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82 危険回避とカルドン侯爵家家族会議 

84話当たりで解説って言ったのに無理です(断言)。だって次は大市の話ですから。

もやもやしている方、ごめんなさい。もう少々お待ちくださいませ。


 お祖父様に『もうドヤールに帰りたぁい』とオネダリしたい煩悩と闘っています。サラナ・キンジェです。ごきげんよう。


 元々、あまり気乗りのしない小旅行でしたが、今、最大限に帰りたい気持ちです。ええ、お祖父様なら秒で叶えてくれると思うの。


 私がこんな気持ちになっているのは、お祖父様がシヴィル様と決闘騒ぎを起こして、シヴィル様を豪快に吹っ飛ばしたからではない。いえ、シヴィル様は治癒魔術を受けなきゃいけないぐらいの大怪我をしたので、十分に大事(おおごと)だったんですけど。

 でも木っ端みじんにならなかったから、お祖父様は十分手加減していたと思うわ。シャーロット様から決闘の経緯を聞いたカルドン侯爵も『バッシュ様は、昔に比べて随分と丸くなられた……』と仰っていたもの。シヴィル様も無事に意識が戻った事だし、これは無問題と判断していいのではないかしら。


 決闘騒ぎが大した事なかったと思えるのは、あの騒動を上回るぐらい、カルドン侯爵家の様子がおかしかったからだ。

 私たちがお庭散策をしている間に、一体どんなお話がされていたのか。サロンに戻るとカルドン侯爵家の勢力図が一変していました。下剋上ですわ。 

 大人しく口数も少なかった前侯爵夫人のメイア様がキリキリとサロンを仕切っていて、カルドン侯爵とアデリー夫人がおどおどと小さくなっている。カルドン侯爵とアデリー夫人、この僅かな時間に10も老けたように見えるわ。マフィアのドンとその夫人が、萎れた菜っ葉みたい。いや、どんなイメチェンよ。


 伯母様、お母様はほほほとおっとり微笑んでいらっしゃいますけど、騙されませんから。ミンティ男爵家の皆様が、紙みたいな顔色でプルプル震えているじゃないですか。一体何をしたんですか? 


「ふっ。ミシェルは辺境伯夫人として、成すべきことをしたまでよ。気にすることはない」


 お祖父様にそう断言されたけど、不安しかないわ。よそ様のお宅で辺境伯夫人として成すべき事って何かしら。普通に社交をしていて、よそ様の勢力図は変わらないと思うの。


 とても気になるけど、スルーする事にしました。未成年者が遠ざけられたってことは、何かディープな理由がありそうだし。

 伯母様には『サラナは幼い頃からゴルダ王国の第2王子(バカ)の尻拭いばっかりだったでしょう。しばらくはゆるりとしなさいな』って、面倒な社交を免除してもらっているのだもの。ここは全力で甘えるべきよ。忘れがちだけど、私の目標はスローライフなのよ。


 さて。夕食会には大怪我をしたシヴィル様も参加なさっている。一応、夕食会が始まる前にお祖父様に謝罪をしていらっしゃったけど、その顔には不満が溢れていました。アレは心からの謝罪ではないわね。


 たぶん、あっという間にお祖父様に吹っ飛ばされて、しかも目覚めたら怪我は治癒士のお陰で完全に治っていたから、ワンパンダウンした自覚がないのだろう。治癒魔術って便利よね。慰謝料を請求されてもおかしくないぐらいの怪我を負わせたというのに、傷一つなく完璧に元通りになったのだもの。『あの程度の怪我で、治癒魔術を使用するなど、騎士として鍛錬が足らん』とお祖父様は怒っていらっしゃいましたが、魔物にかじられても傷一つ負わないお祖父様とは、そもそも種別が違うと思うの。

 

 でもそのおかげで本人に負けた自覚がないのは困るわぁ。シヴィル様のふてぶてしい謝罪に、お祖父様が『ふうむ。それならば、次は剣で決着をつけるか? 流石に腕の1本か2本斬られれば、負けたことに気づくであろうよ』と嬉しそうでしたけど、腕は2本しかないから斬らないでくださいませ。世界最高の治癒魔術師でも、新しい腕を生やすのは無理でしょうから、そりゃあ負けたと気付くでしょうけど。カルドン侯爵の必死のとりなしで、なんとか再戦は免れましたが、シヴィル様のふてぶてしい態度は直らず。くそー、腹立つわー。


 それにしても。今回のカルドン侯爵家の訪問、意味があったのかしら。伯母様やお母様、お祖父様の態度から、侯爵家との交友を深めたいという感じはしない。どちらかというと、サッパリとしたお付き合いに終始しているわね。会話も上辺だけのものだし。何故だか伯母様とメイア様の仲が深まっていて、先ほどから意味深なアイコンタクトを取っていらっしゃるけど。それに怯えるアデリー夫人。不可解。


