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5 アルト商会のあれこれ

 魔石装置付きの卓上ポットが爆発的に売れて、大儲けのサラナ・キンジェでございます、ご機嫌よう。


 アルト商会と共に、卓上ポットの量産体制を整え、売れに売れまくっております。素晴らしい。

 貴族家には勿論、裕福な商家から庶民向けまで種類も豊富に取り揃え、アルト会長からは「庶民向けの安価なポットまで作られるとは…。サラナ様は民の生活まで考えておられるんですね」と感動されてしまった。薄利多売を知らないのでしょうか。やはり、一番数が出るのは庶民向けでしてよ。馬鹿には出来ない、この利益は。


 そして沢山集まると魔力を放出して農作物に影響を与えるため、少数ずつ離れた場所に埋めなければならないという、もはや産廃だったクズ魔石の素晴らしい使い途にもなるからね。何度か繰り返し使って、魔力が入らなくなったクズ魔石は、只の小石になるという素晴らしい副産物付き。エコでございます。伯父様とお父様に、クズ魔石問題まで解決したと、凄く褒められて、金一封を頂きました。わーい。


 さて、卓上ポット開発はそろそろ私の手を離れています。今はアルト商会と委託契約を結ぶ鍛治職人と細工職人さん達の合同開発プロジェクトが立ち上がり、どんどん改良されております。さすが本職。色んなポットが出来て、私も楽しいですが、専門家が入るとやはり素人の私はアウェイ感が。もう専門家に任せましょう、そうしましょう。


 私はモリーグ村の鍛治職人さんと細工職人さんと、また違うものを開発中。ちなみに今更ですが、鍛治職人はダッドさん、細工職人はボリスさんと仰います。ダッドさんもボリスさんも弟子に店を任せ、キンジェ家に設けられた私専用アトリエの直属職人みたいになっていますが、宜しいのでしょうか。宜しい様です。


 次に作ったのが、温冷空調機。構造はポットの構造を活かし、形は前世の扇風機兼温熱ファンヒーターといったところ。夏は涼しい風が、冬は温かな風が出る様、ポットとは違い、風の魔力を込めた魔石の挿入口と、火の魔力、水の魔力を込めた魔石の挿入口を分けたのがポイントです。火の魔力で温められた、又は水の魔力で冷やされた空気が、風の魔力で拡散。これ一つでお部屋は快適。冬も近づく時期に、冷たい空気が広がるかの実証実験は、死ぬほど寒かったです。真冬に水着撮影をするモデルの気分を味わえました。余談ですね。


 ヤンマさんと立てた予想では、今年は大雪の予報です。孫バカのお祖父様と姪バカの伯父様と親バカのお父様は、私の言う事を疑いもせず、薪も食糧も大量に蓄えて下さっていますが、まだまだ大量に余っているクズ魔石を活用した冷暖房器具を作って、少しでも領の負担を軽くしたいと考えました。偉いぞ、私。


「おお、素晴らしい、素晴らしいが…」


 完成品6号をアルト会長に見せた所、力無く膝を突いてしまいました。どうしましょう。

 それにしても、イケメンはやつれていてもイケメンだわ。このやつれ具合が、なんともいえない色気を醸し出しているわね。ちょっと弱っているところが、なんとなく母性本能を擽られるわ。前世からお一人様街道を驀進中の私の、あるとは思わなかった母性本能を引き出すなんて、凄いわ、アルト会長。


「前に契約した鍛治職人と細工職人とは別の方をリストアップしていますが、ダメでしょうか」


「ダメじゃないです。ダメじゃないですけど。素晴らしいです、売れます絶対。ウチで絶対引き受けます。ああ、身体が二つ欲しい。いや、三つ」


 ぎゅうっと温冷ファンを抱き締めて、苦悩するアルト会長。切ない声も色気ポイントです。卓上ポットの取引でアルト商会は目まぐるしい忙しさなのだそうです。あら、大変。


「まあ、そんなアルト会長に朗報が。算盤と交渉と契約に強く、お父様の元で暫く鍛えて頂いた商会に就職希望の経験者が3人程いらっしゃるんですが、お店での採用如何かしら?人柄や能力については、私が保証いたしますわ」


「採用しますっ!」


 この方達は、お兄様方の学園の先輩です。ユルク王国の学園は広く学徒を募っていて、能力さえあれば平民でも通え、優秀ならば学費は免除の特待生として学ぶ事ができます。孤児院出身で、学園の商学科を特待生で卒業した先輩3人が、就職先の商会で出自を理由に不当に扱われた上、解雇されたのだとか。

 彼らは暫くお父様の補佐で働いて頂いてましたが、お父様のお墨付きが出る程の優秀さ。このままお父様の補佐としても十分戦力になりますが、やはりご本人達の希望は商家で働く事。良い就職先はないかとのご相談でした。


 お兄様達、私に丸投げ、いえ、全て任せて頂いたので、懇意にしているアルト商会にご紹介してみました。「サラナ、宜しく!」と説明もそこそこ、オドオドしている先輩3人を置いて討伐に向かったお兄様達については、伯父様が教育的指導をするとの事なので、お任せしましょう。


