちがどんな風に町に入っているのか、知らない。
「ま、いっか」
ささっと町へ入り、お母さんを探し始める。
がやがやと騒がしい。
こう言うのは、どうしても慣れない。
ずっと静かな場所で、土をいじっていたから。
出来た野菜は、何時もお父さんが一人で売りに行っていた。
だけど、こうして人々を見ると、どうも胸の底がうずく。
「……(羨ましい)」
所々に散見できる、母親と子供が、手をつなぎ、歩く所。
その場面を見るだけで、羨ましく思える。
いや、それどころか、妬ましい。
今の私に、持っていない物を、持っている。
「……ちょっと、休も」
嫉妬心や人ごみで、どうも疲れてしまった。
とりあえず私は、適当に見つけた路地に入る。
でも、奥へは行かない。
奥へ行けば、また襲われる。
「はぁ、お腹空いたな~」
座り込んでしばらくすると、またお腹が鳴る。
何か買おうにも、お金がない。
だからいつも、捨てられた物を食べていた。
でも、生ごみ以外にも、食べられる物は有る。
「……丁度いいや」
運よく、私のそばを通りかかったヘビを捕まえる。
後は、適当に皮をはいで食べる。
こう言った野生の小動物も、何時も食べて来た。
味は、正直何も感じない。
部屋を出た日から、味の類を感じなくなった。
「……ふぅ」
ヘビを食べ終えた私は、骨や皮を適当に捨てる。
一匹だけだけど、十分だ。
口の血をぬぐい、さっさと捜索を再開しようとする。
「ねぇ?如何したの?」
「ッ!?」
手斧を握る力を、一瞬強めた。
でも、落ち着いて前を見ると、目の前には幼いエルフの少女が居た。
汚れも、闇も、何もしならない、純粋な目。
昔の自分のように。
「わぁ~お姉さん、ハーフエルフなの?」
「ハーフ?」
「うん、だって、お姉さんみたいに、髪が金色のエルフなんて、見た事ないもん」
「……しらない、私はただのエルフ、髪も生まれつき」
「へ~……あ、お母さん!」
「……」
エルフの少女は、通りかかった母親の元へと走り去った。
そして、私の事なんて、最初から関わっていなかったように、笑顔で去っていく。
何をしに来たんだ。
私はそう思い、斧を握る力をさらに強める。
まるで、私への当てつけのように、楽しく、純粋な表情を浮かべていた。
「(妬ましい、あいつ等)」
人目が無ければ、親子共に、斧で頭を割っていた。
いや、落ち着け、すぐ傍にいる。
お母さんは、この町の何処かに、必ずいる。
お母さんの声は、いつも以上に大きく聞こえる。
「(私にだって有るんだ、アイツみたいに、温かい家族が)」
お母さんにさえ会えれば、また戻れる。
あの温かい日々に。
絶対に、戻ってみせる。
絶対だ。