 まあ。今回の訪問で成果があったとしたら、シャーロット様と親しくなれたことかしら。

 ほんわか癒し系のシャーロット様とはお話ししていて楽しいし、ダイアナお姉様やパールお姉様とも同じ学園に通っていた先輩・後輩の仲なので、今度、お姉様たちのお茶会にご招待することになりました。お姉様も、お友達が出来たら連れていらっしゃいと言っていたので、お誘いしても大丈夫なはず。伯母様もお母様もニコニコと喜んでくださったので、安心。うふふ、また婚約者様との恋バナを聞けるのね。楽しみだわ。


 明日はカルドン侯爵が大市を案内してくれることになった。鉱石や武具がメインの大市には興味のない伯母様とお母様は、メイア様やアデリー夫人やシャーロット様とお過ごしになるらしい。あ、ミンティ男爵家も、ミンティジュースの販売について調整があるようで、一緒に残るそうです。皆さん涙目でしたけど、頑張って。

 

 触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。楽しい大市めぐりをしましょう。そうしましょう。


◇◇◇


 夕食会が終わり、ドヤール家とミンティ家を客室へ案内した後。カルドン侯爵家の緊急会議が開かれていた。

 カルドン侯爵家では家族会議が頻繁に行われる。家族それぞれ忙しい日々を送っているが、定期的にこうした場は設けることで侯爵家として情報を共有するのだ。

 だがいつだって、会議を仕切るのはカルドン侯爵とその夫人のアデリーだった。騎士団の情報を共有する場合はシヴィルが仕切る事もあるが、大人しい性質のメイアやシャーロットが出しゃばることなどついぞなかった。

 それが、この日は違っていた。場を仕切るのはメイアとシャーロット。カルドン侯爵とアデリーはおどおどと小さくなっているし、シヴィルは昼の決闘のショックを引きずっているのか、静かだった。


「ありがとう、シャーロット。貴女がサラナ様と仲良くなってくれたお陰で、なんとか体裁は整えられたわ」


「そんな、お母さま。サラナ様はとても素敵なお嬢様だわ。こちらも仲良くなれて嬉しいのよ」


 メイアのため息交じりの言葉に、シャーロットは穏やかな笑みを浮かべる。


「それに、憧れのダイアナ様とパール様とのお茶会にも誘っていただいたのよ。あのお2人のお茶会はなかなか参加出来るものではないから、とても楽しみだわ!」


 シャーロットは昨年学園を卒業したが、後輩であるダイアナ、パールの事をよく知っていた。どちらも子爵家の令嬢だというのに、自分たちよりも高位の貴族相手を、臆すことなく()()()()()()()辣腕は有名だった。その清々しいまでの強烈なカリスマに、心酔する学生も少なくない。


 仲の良い縁戚のレヴィア侯爵夫人が、ミンティ家のフローリアを通してダイアナとパールと懇意になれたと、狂喜乱舞していたのを羨ましく思っていた。

 レヴィア夫人から聞かされた、ダイアナとパールのごく近しい友人しか招かれない『妖精の茶会』に参加した時の話は、うっとりする程素晴らしいものだった。そこに、シャーロットも招いてもらえたのだ。これほど嬉しい事は無い。


「たかが子爵家のお茶会だろう? 大袈裟だな」


 シヴィルが不貞腐れたように口に出すのに、シャーロットはシラッとした目を向ける。


「本当に、お兄様は世間知らずでいらっしゃるのね。未亡人や街の女性に手を出す暇があったら、もう少しまともな社交をなさってはいかがかしら」


「なっ」


「ああ、シヴィル。ボーデル伯爵家の未亡人とは手を切りなさい。あの方、素行が悪すぎて伯爵家を除籍されてお子様共々、生家の子爵家に戻されるそうよ。亡き伯爵の忘れ形見が他の男の胤だったらしく、伯爵の弟君が後を継がれる事が急遽決まったのよ」


「はっ?」


 畳みこむように妹と母にビシビシと言われ、シヴィルは頭が真っ白になった。妹や母に自分の遊びの事がバレているなんて思いもしなかったのだ。しかも一番付き合いの長い未亡人(恋人)の醜聞に、激しく動揺した。シヴィルとの偶の逢瀬を心の支えに、亡き夫の子を必死に育てる彼女を、シヴィルはいじらしく思っていたのだが。


「件の元伯爵夫人、お兄様以外にも()()()()()()がいらっしゃるそうよ。私、他家のご令嬢たちに、『お兄様も大変ね』なんて言われて恥ずかしかったわ」


「万が一にもその女を妻になどと願うつもりなら、我が家から身一つで出ていく事を覚悟しなさい。全く。お前ときたら、選ぶ女性の趣味が悪すぎて恥ずかしいわ。遊ぶにしたってもう少し上手く出来ないと、いざ妻を迎える時には碌な相手が残っていませんよ」


