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悲しみ

 あれから、どれだけ経過しただろうか。

 私は、痛む足を引きずりながら、廃墟となった建物へと足を運ぶ。

 凍り付きそうな程冷たい夜風が、素足に叩きつけられる。

 靴を履いていないせいで、足もとの小石や小枝の感覚が、よく伝わって来る。

 辺りを見渡し、誰も人が居ない事を確認する。


「……今日は、ここで寝よ」


 見つけた部屋の隅に、私はもたれかかり、着ているマントを深々と被る。

 護身用に持っている手斧をしっかり握り、浅めに睡眠を始める。

 いや、寝てもどうせ、すぐに起きてしまう。

 数日前までを思い出すから。


「……寒い、お腹、すいた」


 そんな愚痴をたれながら、私は眠りにつく。


 その十分ほど後。

 私は、強い鼓動と共に目を覚ました。


「はぁ!!……はぁ、はぁ」


 胸が苦しくなる程強い鼓動と、寒いというのに、大量に出てきた冷や汗。

 思い出すのは、優しかった両親との生活。

 農家をしていた私達は、生活は貧しくても、幸せに暮らしていた。

 私の百六歳の誕生日までは。


「……どうして、私達だったの?」


 あの日、誕生日を祝ってくれていた日。

 見知らぬ男達が、私達の家を襲った。

 数秒間、私はなにが起きたのか解らなかった。

 気付けば、お父さんは倒れ、家に入ってきた男達が、私に襲ってきた。


「おでこ、まだかゆい」


 未だにムズムズする、オデコの怪我。

 この部分がうずく度に、襲われた瞬間を思い出す。

 訳も分からず抵抗した私は、男の一人が持っていた酒瓶で、この部分を殴られた。

 その時の、人間なのか、化け物なのか、良く解らない怒号が、耳に張り付いている。


「……うるさい、黙って」


 夢で当時の事を思い出し、似たような声と叫びが、頭と耳に響く。

 耳を塞いでも、未だに聞こえて来る。

 その後の事は、よく覚えていない。

 次に目を覚ました時、下半身の痛みを感じながら、変な部屋で首を繋がれていた。


「……う、うう」


 あの声を思い出すと、その部屋での生活を思い出す。

 決まった時間になると、男が代わる代わる入って来ると、決まって乱暴された。

 殴られ、踏まれ、逆らえば、もっと酷い目に遭う。

 そんな日々。

 家族と一緒に過ごした、あの温かい日々とは真逆、冷たくて、暗い日々。


「……死んじゃって良いよね、あんな奴ら」


 エルフだから、良い体をしているから。

 そんな事を言われ、あの部屋で過ごした。

 でもある日、私は開放された。

 何時ものように乱暴されていると、頭の中で、何かが切れた。

 気付けば、私に乱暴していた人も、他の人も、皆死んでいた。

 その時の私は、血に塗れた手斧を持っていた。


「だって、人じゃないんだもん」


 あんな奴ら人じゃない。

 死体を見た私は、そんな感想を抱いた。

 一通り殺した私は、部屋の有った建物の中で、お母さんを探した。

 でも、見つからなかった。

 だから、帰る事にした。

 私のお家に。

 そう考えた私は、特に何も考えず、今着ている服とマントだけ盗んで、建物をぬけだした。


「……待っててね、すぐに、帰るから」


 ここがどこなのか、お家がどこに有るのか、未だに解らない。

 でも、心なしか、お母さんが私の事を呼んでいる気がする。

 私は、その方向へ、今も向かっている。


「早く、戻りたいな~」


 きっと、アイツらに汚されたお家のお掃除をしているんだよね。

 それで、お父さんの手当てをして、二人で、私の事を、待ってるんだよね。

 待ってて、すぐに帰るから。

 そしたら、また一緒に、畑を耕そうね。

 そしてもう一度、温かい日々を、過ごそうね。

 三人一緒に。


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