「カイです、宜しくお願いします」


「ギャレットです、宜しくお願いします」


「ビンスです、宜しくお願いします」


 若く溌剌とした即戦力に、アルト会長もニッコリ。出会った頃はうっすらしかなかった目の下の隈が、最近はくっきりはっきり存在を主張していて心が痛かったのですが、これで少し休めるかしら。


「サラナ様。少々ご相談が。アルト商会の支店を、ドヤール領内に作りたいと思っているのですが」


「あらまぁ、私も助かりますわ。喜んで資金提供を致しますわよ?」


 アルト会長の言葉に、私は喜んだ。アルト商会は王都にあり、商談の度にこちらに来ていただくのは大変だったのだ。必要な資金は喜んで出しますよ。前回の卓上ポットの量産体制を整えるための資金も出していたが、ものの2月程で回収出来たのだ。私の商業ギルドの口座にも売上がガッポガッポ入ってきて、使い途に思案していたのだ。


「いえっ……。資金はこちらも十分ございますので、モリーグ村に支店を置く許可を頂ければ」


「え?この村に支店を置きますの?確かにこちらには領主邸がありますけど、港町シャンジャの方が栄えてましてよ?」


 ここど田舎ですよ?畑と山が広がるど田舎。夫婦喧嘩したら次の日には、村民全員が知ってるぐらいのど田舎。


「シャンジャまでは馬車で半日も掛かりません。馬なら2刻。シャンジャに構えるよりも、サラナ様の動向が直ぐに分かるこの村の方が、今後の事を考えて支店を置くに相応しいと存じます」


 ふんわりと微笑むアルト会長。暇人の私の動向なんて、知ってどうするんだろう。


「まあ、アルト会長がそう仰るなら、えーっと、伯父様の許可が頂ければ問題ないかと…」


「御領主様からの許可を頂いてきました!」


 いつの間にやらカイさんが、伯父様のサインの入った許可書を持っている。早いわ。伯父様、ちゃんと書類の内容を確認してサインしているのかしら。お父様に要報告だわ。


「…本当に優秀ですね」


 若干引き気味のアルト様に、私はほほほと笑って誤魔化す。私も引いてるけど、彼らを推薦する立場から、それを知られるわけにはいかない。さすがお父様仕込みだわ。


「ではこちらの魔石装置付き温冷ファンですが、販売予約などは…」


「まだ領主邸と我が家でしか使っておりませんわ。予約もお父様が執務室内でも使いたいという事で、一つかしら?」


「良かった。まだ今回は猶予が…、猶予があるんですね!」


 アルト様が温冷ファンを抱き締め、安堵している。


「…ただ、お兄様達が…。今回、カイさん達のご相談で一時帰省しておりましたが、明後日にはまた戻る予定ですの。その時、温冷ファンを一台ずつ持ち帰る予定ですわ」


「あ、明後日!」


 希望に満ちていたアルト会長が一転、絶望に打ちひしがれている。


「大丈夫です、会長!職人さん達との調整は終わっています。契約書案も出来ています。材料調達の目処も立っています。最終的な職人さん達との面談と細かな所を確認していただけますか?」


「え?え?え、そこまで終わっているんですか?」


「前回はアルト商会さんにご無理をさせてしまいましたから、カイさん達にお願いして、開発と同時に動いてもらっていましたのよ。カイさん達は本当に優秀で、お父様の補佐をしながら、私達にもご助力いただいて…。本当にこのままドヤール家で働いていただきたいぐらいですわ」


 お父様があの手この手で補佐として引き留めようとなさってましたけど、ご本人達の意志が固くて断念してたわ。ショボンとして可哀想なお父様。そうだ!気分が晴れる様に、お父様の温冷ファンには、アロマ機能でも付けようかしら。風と共にふわりと香るアロマの匂い。きっと癒されるはず。


 途端に、カイさん達の顔がグリッとこちらを向く。ひっ。


「サラナ様。アロマ機能とはなんですか?」


 カイさんが圧の強い笑みで迫ってきます。


「あら、私、口に出していました?」


「ダッドさんとボリスさんに知らせてきますっ!」


「アルト会長。温冷ファンに機能追加がありそうです。契約書の修正をしますので、確認を」


 ギャレットさんが走り出し、ビンスさんが契約書案を修正している。なんて素敵な連携プレー。優秀過ぎて、怖い、怖いわ。


「頼もしいっ!」


 ようやく余裕が戻ったのかアルト会長の愉快そうな顔に、私、ちょっとだけ安心しました。

 やっぱり、アルト会長は、笑っている顔の方がいいわね。





書籍化作品


「追放聖女の勝ち上がりライフ」も連載しております。ご一緒にいかがでしょうか。

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[気になる点] >孫バカのお祖父様と姪バカの伯父様と親バカのお父様は、 子供を盲目的にかわいがる親がおろかに見えるから親バカ。祖父・伯父の場合は、祖父バカ・伯父バカではないでしょうか?
[一言] お兄様方は、気遣いはできるんだろうが、 これは解せぬ  お兄様達、私に丸投げ、いえ、全て任せて頂いたので、懇意にしているアルト商会にご紹介してみました。「サラナ、宜しく!」と説明もそこそこ…
[気になる点] 薄利多売は大量生産出来る工業化が必要なのでは? 或いは、ゾンビやスケルトン、ゴーレム等に依る地下工場(ダンジョン)で夜な夜な。。。
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