「わ、私は、それ程愚かではありません」


 シヴィルは思わず反論した。未亡人との関係はあくまで遊び。割り切ったものだ。そんな青二才の様な事を願うつもりはない。


「でもお兄様、件の夫人から『夫の弟に家を乗っ取られた。正式な後継ぎである息子が不憫でならない』なんて泣きつかれたとしたら、どうします?」


 シャーロットの問いに、シヴィルは言葉を詰まらせた。もし長年の恋人である彼女にそう訴えられたら、疑うことなく彼女を信じ、カルドン侯爵家の力でなんとかしようとしただろう。

 動揺し黙り込むシヴィルに、シャーロットは冷ややかな目を向ける。


「アデリーお義姉様。こんなお兄様をサラナ様のお相手になんて、失礼過ぎるわ。サラナ様には縁談が降るように舞い込んでいるのよ。辺境伯と前辺境伯が目を光らせているから、どの家も表立ってはお話を進められずにいるけれど、噂では王弟殿下がサラナ様にご興味を示されているのよ」


「お、王弟殿下が……!」


 アデリーが悲鳴の様な声を上げる。社交界で今一番の話題は、もうすぐ学園を卒業なさる王弟殿下の結婚相手だ。高潔な王弟殿下の心を射止めるのはどの家の令嬢なのか。年の近い高位貴族の令嬢たちは皆、王弟殿下の寵愛を競っている。その筆頭はランドール侯爵家のクラリス嬢だったが、あまり評判がよろしくなく、令嬢たちの争いは混迷を極めているのだ。

 

「サラナ様なら納得だわ。ドヤール家の打ち出す事業は元は全てサラナ様のお考えなのでしょう? それなのにちっとも偉ぶる所もないし、隣国の王子妃として教育を受けていらっしゃるから所作も教養も素晴らしいし、素直で控えめでお可愛らしくて。ダイアナ様やパール様が溺愛なさるのも分かるわ。本当に素敵なご令嬢だもの」


 シャーロットがアデリーを見据える目は、どこまでも冷ややかだ。自分は嫁に行く身で、これからのカルドン侯爵家を支えていくのは義姉だからと、常にアデリーを立てていたシャーロットだったが、こんな事も知らないなんて義姉の社交には偏りがあり過ぎる。


「お義姉様も、派閥の方とばかり交友を深めるのではなくて、幅広いお付き合いをなさった方がよろしいわ。()()()()()()()ばかり聞いていたら、取り残されてしまいますわよ」


 取り巻きに囲まれて褒めそやされるばかりでは、とても侯爵夫人は務まらない。今までよくも問題を起こさなかったものだ。いや、水面下で問題は起こっていたのだ。ただ、表面化しなかっただけで。


「シャーロット。アデリーに対して言葉が過ぎるのでは……」


お兄様(脳筋)は黙っていて」


 流石に言い過ぎだと窘めようとしたカルドン侯爵を、シャーロットはピシャリと黙らせた。かつてない妹からの圧に、カルドン侯爵は言われた通りに口を閉じる。


「お、お義母様、シャーロット。ごめんなさい。私、一体何を間違えていたの……? どうして辺境伯夫人の不興を買ってしまったのかしら……」


 アデリーも、さすがに大人しい義母と義妹にここまで言われて、心配になったようだ。後継たる子を産み、侯爵夫人としての大きな責務を果たしたとはいえ、アデリーはカルドン侯爵家に嫁いでまだ数年。何十年も侯爵家を取り仕切ってきたメイアや、カルドン家の娘として育ったシャーロットには及ばない。


 そんなアデリーに、メイアは小さく溜息をついた。悪い嫁ではないのだ。勝ち気なところも、侯爵家の夫人としては望ましい資質だといえる。自分が間違っていると感じたら、周囲の忠告を聞き入れる素直な性質も、アデリーの美点だ。

 ほんの少し心得違いをしていただけだ。今なら十分に失態は取り戻せる。


「アデリー。貴女は我が侯爵家の立場というものを、理解する必要があります」


 メイアにとって、アデリーは可愛い義娘だ。幼い頃から息子の婚約者候補として、実の娘同様に思っていた。厳しい事を言ったが、メイアにとって息子の嫁はアデリー以外考えられない。

 メイアの言葉を聞き逃すまいと背筋を伸ばす義娘を見据えながら、メイアは心の中で深く感謝した。

 カルドン侯爵家の危機を防いでくれた、聡明な辺境伯夫人にどうやって報いることが出来るのだろうか。


 




 

 






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転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います③~


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― 新着の感想 ―
いやいやでも、サラナの機嫌をとろうとする男でなくてよかった。それだけが、サラナの救いかな?
 興味は持たれたが、サラナを始めドヤール一門と郎党全員から不興を買ってるから万一の可能性もないんだよなぁ。
シャーロット様が居なかったら終わってましたね…。特に役立たずが喧嘩売っちゃったし
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