66 ミンティ男爵家をご招待
いつも応援、感想、ありがとうございます!
お返事は出来ずに申し訳ありませんが、全て読ませていただいています。そしてニヤニヤしています。
これからもよろしくお願いします。
ミンティ男爵家の皆様をドヤール家にご招待しました、サラナ・キンジェです、ごきげんよう。
「こ。こ。この度は。我がミンティ領とお取引いただけるという事で、恐悦至極で、っでございます」
初めましてのご挨拶のあと。ミンティ男爵はカクカクした動きでお礼を言い、頭を深く下げた。
わぁ、テーブルに頭がぶつかりそうだわ。緊張なさっているわねぇ。
「いやいや。頭を上げてください、ミンティ男爵。こちらこそ、突然の招きに応じていただき、感謝しているのだ」
ペコペコと頭を下げるミンティ男爵を制し、伯父様が気遣うように柔らかな声を掛ける。
無茶を承知で急なお誘いをした原因は、私です。だって、ミンティ芋を早く手に入れたかったのだもの。
面識もない、格上の辺境伯家からの突然のお誘いなんて、胃に良くないですよね。ごめんなさい、ミンティ男爵。
本日は、ミンティ男爵家の皆様をお招きしてのお食事会兼商談だ。
ご招待したのは、ミンティ男爵と夫人、息子のレザック様。そして、私のライバル、仮想妹フローリア様。亜麻色の髪と薄茶の瞳の、可愛らしい令嬢だわ。くぅ。小刻みにプルプル震えているのが小動物っぽい。でも負けない。いくら可愛くても、お姉様方の妹の座は譲らないからね!
それにしても。緊張のせいか、ミンティ男爵家の皆様の目が虚ろだわ。
私たちも色々と話しかけてはみるのだけど、打ち解けるどころか、ますます固くなっていく。
仕方ないわ。ウチのメンバーが濃すぎるもの。
ミンティ家に対峙するように席に着く、ドヤール家の面々に視線を向けると。
まずは、辺境伯家の当主たる伯父様。ムキムキの巌の様な大男。今日は血塗れじゃないのに、通常営業でこの威圧感。
その夫人たるミシェル伯母様。女神のごとく美しく、気品に溢れ。お茶会の主催らしく、ものすごい存在感。
辺境伯家の懐刀といわれるお父様。穏やかながら油断ならない紳士。
その妻のお母様。ミシェル伯母様の相棒にして、ドヤール家の女傑。大人しく見えるのは表面だけ。
辺境伯家の後継とその補佐たるお兄様たち。学生ながら、鍛え上げられたムキムキの身体は、圧迫感がある。
その婚約者たるお姉さま方。月と花の妖精と謳われる美しさだが、ミシェル伯母様仕込みの完璧な淑女。
参謀よろしく静かに控えるルエンさんとアルト会長。ここ一年で貫禄がついて、下手な貴族より凄みがある。
そして。
ユルク王国最強の英雄にして、圧倒的覇者であるお祖父様。
鋭い眼光、厳つい身体、何人どころか、魔獣までひれ伏す覇気。
お祖父様がいるだけで、部屋に負荷がかかったような感覚に囚われる。ピリピリとした緊張感で空気が薄い。
ええ。どこのマフィアの会合かと。お祖父様の横にちんまり座っている私ぐらいじゃ、中和できないわ。ごめんなさい、ミンティ男爵家の皆様。迫力はあるけど、皆、怖くないですよ。そんな、死にそうな顔なさらないで。
「ええっと。今回、お招きしたのは、ミンティ芋の新しい活用法をご相談したかったからです」
気を取り直して私からそう説明を始めたら、ミンティ男爵家の皆様の視線が集まりました。そんな、縋るような目を向けないで。他に視線を向けるのが、怖いのは分かりますけど。
「新しい、活用法ですか? しかし、ミンティ芋はスープに入れるぐらいしか……。それもミンティ芋の色がスープに溶け出てしまって、真っ黒になるので、こういった食事会では敬遠されてしまいます……」
ミンティ男爵はしょぼんと呟く。領地でも色々と調理法を考えてみたけれど、色味がネックでそれほどレパートリーはないようです。
「私、書物を読むのが好きでして。そこから、いくつか調理法を考えてみましたの。本日のメニューでお披露目させていただきますわ」
まだ未成年の私の言葉に、微笑ましいお顔をされるミンティ男爵様。本を読んでうちの芋のメニューを考えてくれたんだなぁ、ありがとう、うんうん、といったところでしょうか。
本当は前世の記憶頼りですが、最近はどこかの本で読んだ知識ですと答えるようにしています。ええ、私の活字中毒は事実ですし、なにより私の名前を冠した図書館があるぐらいですもの。皆様、疑うことなく納得してくださいます。でも改名したいわ。サラナ記念図書館。
私の合図に応じて、ドヤール家の使用人たちが、颯爽と料理の給仕をはじめる。
……給仕している侍女さんや、微笑みながら控えている料理長の顔が、心なしか、ドヤ顔に見えます。
味見をしてもらったミンティ芋料理、大好評でしたものね。料理長なんて、『ミンティ芋の革命だ』と大騒ぎでしたから。どこの料理レポーターかと、突っ込みたくなりました。
ミンティ芋。真っ黒な皮をむいてみたら、中は薄いグレーでした。ううん。確かに色味的に美味しそうじゃないわよね。スープに入れると、魔女の作った薬草スープの様に、真っ黒になりました。
ははぁ。子どもが見た目で嫌うのが分かるわぁ。でも味は美味しい。ちょっと甘みがあって、病気の時に食べたくなるような優しい味のスープだった。見た目とのギャップよ。
