6 お肌のお手入れは若い時から
大雪に備えて内職仕事を模索しております、サラナ・キンジェでございます、ご機嫌よう。
やはり今年は大雪の年でした。ヤンマさんが「当たった〜」と宝くじが当たったかのように大喜びしていました。そんなに嬉しいものかしら?
大雪は外出するにも不便です。薪も食糧もたっぷり準備しているので、モリーグ村の皆さんも絶賛巣篭もり中。皆さん冬の間は繕いや細工物の内職をするらしいけど、私は自分の飽きっぽさを知っていたので、別の暇潰しを準備しました。
ニージュの花。そう、あの大雪の兆候で沢山生えている花。花びらが白に赤紫で縁取りされた可愛らしい花ですが、辺り一面その花で埋め尽くされた光景はまさに狂乱といった感じで、ちょっと恐ろしかった。冬の大雪でもニョキニョキ伸びて、降り積もる雪に負けじと顔を出して元気に咲いてますよ、こんにちは。
この花は乾燥して細かくし、炒ると咳止めになるらしいが、こんなにいらないわよねぇ。モリーグ村だけで、100年分ぐらいの咳止めが作れそう。
ニージュの花。香りを嗅ぐとフワリと爽やかな、良い匂い。こちらの世界でもエッセンシャルオイルは存在する。どこぞの商会が門外不出で作成方法を秘匿しており、オイルを売っているのはその商会のみ。でも結構香りが強いんだよね、薔薇とか百合とか。ニージュの花ぐらい仄かな香りで作れないかなーと試行錯誤して、少しのオイルと、フローラルウォーターが出来ちゃいました。ひゃっほー!
ところで、フローラルウォーターの作成過程で、手がしっとりすべすべになっているのに気付いた。プニプニすべすべモチモチ。自分のお肌がより気持ちいい。
もしやニージュって肌に良いのかなと、鑑定魔法で確認してみました。あら、保湿性に優れているのね。肌荒れ改善の効果もあるの?これは試してみるしかないんじゃない。
ドヤール領の冬は温暖だったキンジェ領に比べ、バキバキに乾燥しているのよ。肌の乾燥が気になっていたのよね。フローラルウォーターを念のため希釈し、パッチテスト後にお肌につけてみる。ふあー。いい匂い、しっとりすべすべー。フローラルウォーターで保湿した後、潤いを閉じ込めるようにオイルを塗ると。つっぱってガサガサしていたお肌が赤ちゃんの様に…!素晴らしい!やっぱり若いとはいえ、お肌の手入れって大事よね。
そして二つ目。ニージュのオイルを使って、リップクリームとハンドクリームを作ります。
前世ではドラッグストアに豊富にあって、気軽に使えたそれらがないって地味に不便。ガサガサなのよ、唇も手も。冬の必需品がなきゃ生きていけないわ。でもこの世界にはないし、なければ作ればいいじゃない!学生時代はアロマにハマって色々作っていたのが役に立ったわ。
お祖父様が張り切って討伐した魔物の中に、でっかい蜂の巣があった。蜂1匹が犬ぐらいの大きさで、蜂の巣が一軒家ぐらいの大きさがある。それを肩に乗せて鼻歌混じりに帰宅したお祖父様に腰を抜かすほど驚いたわよ。家一軒を担いで帰る60代。いきいきシルバーどころの話じゃない。身体強化を使えば誰でも出来るとお祖父様は仰ったけど、魔物討伐に同行してた伯父様と護衛さん達が激しく首を振っていたので嘘ね。蜂蜜は食事に使って、蜜蝋は美容に利用。あら!これもエコね。前世ではエコバッグすら持ち歩かなかった私が、今世ではこんなにエコに貢献出来るなんて、素晴らしいわ。
蜜蝋と香りつけのニージュのオイル、そしてこの世界で赤ちゃんの肌に塗るカヤという植物からとったオイルを混ぜ合わせる。カヤオイルは家庭でも作れるほどポピュラーなものだ。少し匂いが独特なので、丁寧に精製すると無臭に近いモノが作れたわ。材料は一緒で、配合を変えればリップクリームとハンドクリームの出来上がり。うん、プルプル。