それならいっそ、色が分からない様に隠してしまえばいいのでは?と。作ってみたのはコロッケ。ええ。あの庶民の味方、コロッケです。
コロッケなら、お肉と混ぜてしまえば色味もそれほど気にならないし、何より、衣で包んでしまうからね。外はカラッときつね色。
残念ながら、日本人が大好きなソースの再現は難しかったので、中のタネの味付けを濃い目にした。こうするとソースいらずなのよねぇ。私はお肉の旨味と芋の甘さがダイレクトに感じられるので、ソースなしの方が好きだわ。
実は揚げ物は、ドヤール領発信で、人気が出つつあるのだ。
だって、シャンジャで天ぷらを作っちゃったもの。ほほほ。シャンジャ最終日に決行した、前世からの夢だった、ルイカー船での天ぷら。一緒に楽しんだシャンジャ代官のルータス様から、ぜひシャンジャ名物として他の客にも出したいと、懇願されたのだ。
ルイカー船で天ぷらって、船が揺れたら危なくないのかしら? と思ったけれど、ルータスさん曰く、天ぷらが楽しめるのは、ほとんど揺れない内海のコース限定なんですって。内海でゆっくりまったり、食事と景色を楽しむコースと、ルイカー船の速さを楽しむ、アドベンチャーコースの2種類作ったんですって。
どちらのコースも楽しみたいと、シャンジャを訪れたお客様は、皆、2つのコースを予約するので、売り上げは2倍。ちゃっかりしてるわぁ。私はアドベンチャーコースはいいかな。トラウマですもの。
そんなこんなで。新しい物に敏感なユルク王国の貴族たちの間で、天ぷらは有名になりつつあり、揚げ物ジャンルは順調に受け入れられている。コロッケは天ぷらと作り方が違うけど、抵抗なく受け入れてもらえるのではないかしら。
「むっ!」
お皿に綺麗に盛り付けられたコロッケを、豪快に切り分けて口に入れた伯父様の目が、カッと見開かれる。
ザクッ、モグモグと、次々に口に運ばれるコロッケ。まぁ。いつもにも増して、いい食べっぷりだわ。コロッケのCMに起用されそうなぐらい、美味しそうに食べていらっしゃるわね。コロッケのCMって、今時、あるかしら。
「サラナ…。俺はこの味が大好きだ!」
伯父様の顔が、全開で好きって仰っています。え。可愛い。ゴツいのに可愛い。伯母様もちょっと顔を赤らめ、伯父様を愛でている。お気持ちわかりますぅ。
「テンプラとは食感が違うが、美味いな。ふぅむ、何個でもいけそうだ」
お祖父様が天ぷらと比較して頷いていらっしゃいますが。『テンプーラ』と、外国人のような発音なのが、ちょっと気になりました。後で正しい発音をお教えしなくては。どうでもいいこだわりですわね。
「うまいっ!」
「サラナっ。おかわり! おかわりあるよね?」
ペロッと平らげたお兄様方から、子犬顔でオネダリをされました。お姉様方に確認すると、にっこりと了承されています。すかさず、侍女さんたちがお兄様方のお皿にコロッケを追加。他にも料理はでてきますけど、まぁ、お兄様方の胃袋なら大丈夫でしょう。むしろ足りないと、調理室に突進しそうだわ。
お父様もお母様も、美味しいなぁ、美味しいわねと、仲良さげにアイコンタクトしながら召し上がっていらっしゃいます。我が両親ながら仲良し。独り者には少々、目の毒だわぁ。
なぁんて拗ねながら視線を巡らせたら、パチッとアルト会長と目が合って。コロッケをもぐもぐしながら、ふんわり嬉しそうな笑顔を浮かべるものだから、心臓がおかしな音を立てて跳ねました。なんですか、その無邪気な笑顔は。
……美味しい物を食べている時のウチの殿方たちは、どうしてこんなに可愛らしいのかしら。
ルエンさん? いつもどおり泣きながら私を崇めつつ召し上がっていましたよ。最近は見ないふりをするようにしているので、無問題。
一方。ミンティ家の皆様は、無言でコロッケをひたすらもぐもぐしていました。沈黙が怖い。大丈夫かしら? お祖父様たちの威圧感のせいで、味が良く分かっていないのかもと、心配していたのですが。
「美味い。え? 何これ? え? ミンティ芋なのか? これが?」
「お、美味しい! ミンティ芋が、こんなに美味しくなってる!」
「美味い! ああ、もう無くなってしまった……」
「凄い、美味しい。ああ。ダイアナ様たちが仰っていた通り。救いの女神様……」
皆様小声で、ぶつぶつ何事かを呟きながら、しっかり味わっていた。あら、大丈夫そうね。
フローリア様が、私に視線をしっかりとロックオンして、両手を合わせて祈っているのが、若干、嫌な予感がしますわね。
皆様、あっという間に、お皿を空にしてくださいました。概ね、高評価のようです。
……お兄様方。これ以上、子犬顔をしてもお代わりは出ませんよ。お皿をじっとみて、ウルウルしないでくださいな。可愛いから絆されそうじゃないですか。
とりあえず。『色が悪ければ隠してみればいいじゃない作戦』の第1弾は気に入って頂けたようね。
☆☆アーススター ルナ様の特集ページに、『特別CM』あります。お祖父様の声が……!☆☆
★12/1「転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います~2」アース・スター ルナ様より発売中!コミカライズ進行中。
★追放聖女の勝ち上がりライフ 書籍 1~2巻 ツギクルブックス様より発売中!
★「平凡な令嬢 エリス・ラースの遊戯」ツギクルブックス様より、書籍販売予定です。