スベスベプニプニを手に入れた私は、ルンルン気分で食堂に向かう。そういえば、伯父様が用意してくださった一軒家は、一部をアトリエとして使用していたが、冬に入る前に全てアトリエとして使用する事になった。私たち一家は毎日夕食だけ領主館で頂いていたんだけど、その後、自宅に帰るのがぶっちゃけ面倒だったのよね。お父様はもう少しお仕事がしたいと領主館に泊まる事も多かったし…。領主館は広いし部屋も沢山あるし、もうここに住んじゃえば?と伯父様達に誘われ、そのまま引っ越しちゃいました。隣だけど。ダラダラ半同棲していたカップルが、一緒に暮らし始めた感じね。
私たちが元々余り自宅に戻らなかったので、使用人さん達も暇を持て余していたので、アトリエに半分残してあとは領主館に移った。アトリエにはダッドさんとボリスさんの泊まり込み部屋や、商会との打ち合わせや会議もあるから、ある程度の使用人さんがいると助かります。
「あら?サラナ?何だか顔色が明るくなったわね?」
夕食後、サロンで皆で寛いでいたら、隣に座っていた伯母様が私の変化に気づいてくださった。ウフフ。
「それに何だかとても良い匂い。まぁ!手もしっとりして。頬っぺたもプルプル、え?唇も?なぁに?何を塗ったの?」
「ニージェのフローラルウォーターで肌のキメが整っているのですわ。あと、リップクリームとハンドクリームで保湿をしていますの」
「ニージェ?あの咳止めの花の事?」
「はい。あの花のオイルとフローラルウォーターを作りました。お祖父様が下さったキラービーの蜜蝋も使っています」
伯母様の手に少量のハンドクリームを塗ってみる。しっとりプルプルの肌に伯母様の目が輝いた。お母様も覗き込んできて興味津々だ。
「ご希望でしたら、伯母様とお母様の分も…」
「「是非お願いするわっ!」」
フローラルウォーターとオイルはパッチテスト後に伯母さまとお母様に差し上げた。沢山出来たから、侍女達にもモニターになってもらう。
「まぁ!手の荒れが気にならなくなったわ。ピリピリした痛みが治まった!」
「バリバリになってたお肌が、つやつやプルプル!」
「きゃー、マイクに最近いい匂いがするからドキドキするって言われちゃった!」
マイクってヤンマさんのとこに来ている文官さんだよなぁ。ウチの美人侍女に何してるんじゃ。仕事しろ。
領主館の中でつやつやプルプルがブームになった。女性だけでなく、男性陣にも人気だ。髭剃り後にフローラルウォーターでスベスベなんですって。お祖父様も伯父様もお父様もツヤツヤよ。女性陣なんて、全身に使ってるよ。作るの大変なんだけど。でも可愛い侍女さん達に「サラナ様ぁ。フローラルウォーターがないと、お肌が粉っぽくなっちゃうんです」ってウルウル目でお願いされたら、嫌とは言えないのよ。可愛い女の子のウルウル目に堕とされるオッサンの気持ちが痛いほど分かるわぁ。仕方ないなぁ、オジサン、頑張っちゃうよ〜ってなるんだわ、きっと。
かくして、せっせとフローラルウォーター作りに励んでいると、自称私の右腕と左腕のダッドさんとボリスさんが、フローラルウォーター作りを村の女衆の仕事にしてはどうかと持ち掛けてきた。冬の間は繕い物や仕立ての仕事をしているが、その中の一つでやらせてみてはどうかと。山のように咲き誇るニージェの花は摘んでも摘んでも無くならないし、私もフローラルウォーター作りに飽きてきたから良いかも〜と軽い気持ちで了承したら、いつのまにかアルト商会のカイさんが召喚されていた。ニッコニコで利益登録の書類と、アルト商会への委託契約書と、賃金条件の書類が出てきました。わーお、魔法みたいですね。
作成に必要な器具はダッドさんとボリスさんが作成して村の集会所に設置。女衆の皆様には家から通ってもらう事になるので、大雪の中、大丈夫かしらと心配だったが、歩けないぐらいの大雪ってわけでもないので、皆さん、集会所に行くぐらい平気らしい。巷で噂の卓上ポットや温熱ファンヒーターが使えるのも魅力の一つだとか。平民でも頑張って手に入れるのが流行ってるらしいからね。
あれ、フローラルウォーター作りも私の手から離れちゃったよ。また暇だわ。
「追放聖女の勝ち上がりライフ」も連載しております。ご一緒にいかがでしょうか。